28話 全力で善は急げ
苺谷さんに協力者になってもらった、その夜。僕は自室のベッドで爪の腹を額に当てて目を閉じる。
爪には4dとある。4日後にまた死の危険が来る。その景色を見て、苺谷さんにも話していこう。1人なら失敗する事でも、2人でなら上手くやれるかもしれないから。
◆◇◆◇◆
「なるほど。3日後、学校の帰り道で電線が勝手に垂れて感電死……ね」
翌朝、僕は家を出てすぐ、誰もいない道路を歩きつつ、苺谷さんに電話をして死の景色の概要を話した。
「分かった。ちょっと待ってね。……あ、もしもし」
すると、苺谷さんは2つ目の携帯電話を出したようで、話し始めた。
苺谷さんは、慣れた口調でその電話口の人に電線を調べてもらうよう頼んだようだ。特に3日後の下校時間は念入りに。
「お待たせ」
「うん。今のは誰?」
「私の兄。この町の裏ボス」
「……え?」
「まぁ、気にする必要無いよ。とにかく、石上くんは何も心配しなくても大丈夫。花恵ちゃんの傍にいてあげて」
「……う、うん。分かった」
「それじゃ」
そこで、電話は終了。
色々とツッコミ所が満載だけど、知りすぎるのも良くない世界があるようだ。
そう思って携帯電話をポケットに入れて角を曲がった、その時、僕は目を疑った。
夢で見た電柱に、 大勢の作業員が集まっており、高所作業車がクレーンを上に伸ばし、その先のゴンドラに乗った作業員が、夢で見たその電線を調べていた。
……とんでもない人が味方に付いてくれたらしい。
◆◇◆◇◆
「あ」
それから僕は、学校に着くと、校門で天羽さんを見かけた。いつも通りの制服姿で、栗色の長い髪を揺らして歩いている。
……つい、昨日の事なんだよな。
天羽さんの右手と、僕の左手が、ぎゅっと繋がれていて。もっと長く傍にいたいとお互いに思っていて。でも、昨日の僕はそんな余裕が無くて。手を離してしまった。
怒っているだろうか。悲しんでいるだろうか。知りたいけど、知りたくない気持ちが邪魔をする。歩く速さは、速くも遅くもならない、どっちつかず。僕はやっぱり優柔不断だ。
「わっ」
「うわっ!?」
いきなり後ろで声がして、驚いてしまった。振り返ると、そこには苺谷さんがいた。
「びっくりしたよ……どうしたの?」
「花恵ちゃん、あそこにいるよ」
「うん……知ってる。昨日、酷く悲しませちゃって。どんな風に会えばいいか……」
「……石上くん」
苺谷さんが、僕の隣を歩いて。
「君は、色々あって疲れちゃったと思う。でも、まだ無意識に1人で頑張ろうとしている。人に助けを求めたり甘える事をちょっとずつやってみよ。花恵ちゃんはね、君が思うよりも強い子だから。思いきって慰めてもらお?」
「苺谷さん……そう、だね」
「……よし。じゃあ今からレッツゴー」
「え? ええ?」
「ほら、考えても始まらない。全力で善は急げ。ほら、早く」
「えええええっ!?」
苺谷さんが、僕のリュックを叩く。
お兄さんの事は知らないけど、きっと兄妹で似ているのだろう。2人とも、全力で善を実行している。
全力で善は急げ……。優柔不断な僕には、それくらいが丁度良いのかもしれない。




