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4話 おはよう

「次のニュースです。昨日の午後4時半頃、T町の交差点にある高さ約3メートルの信号機が根元から倒れました。横断していた高校生2人にケガは無いという事です。倒れた原因は、連日の強風と劣化によると推測されており、警察が詳しく調査しています」


 すごい事になってるらしい。

 朝目が覚めて、自室のテレビを何となくつけたら、よく知るあの場所が映っていた。立ち入り禁止のテープが張られ、大勢の警察が写真を撮ったり交通整理とかしている映像が流れていた。


「ふぁぁ…」


 ベッドの上であくびを一つ。

 昨日のあの後は、寝起きでも鮮明に思い出せる。

 抱き合って沸騰した僕。

 そこに柿が僕の頭に落ちて、その痛みで天羽さんから離れて悶絶。頭を抑える僕の手に、何とか落ち着いた天羽さんが手を添えて心配してくれた。柔らかい手とその優しさに、また湯気が出そうなくらい頭が熱くなる気がして、僕は全速力で走って帰宅してベッド直行。気付いたら今日になって、今に至る。

 本当に、昨日は色々ありすぎだ。まだまだ熱が抜けきっていない。


「はぁ…寝足りねー。サボろっかな…」


 ゴロンと寝て、ふと、左手薬指の爪を見る。

 それは、眠気を覚ますには、充分だった。


「…………」


 深呼吸。

 改めて思う。この数字は、まさしく、天羽さんの寿命。

 考えたくないけど、もし僕が気付くのが遅くなっていたら…ゼロになって…


    死…


「駆馬」

「っ!?」


 部屋の扉から声が聞こえた。


「お、おはよ。どうしたの?」


 僕がそう言うと、お母さんはドアを静かに開けてくる。


「おはよう。まだ疲れてるみたいだね。学校、行けそうかい?」

「学校は……悩み中」

「そっ。まぁ、今日は休んで家に居るのも良いと思うよ。けど、今、花恵ちゃんのお父さんが来ててさ。挨拶だけでも出来るかい?」


 ...今、何て?


「聞いたよ。あんた昨日、花恵ちゃんが危ない所を助けたんだろ? 良い事したねぇ。だもんで、そのお礼をしに来るって昨日電話があったんよ。けど、あんた寝てたからねぇ」


 天羽さんのお父様が、来ている。

 天羽さんを生んで育ててくれた方。

 待たせる訳にはいかない。


「ぬぅぅぅん!」


 布団を蹴飛ばして跳ね起き、カーテンを開ける。おはよう僕。くよくよタイムは後で。また今度たっぷり悩むとしよう。


「ちょ、そんな急がんでええよ。朝の支度が終わるまで車で待ってるってさ。もし学校に行くなら乗せてくれるし、行かないならその通りにするってさ」

「ん、分かった!」


 と言う頃には着替えを終える。速攻で寝癖を直し、玄関で靴を履いた…その時。


「駆馬。忘れ物」


 お母さんが僕を呼び止める。その手には、いつも持っていくお弁当の包みが。


「ねぇ。さっき休んでいい…って。行くかどうか分からなかったのに、作ってくれてたの?」

「一応、ね。とりあえず休むよう言ってみたけど……いらんお節介だったね。駆馬は、むしろ学校に行く方が元気になるみたいだし。花恵ちゃんに会えるもんね?」

「ちょっ!? か、関係無い…と思うよ」

「あははは! ごめんごめん! ははは!」


 お母さんめ……僕で遊んでる。言い返したいけど、肯定も否定も出来ない。心を読まれてる。

 …しかし、まぁ。そこに関して嫌な気持ちは無い。お母さんは、心配しながらも、僕の行動を見透かしてお弁当を作ってくれていた。すごく助かる。だけど、それくらい僕をよく見てくれて、察して、支えようとしてくれてる。

 優しさにこれ以上甘えてはいけない。でも、今僕に出来る事は、その優しい笑顔から視線を逸らす事だけだった。

 

「その……心配かけてごめん」

「全くだよ。無事に済んだとは言え、あんたに何かあったら嫌だからね」

「…うん」


 本当に、昨日みたいな事にならないよう気を付けないと。天羽さんを守れて良し、なんだけど、お母さんにこんなに心配させるのは、僕だって嫌だ。

 …なんて恥ずかしくて言える訳も無く、心の中でこっそり呟いて、僕はお弁当をしっかり受け取る。

 

「じゃ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。ケガしないでね」

「うん!」


 お母さん。心配しながら送り出してくれて、ありがとう。

 進め。天羽さんを守る為に。

 左手を、薬指の爪を隠すように握る。僕も、天羽さんも、ケガしないように。そう決意を込め、僕は玄関を出た。




「……え?」


 だが。僕はまだ、寝ぼけていたらしい。天羽さんのお父様だけが来ていると思い込んでいたから…


「おはよう!」


 天羽さん本人が、制服を着て、家に来て、僕に手を振って、こっちに来てくれているだなんて、予想外だった。

 どうしよう心の準備が何も出来てないどうするどうするどうする…


「石上くん? 大丈夫?」

「あ、その、えっと」

「もしかして、疲れが取れてない?」

「や、もぅ、大丈夫」

「そう? なら良いけど。無理しないで私に言ってね」


 ニッ、と微笑んで、場の空気を優しく包んでくれた。緊張で言葉が噛みまくりの僕に気遣ってくれた。天羽さんマジ天使。


───ガチャ バン


 そんな事を思ってる時、車のドアが開く音が聞こえた。


「駆馬くん。驚かせて申し訳ない」


 運転席から誰かが降りて来た。ゴリラの如き筋肉隆々で高身長な、スーツ姿の男性。肩がパツパツに張っていて、力を込めたら服が炸裂しそうな威圧感がある。


「ありがとう。娘を守ってくれて、本当にありがとう」


 ニッ、と柔らかく微笑み、僕の手を両手で包んで握手。いつ、この人に喜ばれる事をしたっけ…と思ったけど、今、気になる事を言ったな。


「娘?」

「うむ。花恵の父親だ。宜しく頼む」


 先程の微笑みと違い、1人の娘を16年守ってきたぞと言わんばかりの深みを感じさせる微笑みだ。出来る男オーラなんて表現するのは幼稚だが、そんな感じの大人の貫禄に圧倒されてしまいそうだ。

 ここは男として、なんとか挨拶しなければ!


「おおお初にお目にかかります! 僕の名前は石上駆馬です! 晴天眩しい朝早くにご足労頂きまして誠に感謝の極みでございますぅ!」

「はっはっはっは! 面白いな! しかし、かしこまる必要は無いぞ。私たちの好きでやる事だからな!」


 なんと。僕の失態を笑い飛ばして下さった。器が大きい。


「さぁ、制服を着ているという事は、学校に行くのだろう。乗ってくれ。君に礼を言いたいと、娘が張り切っていてな」

「パパ! もう! もう!」

「はっはっは! 花恵も面白いな」


 ああ。ぷんぷん怒る天羽さん、良き。パパと呼ぶ天羽さん、良き。

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