31話 天羽さんの部屋
そうして。僕は、ジグソーパズルの散らばったピースを集め、一つ一つ合わせていく。天羽さんは、キッチンで今日の作業をキリの良い所まで済ませてから参加するという事で……。
「ごめん! お待たせ!」
「大丈夫だよ」
「……うん、ありがとうね」
天羽さんが僕の隣へ。ほんのりと、小麦粉の香りがする。
「……天羽さん。パンの良い香りがするんだけど」
「え? あ、そうだよね。あんまり長くこの部屋にいると、ここに居た事が匂いでバレちゃう」
「だよね。……じゃあ、キッチンで? でも、あそこも良い香りが凄いし」
「……石上くん。一つあるよ。パパにバレないで、パズルにも匂いを付けない部屋が」
「本当? どこ?」
「……わ、私の部屋」
「……………え?」
思考が止まった。
◆◇◆◇◆
僕は今、天羽さんの家の2階へと続く階段を、一段ずつ上がっている。一度も足を踏み入れた事の無い領域。天羽さんの部屋。天羽さんが、毎日眠る場所。
天羽さんがジグソーパズルのパネルを持ち、僕がバラバラになっているパズルを袋に入れている。たったこれだけの軽い荷物なのに、落とさないようにギュッと握ってしまう。
「……電気付けるね」
カチ、と壁のスイッチを入れると、その全容が明らかに。
全体的にカピバラざえもんの人形やらキーホルダーが大量に飾ってあるが、まず目に付いたのが、薄い桃色のベッドの上に寝そべる、この部屋で一番大きいカピバラざえもんのぬいぐるみ。ベッドの四分の一を占める大きさだ。おそらく、あれを抱きしめて天羽さんは眠りについているのか……羨ましい……いやいや何を考えているんだ僕は。
「あの」
天羽さんが僕に面と向かう。
「……そんなに、じっくり見られるのは、ちょっと」
「あっ。ご、ごめんなさい」
「……ん」
僕は顔には出してない。しかし、天羽さんは僕の目を見て、僕が何を見ているのか、何を想像しているのか、何となく分かってたようだ。……まぁ、ここ最近は、お互いに目で会話出来ていたし。……次からは、一瞬だけ見るように気を付けないと。
「あ。天羽さん。その……ちょっと気になるんだけど」
「何?」
「僕、匂わないかな」
「…………え?」
「いやほら、天羽さんの部屋に、変な匂いを付けたくないから、さ」
「……う〜ん。そうかな」
すると、天羽さんが近付く。僕の肩、背中、首……首まで来た所で、天羽さんのパンの香りが僕の鼻を通り抜ける。堪えろ。何を考えているんだ僕は。鼻と鼻で空気の関節キスをしているだとか余計な事を考えてはいけない。
「ん。大丈夫だよ」
「…………大丈夫って?」
「大丈夫は、大丈夫」
「……やっぱり、臭う?」
「……石上くんは気にしなくて大丈夫だし、私が大丈夫って感じるから大丈夫なんだよ。さ、パズル組み立てよう」
「…………うん」
何だか強引に話を逸らされた。でも、とりあえず大丈夫らしい。でも、それはそれで、嬉しいやら恥ずかしいやらで、そわそわするけど。
……いかんいかん。そんな事を考えてると一向に始まらない。僕も、強引に妄想を終わらせよう。




