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花恵さんの寿命が見える  作者: せんたいしょう


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50話 10個の未来の分岐


 時が凍ったように、花恵さんは口を開けて固まった。


「な、何それ……どういう事?」

「ごめん。いきなりで分からないよね。もう一度言うよ。花恵さんの寿命が見えるんだ」

「寿命が……見える?」

「そう。花恵さんは、あと10年後の26歳で、僕と結婚して、僕との間に出来た子どもを出産する時に、弛緩出血で亡くなる……ッ」


───ジュウ


 口にした直後、なぜか両手の指先が一瞬だけ熱くなった。……だが、すぐ治まった。なら良し。今はそんな事を気にしてる場合じゃない。


「ちょっと待って。変な冗談やめてよ」

「ごめんね、信じられないよね。でも、本当なんだ」

「本当に……私、本当に、26歳で?」

「うん」

「駆馬くんと結婚して、赤ちゃんのお産の時に……」

「うん」

「……はは、何それ。何で? 何でそんな酷い事言えるの!? 信じられる訳ないよ!」


 花恵さんが、僕に怒りをぶつけてくる。

 僕だってこんな酷い事は嫌だ。言いたくない。胸が焼けるように苦しい。でも───


『ご……め…………んね』


 あんなの、もう言わせないから。



「今までにもあったんだよ。花恵さんが死ぬかもしれなかった場面が」

「……え」

「最初は、信号機が折れてきた時。僕が助けなかったら、花恵さんはそこで死んでいた」

「……」

「不自然だよね。普通、あんな状況で飛びかかって助けに行くなんて、未来が見えないと出来ないよ」

「……」

「その後も。雨の日に車に轢かれる未来を、相合傘でズラして───」

「止めて!」


 花恵さんが、真下を向く。表情が見えない。


「私を守るために……今まで?」

「うん」

「パン屋の手伝いも?」

「うん」

「……そのケガも?」

「うん」


 花恵さんが、ゆっくり僕の方へと近付き、僕の肩にそっと手を置いた。


「私のせいで……駆馬くんが不幸になってるの?」

「えっ……」

「だってそうじゃん! 私が危ない目に遭うのを、駆馬くんが代わりになってくれてたんでしょ? そのケガ……本当は私のだったんでしょ?」

「……そう、だね」

「……分かった。そうだよね、そんなに痛い思いをしてくれたもん。信じるよ。ごめんね、怒鳴っちゃって」


 少しずつ信じてくれている。


「いいんだよ。僕の方こそごめん。訳分かんないよね」

「ううん……もう大丈夫。駆馬くんが辛そうにしてるの、前から何度もあったから、そういう事なんだなって……信じなきゃって分かってるの。でも……」

「でも?」

「結婚しちゃいけないの? 赤ちゃん欲しいって思ったらいけないの? そんなの……あんまりだよ……」


 信じたら信じたで、残酷な運命を受け入れる事になる。


「駆馬くんと、ずっと一緒に……おじいちゃんおばあちゃんになるまで一緒に……でもその為には赤ちゃんを作っちゃダメで……ダメじゃないけど、産んだら私が死んじゃうから駆馬くんとずっと一緒にはいられないなんて…………どっちも選べない。選びたくない。私、まだ何となくのぼんやりとだけどね、駆馬くんが隣にいて、子どもがいて、そのまた子どももいて……誰一人欠けずに一緒にいたいなって……そんな未来を…………」


 ぽろぽろと零れる涙を、僕は止める事が出来なかった。僕自身、悔しくてどうしようもなくて、花恵さんに何て言葉をかければいいのか分からない。

 僕自身、頭の中がぐちゃぐちゃだ。この事実を伝えて、じゃあ僕が今後どうしていきたいかのメッセージが何も浮かんでいない。


「……ごめん。帰る」


 口を抑えた花恵さんが、嗚咽を堪えてそう一言絞り出して、走るように去っていった。

 僕は、引き止める上手い言葉を言えず、その後ろ姿を見る事しか出来なかった。

 あまりにも大きすぎる問題だ。答えを出すのに時間がかかる。今この場で答える事は僕も望んでいない。産むのは女性だから。花恵さんがどうしたいかで変わるから。死ぬと分かって産むか、産まずに長生きするかを。……でも、そのどちらも、最高の幸せではないと思う。本当に、こんな残酷な選択肢しかないのか。


「……は?」


 そう自分自身に憤っていた───けど。

 ふと見ると、右手の爪にも、あの数字が。

 小指に56y。薬指に68y。中指に61y。人差し指に65y。親指に74y。

 右手の5本とも記されている。


「これも、寿命? もしかして、夢で見れるのか?」


 再び、親指を見る。親指が一番大きく……90歳まで生きられる未来が分かるのだと思われる。

 嬉しい事なのだが、あまりに突然で、喜ぶタイミングを失った感覚だ。こんな事今まで無かった。いつの間に? 思い当たるとしたら、花恵さんに打ち明けて、指が熱くなって…………両手……


「はっ、こっちも!?」


 左手も見てみる。すると、思った通り、左手の全ての爪にも同じような数字が。

 小指に49y。中指に60y。人差し指に55y。親指に68y。

 今まで左手薬指だけにあった数字が、両手の指の爪にも記されている。増えた9つ全てに言えるのが、左手薬指よりも格別に長生きするという事。


 ……10個の未来の分岐。


「一番長くて90歳……短くて65歳……はは、はははは」


 不意に、渇いた笑いが出た。


「長生き、できるじゃん。変な冗談で済むじゃん。幸せにする選択肢が、まだあるんだ」



◆◇◆◇◆



 早速帰宅してベッドに。74yを見てみる。すると……。


 いつも通りの、白黒の世界。


 その病室のベッドで、シワの多い痩せた高齢女性が眠っている。心臓の音を示す機械を見ると、そのリズムが不規則だ。

 その周りには、僕の知らない高齢の男性や、50代の男性、若いカップル、中学生の女子や、幼稚園児など、大勢が囲んでいる。

 おそらく、天寿を全うする寸前、なのだろう。

 花恵さんは、こんなにも大家族に見守られて、愛されて、90歳で旅立つのか。


 ……しかし、妙だ。この高齢の男性、80から90歳くらいだけど分かる。僕とは特徴が違いすぎる。輪郭も目付きもだけど、身長が16歳の今の僕よりも大きい。普通、縮む事はあるけど、伸びる事なんて無いから。


 ……。

 嫌な予感がした。


 僕は、病室の外に出る。そこには花恵さんの名札が付いていた。そこには……



 檜並花恵



 ……。

 ……。


「……ああ、そうか。そういう事か」


 花恵さんは、この檜並って人と結婚したら、長生きするのか。

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