23話 オレンジジュース
───プシュウウウウ
電車が止まり扉が開く。僕は、反対に行く電車に乗り換え、ホームで待つ。走るよりも電車に乗って向かう方が早いと頭では分かっているが、足が落ち着かない。
───ブブッ
すると、ポケットに入れていた携帯電話が揺れる。見ると、苺谷さんからメールが来ていた。『トヨカドなう』……と。
トヨカドと言ったら、カピバラざえもんフェアをやっている大型ショッピングモールだ。他に情報は無いけど、おそらく天羽さん達はそこの服屋のどこかに向かうはず。
苺谷さんには助けられっぱなしだ。また今度お礼をしないと。
◆◇◆◇◆
そうして、僕はトヨカドに到着。週末という事もあり、人が多い。カピバラざえもんのグッズを持っている人もあちこちに視界に入る。
さぁ、この中から天羽さんを見つけなくては。まずは2階の服屋の集まった所を行ってみよう。
「……いた」
2階に上がってすぐ、天羽さんを見つけた。こんなに早いとは嬉しい誤算だ。爪を見ても、まだ4h。余裕がある。服を買い終わってカラオケ屋に行くまでに、きっとフードコートで昼食を取るだろう。そこが狙い目だ。僕もよく片桐と飯を食べに来るから、違和感は無い。完璧な作戦だ。いけるぞ、僕!
「石上くん……気に入ってくれるかな」
ふと。服を持って鏡を見る天羽さんが、独り言を言う。誰に言うでもないその声量、トーン……乙女の繊細な本音を、僕は聞いてしまった。
より良く可愛く仕上げて、僕に見てもらいたくて、恥ずかしさを堪えて健気に頑張ってくれている。
やばいやばい。嬉しすぎて顔のニヤニヤが止まらない。こんな顔、誰かに見られたら変質者だと思われてしまう……
「何て顔をしてるの」
苺谷さんが、隣でドン引きしていた。
◆◇◆◇◆
「確かに私はね、君をここまで誘導した。花恵ちゃんが君のお誘いを断った事にちゃんとした理由があるって事を分かってもらうために。でもね、流石に近すぎるし、長く見すぎだし、息遣いがハアハアしてて気味悪いし、顔が伸びすぎ。私が最初に見つけて運が良かったと思いなさい」
「はい。自重します」
誰もいない非常階段の場所で、僕は苺谷さんにお説教を受けていた。身長の低い苺谷さんは、5段ほど上の段で見下ろしている形で。
「もう分かったでしょ。石上くんは、もう帰って」
「……」
苺谷さん。それは絶対に譲れない。僕は、今日の4時間後に天羽さんを…そして君たちも守る使命があるから。
「……何か、理由があるみたいだね」
「うん」
目と目で、誠意を語り合う。
しかし一瞬で終わり、苺谷さんは携帯電話を見て、ため息を一つ。
「……分かった。お好きにどうぞ」
「うん。色々と、ありがとうね」
「どういたしまして」
階段を降り、お店へ向かう……が、苺谷さんは止まる。
「私、疲れちゃった。オレンジジュース買ってきて」
「えっ?」
「1階の、オレンジを搾るお店あるでしょ。そこのSサイズで良いから。精神的に疲れた私をねぎらって」
「あ、うん。そういう事ね。分かった、買ってくるよ」
僕は急いで階段を降り、苺谷さんに手を振る。
確かに苺谷さんに何らかのお礼をしたいと思ってた。けど、僕としては、苺谷さんの一番好きないちごミルクをあげようと思ってたけど。オレンジジュースも好きだった……?
なんて色々考えつつ、僕はオレンジジュース屋に到着。長い順番待ちの最後尾で、ぼんやりとオレンジが搾られるのを眺める。
「石上くん?」
後ろから天羽さんの声が。
やばい、見つかった。何て言い訳をしよう……頭をフル回転しながら愛想笑いをして振り向くと……
時が。
止まった。




