表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花恵さんの寿命が見える  作者: せんたいしょう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/61

37話 告白の特訓

 苺谷さん監修。

 告白の特訓が、始まった。


「いい? まずは、今ここで。『好きです。付き合って下さい』って、言ってね」

「……あ、それは、その」

「分かってるよ。私はただの花恵ちゃん役。私を花恵ちゃんだと思って言ってね」

「……」

「いい?」

「は、はい」


 苺谷さんの真剣さに気後れしてしまったが、僕のためを想っての事だ。このご厚意に応えてみせないと。


「す………………………………すきです。つきあって……くださぃ」

「聞こえない。ダメ。もう一回」


 冷めた視線でサクッと最低評価を頂いた。


「す、すきです。つきあってください」

「まだ小さい。もう一回」

「すきです! つきあってください!」

「聞こえるけど、棒読み。もう一回」

「好きです! 付き合ってください!」

「ん。ちゃんと聞こえた。良いね」


 ようやく、合格をもらえたようだ。

 もう既に口がカラカラに乾いている。


「じゃあ、今度は」


 そう言って、苺谷さんは僕の隣の席に座った。肩が触れ合うかギリギリかの近さで。


「花恵ちゃんが隣にいるパターンで」

「……え?」

「こんなに近いから、声が大きけりゃ良いって訳じゃない。声が程よく小さく、ささやくように言ってみて」


 2回目にして、真逆の伝え方。果たして出来るだろうか。


「……す、好き…です。付き合っ…て下さい」

「視線が泳いでる。最初はこのコップあたりを見て、最後の『下さい』で私を見て。もう一回」


 確かに視線も大事だ。緊張してる事を天羽さんなら敏感に気付くだろうし。


「好きです。付き合って……下さい」

「ん。良いね。視線から本気なのは伝わると思うよ」

「……うん。ありがとう」


 ほっと一息。


「じゃ、次」


 まだ不充分らしい。よし、ドンと来いや!


「丁度カラオケ来てるし、ありったけ大きい声で」


 と。苺谷さんは耳に手を当て、部屋の隅に。


「あの……、そんなシチュエーションあるのかな?」

「ある。海に向かって告白する時」


 なるほど。確かに、海にデートに行って告白するかもしれない。さざなみで掻き消えないように、声を張れるようにしないと。

 息を、いっぱい吸って吸って……


「好きでぇぇぇぇぇぇぇぇぇす!!」


 脳の酸素も使い切り、目が眩んでしまった。

 苺谷さんの評価は……


「まだ足りない。もう一回」

「ええっ!?」

「波の音に負けちゃうよ?」


 その一言を信じて、息を整える。

 もっともっと大きく。

 僕の天羽さんへの想いは、波の音なんかに負けない。負けてたまるもんか。


「好ぅぅぅぅぅ!! きぃぃぃぃぃぃ!! でぇぇぇぇぇぇぇぇ!! すぅぅぅぅぅぅ!!」


 何度も息継ぎをして。最後には裏返って。全身で力を込めて声を絞り出した。立てなくなり、どかっと席に体を預ける。


「よく頑張った」

「……ありがと」


 苺谷さんが、微笑んで僕の頭を撫でる。

 お礼を言って目を見ると、何故だか逸らされ、強めに撫でられた。……わざと目を合わせないようにしている……なんて、考え過ぎか。



◆◇◆◇◆



 その後、カラオケを出てからも、特訓は続いた。

 カップルの集まるカフェでホットケーキを食べさせ合いっこをして、告白。

 プリクラで撮影する直前に耳元にささやいて、告白。

 人のいない路地裏で壁ドンして、告白。


 ……苺谷さんが、本当に凄い。これほど様々な場面で、僕に足りない所や褒めるポイントを的確に教えてくれた。

 少しずつ、声を大きくしたりはっきり言ったりと、苺谷さんからの助言で改善していって。そして、その言葉に心を込めていく事が出来た。最初は、相手を天羽さんと思って言っていたけど、こんな自分のために協力してくれる苺谷さんへの感謝も込めていくと、すんなりと言葉が出るようになった。

 そう。言葉は大事だけど、もっと大事な、感謝したい気持ちとか、信頼を信頼で返したい気持ちを、心の中いっぱいにして伝えるといい。その事実に、ようやく気付けた頃には、リテイクが減っていた。



「じゃあ、最後の特訓」


 時間はあっという間で、夕暮れ時。帰り道を歩いた僕たちは、苺谷さんの家が見える所まで来ている。塀や門で敷地が囲まれ、瓦屋根や漆塗りの木の壁が重厚感を思わせる、古き良き和風建築。

 ここで、最後の特訓をするようだ。どんな内容なのかと思っていると……、苺谷さんが僕の両手を取って……


「駆馬くん」


 聞き慣れない呼び方に、僕は耳を疑った。


「い、苺谷さん?」


 目を見ると。苺谷さんは、合った視線を逸らし、目を閉じ、何か覚悟を決めたのか呼吸を整えて目を開けた。


「駆馬くんは、花恵ちゃんのために、つらい顔を見せない。笑顔でいられる、優しくて強い人。普段はマイペースで眠そうだけど、でもね、花恵ちゃんの為となると真剣な眼差しになって……そんな横顔を、私は目で追いかけてたの。そんな駆馬くんだから、私、少しでも役に立ちたくて。頑張ってみた。駆馬くんの笑顔が増えて……嬉しいよ」

「な……え?」


 突然の絶賛で何から返事すればいいのか分からない。そんな僕のうろたえを、苺谷さんは手の握りで遮る。


「駆馬くんの笑ってる所、もっと見たい。ううん、私にだけ見せて。だから、私と……付き合って下さい」

「!!!」

「って言われた時、君ならどうする?」

「へっ!? え? えええええぇ!?」


 急にコロッと普段通りのポーカーフェイスに戻った。握られた両手が放される。


「逆に告白されたら落ち着いていられるかの特訓。ガチだと思った?」

「う、うん」

「ふふん。なんか優越感。ふふふん」

「うん、本当かと思ったし、凄かったよ」

「……ふ〜ん。私の事、意識しちゃった?」

「えっ……その……」

「ふふ、ごめんね。ちょっと意地悪な特訓だったね。忘れて」

「わ、分かったよ」


 パン、と苺谷さんが手を叩く。


「冗談は置いといて。さて、お疲れ様。特訓は終了だよ。言葉がバラバラでもいいから、誠意を伝えていこ。告白、頑張って」

「……うん。ありがとう。本当にありがとう。絶対成功させるよ」

「……ん。それじゃ、またね」


 手を振り、苺谷さんは一歩、また一歩。

 ……五歩目で、くるりと振り返り。


「ばいばい、駆馬くん」

「!?」

「ふふっ。ばいばい、石上くん」

「……うん。ばいばい」


 苺谷さん……僕で遊んでるのか、それとも……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ