20話 カピバラざえもんフェア
梅次さん家に行った1週間後。僕は、パンの配達をしながら、例の外れたマンホールの所へ向かう。ズレているそれをはめ直し、水道局に連絡。これで、誰かを巻き込む心配は無くなった。
18d
しかし終わらない。次は、18日後に何か起こる。しかし逆に考えると、18日も対策を練られる。早速今日、その景色を見てみよう。
◆◇◆◇◆
その日の夜、僕は左手薬指の爪を額に当て、眠りにつく。
すると、またあの白黒の世界へ。
場所は……知っている。街の商店ビルの7階建ての最上階にあるカラオケ店だ。でも、どうしてこんな所で? 調べても、どこも危ない物や壊れそうな物も無い。
天羽さんを見つけた。入口に一番近い部屋で、苺谷さんと涼風さんと楽しそうに歌っている。まさか、この部屋の中に何かある……?
───ジリリリリリッ!
突然、けたたましい音が建物内に響く。
火災だ。火元はどこだ?
僕は階段を降りる……しかし、前が真っ黒で見えなかった。もう、黒煙が迫ってきている。あまりの速さに、僕一人ではどうする事も出来ない。一瞬にして絶望的になった。
「ゴホッゴホッ」
入口に近い部屋にいた天羽さんが、せき込みながら部屋を出てくる。壁に寄りかかりながら、その場で倒れてしまった。
◆◇◆◇◆
目覚めて、爪を見る。
17日後、火災で死ぬ。火元は、まだ分からない。……いや、分かったらどうする? 消火するか? またマンホールのように、悪い事が起きる前に対処できる物なのか?
「……ふぅ」
深呼吸。課題が複雑だ。一つずつ考えよう。
ひとまず思ったのは、天羽さんを行かせない事。苺谷さん涼風さんと遊びに行くのなら、代わりに他のお店に行くように誘導していこう。となると……より確実なのは、僕自身も一緒に遊ぶ事になる。天羽さんと遊びに……誘えるかな。最近仲良くなってるけど、街に遊びに行くのは、また違う。天羽さんの、パンを作る時の普段着やポニーテール姿でさえも、見蕩れて言葉が出なくなっている。なのに、天羽さんが全力でオシャレをしたら…………ああ、昇天してもいい。って、そうじゃなくて。こんな冴えない僕が、天羽さんの完全プライベートの予定をねじ曲げられるような良い感じの誘い方を、果たして出来るだろうか。難しい課題だが、乗り越えるべき壁が明確になっている。頑張る以外の選択肢は無い。
◆◇◆◇◆
頑張ると決意して、時が経ち。今の爪には、8dとある。まだ、進展は無い。プランを考えては捨てて考えては捨ててを繰り返し、いつも通りにパンを届けて、何気ない幸せな日々だったけど、そろそろ変化を加えないといけない。そうと分かっているのに、僕は、さりげなく誘うための第一声を、言うための勇気を出すための、準備運動の喉鳴らしをする事しか出来ていない。かっこ悪いぞ僕……。
「あーーーっ! 見て見て!」
そんな時。パンを焼き終わって椅子に座って、僕と一緒にテレビを見ていた天羽さんが、指をさして僕に呼び掛けてくる。そのニュース番組のレポーターがいるのは……。
「カピバラざえもんフェア! トヨカドでやってるんだって!」
そこは、夢で見たカラオケのある商店ビルの、すぐ近く。大型ショッピングモールの大広場。毎日何かしらイベントをやっている場所だ。そんな所で、可愛いカピバラざえもんのぬいぐるみやらキーホルダーやら、画面いっぱいに埋め尽くされている。
それを見て、天羽さんは満面の笑みで画面に釘付けだ。
「可愛いなぁ〜! いいなぁ〜!」
その開催期間は……7日後から21日後。運命の8日後も、もちろん開催している。
ふと、するりと言葉が出た。
「一緒に、行く?」
「……え、いいの?」
天羽さんが、目を丸くして驚いている。
言った僕自身も、唖然としてしまう。でも、一緒に遊びたい気持ちに、嘘偽りは無い。
「うん。天羽さんと、2人で行きたい」
「っ! …………うん。行こ」
天羽さんが、何度かまばたきをして一瞬固まるが、微笑んで頷いてくれた。
ああ。心臓がバクバクだ。
「……じゃあ。来週の……8日後は、どうかな。丁度、パン屋も休みだし」
「……ごめん。その日は、他に予定があるの。だから、そのまた一週間後でいい?」
……なん、だと。




