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花恵さんの寿命が見える  作者: せんたいしょう


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38/61

38話 凄く凄く可愛い

 翌日。僕は、週末の出勤で天羽さんの家に来た。そして、1ヶ月半と通い慣れた玄関を開ける。


「おはよう」

「おはよ! 今日も宜しくね」


 ……しかし、いつもと違い、心臓バクバク。どこに誘えばいいのか……それで頭がいっぱい。僕が遊びに行く事なんて、中学の頃までは同級生とサッカーしたり、ゲーセンに行って格ゲーしたり、片桐の家でモンスターをハントするゲームをしたり……。どれも男子だけが集まるような遊びだった。それを天羽さんにもやらせるのは……違うと思う。天羽さんの楽しめる遊び、何があるのか。そもそも今は季節的に外を歩き続けるのは暑くて難しい。屋内で楽しめる所……。


「石上くん、何か悩み事?」

「うん……ちょっとね、この暑い時に遊びに行くとしたら、どこが良いのかなって」

「ん〜そうだなぁ……私なら映画館かな」

「あー、映画館ね。どんなのを見るの?」

「え、私? んとね、初めて見ても分かるような映画なら、アニメでも実写でも好きかな。月一で行ってるよ。だけど、ホラーは嫌いかな」

「あっ、そうなんだ。すごい奇遇だね、好きな所も嫌いな所も、僕と同じ」

「そうなんだ! じゃあさ、『天空のラピュタピュ』、石上くんは知ってる?」


 天空のラピュタピュ。前人未到の空飛ぶ城を目指して少年少女が冒険するアニメ映画。シンプルな話で、初見でも楽しめると話題になっている。


「知ってるよ。まだ予告しか見れてないけど、面白そうだなって気になってるよ」

「面白そうだよね! 私もまだ見に行けてないから、明日とか、どう? 見に行ってみる?」

「明日? 特に予定も無いよ。見に行こう」

「やったー! じゃあ明日の10時に駅で待ち合わせね!」

「うん!」


 ……あれ? 何か、スゴい速さで決まってしまった。じわじわと遅れて一つ疑問が浮かんだ。


「あ、天羽さん。あのさ、もしかしてだけどさ……他に誰か来る?」

「……来て欲しいの?」

「っ」


 質問に質問で返された。でも、その意味合いは、間違いなく。


「……ううん、2人で行きたい」


 そう返事してから、僕らは互いに目を合わせる時間より、下を向く方が多くなった。



◆◇◆◇◆



 そうして何とかバイトを終えて、明くる日。

 僕は珍しく、目覚まし時計よりも早く目を覚まし、今持っている中で一番かっこいい服を着る。アイスグレー色のポロシャツに、下に向かって細くなるブラック色のテーパードパンツ、磨きたてのホワイト色の通学用スニーカー。僕にとってはカッコ良くても、天羽さんからしたらどうだろうか。髪型はいつも通り。服の色はシンプル。スニーカーはいつも学校で履いている物だ。ガッカリされないだろうか。

 ……なんて不安ばかり考えているうちに、約束の駅に着く。予定より30分も早く到着してしまった。天羽さんは、まだ居ない。でも、逆に良かった。不安になって沈んだ気分を戻すために、ちょっと時間が欲しかった。

 ふぅ、と顔を上げて、気晴らしに見渡す。駅のホームの掲示板に、夏祭りの広告があった。23日後。通り魔の対策は出来ている。僕は、あの夢のように幸せいっぱいな天羽さんを、この目で見たい。今日、僕はその為に……告白を……


「石上くん!」


 声の方を見る。


「天羽さ───」


 呼吸が、止まった。

 声が、出なくなった。

 それは、夏の天使。

 白色バケットハットの奥で、恥ずかしげに笑顔でこちらを見つめる。その目尻はアイラインの化粧で、より一層立体感のある笑顔になっている。

 耳には小さな真珠のイヤリング。さらさら栗色ロングヘアは白色リボンを付けたツインテールでまとまっていて見やすくなっている。

 服は、肩を出している純白色カットソーで、つやつや肌を顕にしている。そして、かつて見せてくれた桃色の花柄マーメイドスカートも相まって、暑い夏でも爽やかさを感じさせる。

 鞄は、肩掛けでふっくらと膨らんでいる四角いトートバッグ。大きめの水筒も入りそうな程に大きい。

 足元は、足の甲にX字型で巻かれている黒色クロスベルトサンダルに、よく見ると足の爪に桃色のネイルが塗ってある。見れば見るほど華やかさがあり、夏を全身で楽しんでいる。サマー・エンジェル。


「どう、かな」

「……えっ!?」


 目でチラリとこちらを見つめ、すぐ下を向く天羽さん。似合っているかを聞いている事はすぐに分かった。そんなの、似合っているに決まっている。でも、この気持ちをどう表現すればいいか、言葉が出てこない。


 『言葉がバラバラでもいいから、誠意を伝えていこ』


 苺谷さんの言葉を、思い出す。

 そうだ。言葉はバラバラでもいい。もっと大事な、伝えたい気持ちを心の中いっぱいにして、伝えるんだ。僕は変われた。言えるはずだ。


「…………か……可愛いよ。凄く……凄く凄く可愛い。可愛すぎて、何て表現したらいいか分からない。……ごめん、あんまり見てると頭がボーっとしちゃうから」


 僕は、思ってる事を何とか口にして、視線を外す。頬が、おでこが、熱い。心臓がバックンバックンする度に、頭が揺れるようで。何とか倒れずに済んでいるけど、直視は控えた方がいい。


「そんなに……可愛い?」


 天羽さんが、震える声で聞いてくる。

 僕は、声を出す余裕が無く、視線を外したまま頷く事で返事をした。

 すると……


「えへへ。へへへへ。えへ〜」


 天羽さんが、頬に両手を当ててふにゃふにゃと笑った。


「ごめんね、そんなに褒めてくれるなんて思ってなくてね。凄く嬉しいよ。頑張った甲斐があったなって。ありがとうね」

「うん。良かったよ。凄く頑張ったと思う。天羽さんはお洒落さんだね」

「へへ〜。またそんな事言って。えへへ。でも、石上くんもね、カッコ良いよ。爽やかだね」


 恥ずかしげな笑顔で褒められた。瞬間、さっきまでの雑音が消えた。胸の奥がくすぐったい。カッコ良いと言われたのに、カッコ悪く飛び跳ねたくなった。


「……はは。ありがとう。照れるよ」


 何とかカッコ良いままでいられるように気持ちを律する。そして、これ以上褒められたら本当に飛び跳ねそうだ。だから、僕は天羽さんの手を取り、前もって買っておいた切符を見せて、こう言った。


「行こっか」

「……うん!」

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