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花恵さんの寿命が見える  作者: せんたいしょう


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52/61

52話 私たちは同じタイミングで惹かれ合っていたんだね



◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◇


◆◆◆◇◇


◆◆◇◇◇


◆◇◇◇◇


◇◇◇◇◇




『花恵さんの寿命が見える』


 これで何度目だろうか。

 あなたに聞かされた未来の話が、何度も頭の中をぐるぐるしている。


『26歳で、僕と結婚して、僕との間に出来た子どもを出産する時に、弛緩出血で亡くなる』


 あなたの言葉が、重くのしかかる。

 私は、26歳で、死ぬ。それより先を生きられない。あなたと、その間に生まれる子どもと、長い時間を共に出来ない。……産めば。産まなければ死なない。でも、それはただひたすら悲しい。


「どっちも……やだよ。駆馬くん」


 もう涙は出尽くした。枯れた目は、ただ潤むだけ。

 もう何も考えたくないと、枕に願い、私は瞳を閉じた。



◇◆◇◆◇



「天羽花恵」


 何だろう……去年の担任の先生の声が聞こえた。

 いつの間にか、視界いっぱいに体育館が広がっていた。壇上には紅白の布が掛かっている。これは、入学式?


「花恵ちゃん。呼ばれてる。立って」

「え? あ、はいっ!」


 とっさに立って返事をする。


「苺谷文実」

「はい」


 続けて呼ばれた文実ちゃんも、起立する。

 ……ああ、そういう事なんだ。

 これは、夢。

 一年前、高校一年生の入学式の時の夢だ。懐かしい。まだ、中学までの友達しかいなくて、これから新しく友達になっていくんだ。涼子ちゃんとか……駆馬くんとも。

 そういえば、駆馬くんは、一年生の頃は違うクラスだった。だから、まだ、私たちは出会ってなくて。出会うのは、たしか、1ヶ月くらい経った頃、学校の階段の踊り場───


「……え」


 急に、景色が階段の踊り場に変わった。

 夢ならこんな事もよくある、か。

 と、ぼんやりしていると……。


「あっ、ごめん」


 駆馬くんが、階段を登って私の前で止まった。駆馬くん、緊張していて声が小さい。そう、最初はこんな感じに恥ずかしがり屋さんで、下を向きがちだった。第一印象で私は、この人は会話するよりも何か急いでるのかと思って、横にずれて先に行かせてあげようと思っていた。でも……そうならなかった。


「……あっ」

「おっとと」

「……ごめん」

「ううん、ごめんね」

「……ごめん」

「ごめんね」


 私が譲るために横に出した一歩と同じ方向に、駆馬くんも私に譲ろうとして、その横に出した一歩が同じタイミングで同じ方向で……それを一度じゃなくて何度も繰り返してしまった。


「ああっ、ごめん」

「だ、大丈夫」


 そうしていたら、お互いに立ち止まって目を合わせていた。アイコンタクトで、相手側がどっちに行くかを見るために。


「……」

「……」


 目と目を合わせながら、そのチャンスを待っていたけど、いつまで経ってもお互いに動けずにいた。

 こうなれば言葉で譲るしかないと思った私は提案した。


「お先どうぞ」

「ううん、どうぞ」

「私はいいから」

「いいよ、急いでないし」

「私も急いでない」

「それはそれで……困ったなぁ」

「……ふふっ、ふふふ! 何それ! ふっふふ!」


 そんな事で真剣に困ってしまう様子に、私は思わず面白おかしくなって笑っていた。

 あなたは、申し訳ないと思っているような俯きがちな目で、でもチラっと私を見たら、口を少し開けて、この時ほんのりと頬が赤くなったのは、ちゃんと覚えているよ。


「ふふっ、またね!」

「あっ、う、うん」


 そうして、私が軽く跳ねるようにすれ違って、初対面は終わった。

 私はこの時に思った。また会いたいなって。

 そして……今だから分かる。私たちは同じタイミングで惹かれ合っていたんだね、と。


 それから一年、私たちは、たまに廊下ですれ違う度に挨拶をする仲になった。会話は特に無し。私としては、目を見たり何気ない話とかをしてみたくて挨拶してたけど、あなたはいつも目を見てくれなくて、声が小さくて。きっと誰かと話すのが苦手なんだなと当時の私は思って、あなたから挨拶してくれるまでこれ以上私から距離を詰めない方がいいと思ったんだ。学校行事で接点が出来た訳でもなく、本当にたまに廊下で挨拶だけ。


 そうして翌年、2年生になって、同じクラスになったけど、私たちの関係性は変わらなくて。

 運命が変わったタイミングは、2年生になって1ヶ月後の、下校中。もしかしたら私の人生は、ここで終わっていたかもしれなかった。


───バキッ


 凄まじい金属音。無慈悲にも信号機が迫ってくる。


「天羽さんっ!」


 あなたが命を救ってくれた時から、私たちの関係は始まったんだよ。

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