39話 これが、デート
そして電車に乗った僕らは、まだそれほど暑くなかった頃に行ったトヨカドに到着。
その3階にある映画館へ。予定時刻ぴったりに着いたものの、別のアニメ映画の宣伝が流れるのを、2人でぼんやりと見る。監督やメインキャストが一瞬映ると、天羽さんが「はっ!」と息を飲んだ。
「カピバラざえもんの人と同じ声優!」
「え、本当に? どれが?」
「さっきの青い髪の女の子! ピストルでゾンビ倒してた子!」
「へぇ、そうなんだ! よく気付いたね!」
「へへへ〜! 名前が出て、それでね! 声聞いただけじゃ分からないもん!」
「だよね。声優さんって凄いよね」
同じ人が演技していると想像すると……一瞬、変な想像をしてしまった。ゾンビのあふれる世界で、カピバラざえもんが、ぽてぽて走るのを。そして、すぐゾンビに噛まれるけど、体が柔らかすぎてゾンビが目を点にしてポカンとするのを。……おかしい、逆に見てみたくなった。
◆◇◆◇◆
そうして、天空のラピュタピュが始まった。観てる時、会話は出来ない。でも、僕らはジェスチャーや表情だけで会話を楽しんだ。
ヒロインの少女が空から落ちた時に光る石の力でゆっくり落ちたシーンでは、2人して同じタイミングでホッと一息ついたり。
主人公の兄貴分の大男が力を込めるだけで上着を爆発させて敵を驚かせるシーンでは、2人して見合って笑ったり。
主人公とヒロインが洞窟の中でトーストと目玉焼きを大事に食べるシーンでは、パン職人としての真剣な眼差しで目を輝かせていて、微笑ましくてクスっと笑えたり。
そんな反応を見る度に、心臓がドクンと跳ねる。
これが、デート。2人だけの秘密の会話。
僕だけが知る、君の笑顔。その一つ一つが尊くて、一瞬だけれどずっと見ていたくて。何だか流れ星を見ているように、綺麗で、儚くて。
だから僕は、君を、見たくなる。
◆◇◆◇◆
「はー面白かった!」
「……うん。面白かった」
気付けば、あっという間に映画は終わっていて、エスカレーターに乗っている。映画は確かに面白かった。でも、それ以上に、君の色んな表情を見られた事に満足しているような感覚だ。
「あ、そういえば、お昼ご飯どうする?」
ふと、店内を歩いていると、フードコートが目に入る。
「あっ、……その、お昼なんだけど」
天羽さんが、トートバッグに手を入れる。そこから出したのは……一つの包み。
「サンドイッチ、作ったの。どうかな?」
「召し上がらせていただきます」
もちろん即答。
「ふふ、そんなに? この前のオムライスもだけど、石上くんって食べる前から嬉しそうだよね」
「うん。天羽さんの作るものは美味しいし、何よりも相手を気遣って食べやすい大きさとか固さにしてるじゃん」
「えっ……そ、そう言われると、そうなんだけど、そんなにも?」
「そんなにも。すごく優しさの詰まった物を作れる、すごい人だよ」
「……えへへ。そっかぁ。自信になるよ。ありがとう」
と、照れてはにかむ天羽さんに心を射抜かれて、何故かお腹は減ってるけど心が満タンになったタイミングで、フードコートの端の席を見つける。
「ここにする?」
「うん。いいと思う」
席に着く。
そして、天羽さんが包みを開け、お弁当箱を開ける。中には、薄くスライスされた食パンに挟まれた、4種類のサンドイッチが。ハムとレタスのサンド、ベーコンと卵のサンド、ピーナッツ色のサンド、苺とホイップクリームのサンドなど。どれも食欲のそそる見た目をしている。
「やばい。絶対美味しいやつだ」
「ふふ、どうでしょうね? 食べてみて」
「うん! いただきます!」
まずは、ハムレタスのサンドを一口。シャキシャキと心地良い音が響き、隠れていたマスタードの刺激が舌を踊らせる。お味はもちろん最高。そして、忘れた訳ではない。天羽さんの自作のふわふわ食パンも、パンだけで充分食べれるほど香ばしい。薄く、具材を主役にさせる絶妙なバランスで、噛むのが止められない。止まらない。ものの一瞬で食べ終えてしまった。
「はぁ〜…………さいっこう」
「ふふ、ふふふふ」
その僕の様子に、天羽さんはクスクス笑う。僕も、恥ずかしいけれど、天羽さんのその無垢な笑顔に、つられて笑う。
これが、デート。2人だけの秘密の会話。
◆◇◆◇◆
そうして、僕は一瞬で食べ終え、目を閉じて余韻に浸る。
「お腹は膨れたかな?」
「うん。丁度良いよ」
「そっか。良かったよ」
「……ねぇ、天羽さん」
「何?」
「……また、ピーナッツの、また今度作って」
「えっ!? そ、そんなに美味しかった?」
「うん。全部美味しかったけど、その中でも特にね。ピーナッツとバターと、隠し味の塩キャラメルにもびっくりだし、何ていうか、お腹が喜んで、逆にお腹が空いちゃった感じでさ」
目を閉じたまま、思い返す。あまりの美味しい神バランスに、口に詰め込むようにみっともなく食べてしまい、味わう時間が一番少なかった。だから、わがままだと分かっていながら、こんなお願いを口にしてしまえた。
「……また、2人で遊びに行った時に、ね」
「そうだね。楽しみだよ」
「……うん!」
……言ってから、気付く。
たった今、2回目のデートをしよう、と約束した。
何の心の準備も、行き先も決めていない。急に、天羽さんを振り回していないか不安になってきた。ただでさえお昼ご飯を天羽さんの善意で作ってくれたのに、また作ってほしいと言ってしまったし、天羽さんを楽しませる行き先を何か一つでも決まっていない。ああああ最高にかっこ悪いだろ僕よ。
「石上くん?」
「ああごめん、困らせてないかなって」
「え、どうして?」
「だって、行きたい所を決めてないのに、無責任に約束したじゃん」
「……ふふ。そこを心配してたのね。大丈夫だよ。石上くんとなら、どこに行っても楽しいから」
「っ……そ、そっか。それなら良かった。うん」
目を逸らしてしまった。真正面に、僕に優しく笑いかけてくれているのに。笑った顔をずっと見ていたいと思っていたのに。
……まぁ、考えるのは後にしよう。
これは、デートだから。
今この瞬間が、温かく、心地良いから。




