21話 メモ
悪い運命から守るために誘ってみた。雰囲気は良かったはず。なのに、ダメだった。何故だ……。
「ご、ごめんね! あのね、文実ちゃんと鈴子ちゃんと遊びに行く約束をしててね! 丁度その日なの」
知っている。しかし、8日前から既に先約があったのか。……仕方ない。
「そっか。なら……もし良かったら、僕も一緒に行っていいかな?」
「えええっ!? あ……えっと〜……」
僕のとんでもない発言に、天羽さんは大層驚いて返事に困っている。それもそうだ。仲の良い女子3人でカラオケに行く約束に、大して仲良くない男子が混ざろうとしているのだ。本当に、おかしな事を頼んでいるのは分かっている。
でも、こうしないと、天羽さん達が危ないんだ。頼む……。
「……ごめんね。女子3人だけで行きたい所があるの」
女子だけで行く……そのキーワードを聞いたら、それ以上深く聞く事は不可能だ。
……終わった。
◆◇◆◇◆
「石上。どうしたんだ。朝飯は?」
「食べた。でも、どうしたらいいんだ」
翌日。学校の教室の自席で突っ伏せしていた僕は、片桐から心配される。
あそこまではっきり言われては、無理に説得するのは違う。あの時の、天羽さんの視線の下がりようで、どう断れば僕が傷付かずに済むかの言葉選びに本当に困っているのを、寒気と共に感じてしまった。
「あああああどうしようどうしよう」
「おい、俺に話してみろ!」
「……聞いてくれるのか」
「おう。俺の頭脳をナメんなよ?」
「ありがとう。実は……」
僕は話した。天羽さんを遊びに誘ったけど、その日は女子3人で遊ぶ約束があり、そこに僕も入れて欲しいと言って断られた、と。
「石上。断られて当然だ」
「ぐふっ!」
「どんな約束かは知らんが、天羽にとってはその日が来るのを待ちに待って楽しみで仕方ない事なんだろうよ。そんな大切な予定を変えるなんて、よっぽどの事じゃねぇと出来ねぇだろ?」
その、よっぽどの事が起こるんだけどね。
「……まぁ。お前にしては、めっちゃ勇気を出して誘ったから、ショックだったんだろ。よく言ったと俺は思うぜ」
「……ありがとう」
「どうも。しかし、折角話してくれたのに、役に立てなくてすまねぇな。さすがに男の俺には、どうにも出来ねぇ」
片桐も、何とか僕を応援しようとしてくれていた。しかし、これは難題すぎる。
「石上くん」
「っ!?」
「おま、苺谷! いつから?」
「最初から。でも私は口が固いから安心して」
苺谷さんが、机の下から現れた。僕も片桐も、気付いてなかった。忍者かな?
「……苺谷さんも、来週行くんでしょ」
「うん」
「……どうにか、それを延期するのは」
「無理」
「だ、だよね。ハハ、ごめんね。何言ってんだろ」
「石上くんは、どうしても花恵ちゃんと、来週遊びたいの?」
「うん」
「…………」
苺谷さんが、じっと僕の目を見てくる。
女子3人の楽しみを奪う変な男であるのだが、しかしその目的は純粋にその3人を守るためだ。全部は言えないけど、せめて僕の誠意を込めた目だけは、信じてほしい。
「……」
何やら一息ついた苺谷さんが、ペンとメモ帳を出し、書き込む。それを破り、僕に渡してきた。
そこには……来週のその日の待ち合わせ場所と時間が書いてある。
そして、その下に、こう記されていた。
バレないようにこっそり着いて来れたら、花恵ちゃんが断った本当の理由が分かるよ
「苺谷さん……」
「私は口が固いから。誰にも言わない。でも、君たちを応援してるから」
親指をサムズアップして、苺谷さんは去っていった。
「なぁ、石上。これ、本当にやるのかよ」
「……片桐。そんな事、聞くまでも無いよ」




