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異世界を生きる僕らへ  作者: パーカー被った旅人さん
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03 新しい家族

 目を覚ますと木造の天井が見えた。鳥の囀りと長閑なオルゴールの音が聞こえる。


「おや、お目覚めかい?」


 ゆっくりと上体を起こすと、隣から声がかかる。窓際の揺り椅子に腰かけた老齢の女性が、こちらを見ていた。しわの寄った顔には温かさを感じさせる柔らかい笑みが浮かんでおり、孫を見る祖母のような表情をしている。


 きれいな白髪は一本に束ねて肩から前に流されていて、膝には今まで読んでいたのか一冊の本が置かれている。優しくも厳しくもあった大地の祖母である孤児院のおばあちゃんや、快活で豪快な性格の自分と奏汰の祖母とは違う、例えるなら聖母のような女性だ。


「……おはよう、ございます?」


 この人は誰なのか、見覚えのないここはどこなのか、自分はなんでここで寝ているのか。とめどなく疑問があふれてくるが、今の信乃には起床の挨拶を疑問形で口にするのが精いっぱいらしい。


「おはよう、今朝にお嬢ちゃんが家の前で急に倒れてね。びっくりしたもんだよ」


 にっこりと笑って信乃に挨拶を返した老婦人は立ち上がって本を椅子に置き、信乃の横を通り過ぎて部屋のドアから姿を消した。と思いきやすぐに戻ってきて、手に持っていたカップを信乃の前のテーブルに置いた。


 覗き込むと湯気を立てるミルクが入っている。老婦人は一緒に持ってきた瓶の中から琥珀色の透明なシロップのようなものをスプーンですくい取り、その中に入れてかき混ぜた。花のような香りが漂ってくる。


「ゆっくり飲みな。体にいいよ」


「ありがとうございます」


 カップを両手で握ってゆっくりと飲むと、胸のあたりにぽかぽかと温かい感じが広がる。孤児院のみんなで飲んだ蜂蜜入りホットミルクの味を思い出す。


「それでお嬢ちゃん、どこから来たんだい?」


 傍にあるもう一つのソファに腰掛けた老婦人は、付けていた丸眼鏡を外して信乃の顔を正面から見る。一旦飲むのをやめてカップを膝の上に置いた信乃は、ゆっくりと口を開いた。


「日本の、兵庫っていうところです」


「ごめんねぇ、初めて聞くところだねぇ」


「えっと……ここはどこなんですか?」


「精霊界のアルンの街から少し離れたところだよ」


「せーれーかい?」


 国なのか町の名前なのか見当もつかない。


「知らないのかい?」


「初めて聞きました」


「お嬢ちゃん、見たところ人間の子みたいだけどねぇ。気を失う前のことは覚えてるかい?」


「この家に来る前は……花畑で見つけた蝶々を追いかけて………………っ!!」


 老婦人との初対面の時、もう少し言えばその直前の記憶がフラッシュバックする。カップをテーブルに置いて膝にかかっていた毛布をどけ、窓に駆け寄ってカーテンを開けると、花畑の中で目覚めた後に見つけた街、そして……


「夢じゃなかった…………」


 全体像を視界に収めることもできそうにない程に巨大な樹木がそびえ立っていた。同時にこの家に辿り着くまでの記憶もよみがえる。


「海翔くん……」


「なるほどね、大体分かったよ。お嬢ちゃん転生者かい」


「知ってるんですか!?」


 考えを読まれたことはさておき、老婦人の口から出た単語に飛びつく。


「となるとなかなか面倒なことになったね」


「え?」


「まあ座りな。ゆっくりお話してあげるよ」


 笑顔で勧められ、もう一度ソファに腰を下ろす。ミルクのカップは少し冷えてきた。


「まず、この世界には九つの世界があるんだよ」


「九つの世界?」


「そうさね。ここはそのうちの一つの精霊界。名の通り精霊たちが暮らしてる世界だよ」


「おばあちゃん精霊なんですか?」


「私は霊人族って言ってね、人間の中でも精霊と話せるようになった特別な種族さ。精霊界のほかにも、普通の人間たちが暮らす人間界、魔法に長けた魔族が暮らす魔界、龍たちが暮らす龍界なんかがあるよ」


「……………………」


 信乃は他の四人ほど、ファンタジー要素について詳しくはない。それでも分かるような精霊、魔法、挙句に龍という単語を聞いて、外に見える巨大な樹を初めて見た時のような言い表せない感慨に浸らせられていた。


「さっきお嬢ちゃんがみた大きな樹は、精霊たちの力の源になってる世界樹っていう樹だよ」


「ほへぇ…」


「世界の説明はこのぐらいにして、次は…………お嬢ちゃん、そっちの部屋に隠れな」


「へ?」


 突然声音が変わった老婦人を見ると、先程までの柔和な表情が消えた険しい目つきで窓の外を睨んでいる。信乃もそちらを見ると、街へと続く道を誰かが歩いてくるのが見えた。


「私がいいっていうまで出てきちゃだめだよ。音もたてないようにしな」


「なんでですか?」


「あれはこの精霊界の……まあ軍隊みたいなもんだよ。嬢ちゃん本当に転生者なら奴らに狙われてるからね」


 軍隊という言葉に生前の、というより前世の記憶が蘇り、すぐにカップのミルクを飲み干して隣の寝室らしき部屋へと入って窓際にうずくまる。


 しばらくすると外から数名の男の声が聞こえ、ドアがノックされる音が聞こえた。


「何か用かい?」


 部屋の壁の向こう側から、老婦人が応対している声が聞こえる。


「突然の訪問失礼する。何か変わったことはなかったか?」


「何があったのか素直に話したほうがいいよ」


「……元老たちの精霊がとてつもなく巨大な魔力を捉えた。もしかすると予言の転生者かもしれん」


「さっきそこを女王が通ってったけどそれじゃないのかい」


「………貴女は何も知らぬと?」


「知ってて協力しない理由は何だい?」


 そこで会話は途切れ、代わりにドアが閉まる音と遠ざかっていく足音が聞こえた。


「もう大丈夫だよ」


 部屋の外から声が聞こえ、ゆっくりと顔を出すと老婦人が元の通りに椅子に座っていた。


「やっぱり勘が鋭い奴らだね。お嬢ちゃん、ここに居たら危ない、街に移動しようか」


「わかりました。あの……」


「なんだい?」


 テキパキと荷物を準備し始めた老婦人に声をかけると、やはりにっこりと優しい笑みを向けられる。


「信乃、です。私の名前」


「そうかい、いい名前だね。私の名前はルナレアだよ、皆おばあちゃんって呼ぶけどね」


「おばあちゃん、ありがとうございます!」


 温かい人だ。海翔も奏汰も、大地も叶もいないこの状況で、人の温もりがとてもうれしく感じる。


「いい子だね、シノ。それじゃ、街に行く準備を手伝ってくれるかい?」


「はい!」



   ◇ ◇ ◇



「さっきの話の続きをしようかい」


 街に向かう一本道を歩きながら、ルナレアが話を続ける。


「転生者っていうのはね、簡単に言うと神様みたいなものだよ」


「神様?」


「何て言うのかは忘れたけど、神様たちが使うような強い力を持ってるんだよ。だから、ほかの世界と戦うときに、転生者がいたら一気に有利になるのさね」


 戦争。忘れもしない。両親と家族たちと故郷を離れた日、そして……


「おばあちゃん、私戦争嫌い……」


「おばあちゃんだって嫌いだよ。あんな忌々しいところには二度と行きたかないね。勿論シノも行かせはしないよ」


 記憶の奥底に封じ込めた悪夢が起き上がりそうになり、ルナレアの羽織っているケープの端をつまむと、すぐに温かい手が添えられた。


「だからさっきの連中はシノが来たことに気づいて探しに来たんだよ」


「街に来ちゃったら目立つんじゃ……」


「シノの髪は綺麗だからね。黒い髪が少ない精霊界じゃ良くも悪くも目立つから、おばあちゃんがいいっていうまで、それを取ったらだめだよ?」


 それ、というのはさっき家を出るときに頭からかぶせられたフーデッドケープだ。おばあちゃん曰く『魔法の道具』らしい。


 街に近づくと、街をぐるりと取り囲んでいる塀が見えてきた。入口の門のところには案の定というか、二人の警備員のような男が立っている。


「おばあちゃん…」


「安心しな、おばあちゃんから離れないようにね」


 そう言われると、ルナレアに握られた手がより一層温かく感じた。


「どうも、ばあさん。今日は随分と早いな」


 門に近づくと、警備員のうちの一人が声をかけてきた。腰には剣を差しているので、警備員というよりは明らかに兵士だ。思わず表情がが強張る一方、ルナレアはすぐににっこりと笑みを返した。


「おはようさん、朝からご苦労だねぇ」


「あれ? そっちの子は?」


「こないだも言ったじゃないかい。孫のシノだよ」


「ああ、そういやそうだったな」


 びくりと身体が震えた信乃には気づかず、兵士はなぜか納得したように頷いている上、もう一人の兵士は本当に起きているのか門に寄りかかり帽子で目元まで隠してうつらうつらとしている。


「ふんっ!」


「痛ぇっ!?」


「ええっ!?」


 するとルナレアが突然つかつかとその寝ている兵士に歩み寄り、持っていた杖で兵士の頭をぶん殴った。思わず信乃も声を上げる。


「仕事中ぐらいしゃっきっとしないかい!」


「うおえ!? ばあちゃん!?」


「おや、朝早くからばあちゃんに会えたのに随分と嫌そうじゃないかい」


 頭を押さえて転んだ兵士が帽子をとってルナレアを見ると、半分閉じていた瞼がすぐに一杯まで開かれた。いたずらが見つかった海翔のような表情だ。


「なんでこんな早く!? 先輩、起こしてって言いましたよね!?」


「なんでもかんでも人のせいにすんじゃないよ! 寝てたあんたが悪いんだからね!」


 通行人は少なくないが、いつものことと言わんばかりに皆にこにこと笑って見守っているし、ルナレアも叱りつけるボリュームを下げるつもりはなさそうだった。


「ごめんよばあちゃん。もう起きたからさあ…………てかなんか今日だけ厳しくない?」


「厳しくしてんのは誰のせいだい………後でうちに来な。大事な話があるからね。ばらしたら承知しないよ」


 小声で告げられた内容に、戸惑いながらも頷く兵士。もう一人の、最初に喋りかけてきた方の兵士は髭を弄って聞いていないようだ。すぐにルナレアは信乃の手を引いて歩きだす。


「よし、もう大丈夫だよ」


 門を通ってから数分歩くと、一つの建物に到着した。


「ここは?」


「ばあちゃんが作った料理の店だよ。ここならシノも安心していいからね」


 ドアを開けて入っていくルナレアに続いて、信乃も建物に足を踏み入れる。一瞬ドアノブにかかっている字が目に入るが、何と書いてあるのか分からなかった。


「あれ? おばあちゃん?」


 店に入るとすぐ、たくさんある机を拭いていた女性がこちらに気づいて声をかけてきた。


「おはようメリア。フレドはどうしたんだい?」


「さっき配達行ったよ~。おばあちゃんその子は?」


「ああ、シノ、挨拶しな」


「初めまして、信乃です」


 ルナレアの後ろから少し身を出して挨拶すると、女性も笑みを返してきた。


「あら~可愛い子じゃないの。私はメリア、よろしくね、シノちゃん」


 綺麗な茶髪に翡翠色の目を持つ美しい女性だ。信乃の覚えだと前世のモデルでもここまでの美人はいなかったと思うが、いきなり頭をわしゃわしゃと撫でられてついつい面食らってしまう。


「メリア、皆を集めな。店開ける前に話があるよ」


「は~い」


 メリアさんが階段を昇って行ってしばらくすると、上の階からどたどたとたくさんの足音が聞こえてきた。と思いきや、階段から大勢の人達が降りてきた。


「多っ!?」


「みんなおばあちゃんの子供たちだよ。シノと同じさね」


 子供たち、という言葉にようやく理解が追いついた。おばあちゃんはここで孤児院のようなことをしているのだ。そして彼らは皆家族、前世の自分たちと同じだ。


「おはよう皆。この子はシノ、今日から新しい家族になるよ」


「可愛い子じゃないか。よろしくな」


 一番前にいた大柄な男性が大きな声と一緒に手を差し出してきて、おずおずと握り返すとぶんぶんと上限に振られた。


「俺はバンス。ばあちゃんが連れてきたんなら何かしらの訳ありだろうけど、まあ難しいことは気にすんな。ここが家だと思ってくれていいから」


「シノ姉だぁ~!」


「わ!」


 横から小さな子供が走ってきて抱き着かれた。抱き上げてあげると、人形のような金髪と碧眼の少女だ。


「こんにちは、あなたのお名前は?」


「リリはリリなの! リリはシノ姉よりもせんぱいなの!」


「よろしくね、リリちゃん」


 屈託のない笑顔に孤児院の小さな子供たちを思い出して信乃も頬が緩む。それからは挨拶祭りだった。五人か六人ぐらいは顔を覚えられたけど、リリやメリア含め、やはりみんな絵に描いたような美男美女ばかりだった。


「皆、シノのことは秘密にしないとだめだからね。ばれたら元老院の堅物どもがうちに来るよ」


「うわぁ、それだいぶ嫌だなぁ」


 カウンターで皿を拭いている男性が本気で嫌そうな顔をする。名前は確かフィルさんだったはずだ。ここの人たちはおばあちゃんの言うことはきちんと聞くし、おばあちゃんがダメと言ったことは絶対にしないらしい。温かく受け入れてくれたこの人たちには本当に感謝しかない。


「おばあちゃん、私も何かお手伝いしたいな」


「おや本当かい、それなら……料理はできるかい?」


「大得意!」


 前世で孤児院での食事のレパートリーを増やすために、星奈ちゃんと一緒にいろいろな料理について勉強をたくさんした記憶も、もうかなり前のことのように感じる。


「おっ、シノは料理が出来るのか」


「じゃあお手並み拝見と行こうかな?」


「任せて!」


 奥の厨房らしき部屋から顔を出したエプロン姿のバンスとメリアにドンと胸を叩いて、奥の部屋へと入った。



   ◇ ◇ ◇



 その日は一日中休む暇がないほどの盛況っぷりだった。いつもこのくらいだとはメリアの言だが、外の行列は短くならないのではと思うほどだった。


 芋の皮をむいたり、野菜を切ったりしながら、メリアに仕事について教わっていた。信乃自身も料理をいくつか作ったが、どれも皆初めて見るものだったらしい。特にグラタンが好評だった。


「はぁ~」


「お疲れ様」


 閉店後にカウンター席に突っ伏していると、目の前に水の入ったグラスが置かれた。顔を動かすとメリアが頬杖をついて隣に座っていた。


「シノが来てくれて助かったわよ」


「ああ、せめてフレドのやつが料理をできたらな」


 そのさらに隣に腰掛けたバンスが琥珀色の液体を飲み干しながらぼやいている。フレドというのは、メリアの双子の弟らしい。今日一日見ていた限りだと、家族の中では苦労人のようだ。


「シノ、今日はありがとね」


「あ、おばあちゃん」


 信乃の隣に白髪の老婦人が座ると、いつの間にかカウンターに入っていたメリアがコップにミルクを注いでその前に置いた。


「シノの器量が良くて助かるよ」


「本当にそうね」


「そんなことないよ~」


 にっこりとほほ笑んでそう言われると、信乃も恥ずかしくなってしまう。褒められるのには慣れていない。


「ここに慣れたら上の階に部屋を作らないとね」


「部屋?」


「俺たちはみんなここに住んでるんだ」


 バンスが説明を補足してくれたが、そんなにも大きい建物だっただろうか。児院の自分の部屋を思い出す。絵をかいたり、楽器の練習をしたり、愛しの少年が一緒に寝に来たり…………


「海翔くん!!」


「うおお!?」


 忘れてはいけないことを思い出して、思わず椅子から跳ね降りる。


「シノ、どうしたんだい?」


「おばあちゃん、私他にも家族がいるの!」


「ん? ばあちゃん、どういうことだ?」


 思わず口走ってしまったが、先程ルナレアに転生者であることは隠しておくようにって言われて………


「ああ、シノは転生者なんさね」


「おばあちゃん!?」


「「おばあちゃん!?」」


 信乃はごまかそうとしていた事実を暴露されたことに、メリアとバンスは告げられた内容に、それぞれ素っ頓狂な声を上げる。


「大丈夫だよシノ。ここの皆はシノの味方さね」


「ああそういうことか。任せとけシノ」


 ドンと胸を叩くバンスが頼もしく見える。


「それで、家族っていうのは?」


「あ、私は前世は戦争に巻き込まれた感じで死んじゃったんですが」


 地雷だのクマだのの話は省略する。


「多分一緒に転生してきた家族が四人いるんです」


「よっ……………!!」


 バンスの手の中にあったグラスがカウンターにゴトリと落ち、メリアは両手で口を覆っている。ルナレアですら表情が険しい。


「シノ、転生者って言うのは多くても五十年に一人、少ないときは二百年はやって来ないんだよ。ばあちゃんも長生きだけど会ったことは一回しかないね」


「そうなんだ……」


 正直、海翔たちはあのまま消滅して、自分だけがこの世界にやってきたのかもしれないという懸念はある。けれどもそれ以上に、あの四人があっさりいなくなることが考えられなかった。


「シノはどうしたいんだい?」


「私は……海翔くんたちを探しに行きたいの」


「どうするばあちゃん」


 今の信乃にとってなによりも優先すべきなのは、海翔たちに再会することだ。しかしそれにルナレアや子供たちを巻き込みたくはない。


「決まってるさ。みんなで探すよ」


「おばあちゃん!?」


「ま、当たり前か」


「当然よね」


「バンスさん!? メリアさん!?」


 当たり前のようについて来ようとする三人に、喉の奥から変な声が出る。


「まさかとは思うがシノお前、俺たちに迷惑かけたくないとか考えてんじゃねえだろうな」


「全くその通りなんだけど」


 何故か不機嫌な表情をしたバンスは、大きな手を信乃の頭に伸ばしてわしゃわしゃと乱暴に撫で始めた。


「まったくいい子だよなぁシノは。そんないい子に一つ質問だ。シノは、その大事な家族が困ってるとき、助けなくてもいいって言われても心配するだろ?」


「うん、海翔くんなんていっつもトラブルに巻き込まれてるから」


「シノは本当にそのカイトのことが好きなんだな。そんでもって、俺たちもシノのことは心配してんだ。家族だからな」


「心配するのと助けるのは違うよぉ………」


 撫でてくるバンスの手のひら越しにメリアのほうを見ても、同意なのかにこにこと笑っているだけだ。ルナレアも微笑を浮かべながら口を開く。


「分かったね、シノ。ここにはあんたの家族がいる。助けてくれるって言ってんだから、素直に助けてもらうんだよ」


「……………分かった。私が海翔くんたちを見つける手伝いをしてください!」


「そう、それでいいんだ」


 迷いをどうにか振り切ってそういうと、バンス普段のニカッとした豪快な笑顔を浮かべた。信乃も改めて、この新しい家族の温かさを身に染みて感じていた。


 そして日が沈んだ頃、異世界での一日目を過ごし終えた信乃は、ルナレアと一緒にあの花畑の丘の麓にある家へと帰ってきた。


「シノ、見てごらん」


「え? ふわあああ……」


 寝る準備を終えて布団に入ると、隣で揺り椅子に座っていたルナレアが窓の外を指さしている。見ると、夜の暗闇を晴らす程に眩い光を発している世界樹が目に入った。すべての葉が暖かな光を灯し、幹や枝も淡く輝いている。


「精霊たちは皆太陽の光に力をもらっているのさ。だけど、世界樹だけは夜でも精霊たちに力を与えるために起きてるんだよ」


「綺麗……」


 瞼が閉じるまで、その光景を目に焼き付けようとしていた信乃だった。



   ◇ ◇ ◇



 その晩、不思議な夢を見た。気が付くと森の中を歩いていて、木々の隙間から陽光が差している。


 そのまま歩き続けると、森の中の開けた場所に出た。その中心には白いグランドピアノが置いてあり、全体に草や蔦が蔓延り、自然と一体化しているように感じる。


 そのピアノを、誰かが弾いていた。


『行くのですね、最も眩しき光よ』


『はい、彼女のためです』


 突然、演奏をやめたその誰かがこちらを向き、言葉を発した。顔は、見ようとしてもそこだけピントが合っていないかのようによく見えない。そして、自分の口から出たのも、自分の声ではなかった。


『ええ、どうか彼女の進む道に光がありますように』


 そんな声が聞こえたのを最後に、信乃の意識は深い闇へと落ちていった。



   ◇ ◇ ◇



「ばあちゃん!! 起きてくれ!!」


 次の日信乃が朝食を食べていると、玄関の方から聞き覚えのある声がした。やけに切羽詰まっている。


「どうしたんだいラルゴ。私ゃあんたよりよっぽど早起きだよ」


「それどころじゃねぇんだ!!」


 ルナレアがドアを開けると、昨日門のところにいたルナレアの子供たちのうちの一人、兵役に就いているラルゴという青年が立っていた。走ってきたのか汗をかいて肩で息をしている。


「昨日ばあちゃんがシノを連れて店に行ったのが元老どもにバレちまった!! さっき奴らが店に押し入ってきたんだよ!!」


「なんだって!?」


「嘘っ!?」


「今じゃもうばあちゃんとシノが指名手配されてるようなもんだ、街の人たちに頼んで隠してもらってるけど、奴らがここに来るのも時間の問題………ああっ!!」


 後ろを振り返ったラルゴが悲鳴を上げる。街へと続く道を十数人の兵士が列をなして進んでくるのが見える。すぐさま振り向いたルナレアが、自分の羽織っていたローブを信乃の頭から被せた。


「シノ、これを被ったまま今すぐ反対のほうに逃げな! ラルゴ、バンスに伝えてシノと一緒に人間界の法王庁に行くんだよ! シノを連れてね!」


「ばあちゃんはどうすんだよ!!」


「いいから早く行くんだよ。ばあちゃんは大丈夫だから」


 ラルゴを押しのけて玄関のクローゼットを開くと、大きな盾と、一本の剣が入っていた。


「おばあちゃん!?」


「シノ、私の心配はするんじゃないよ、すぐに追いつくからね」


 信乃が止める間もなく、剣をつかんだルナレアは信じられないスピードで駆けていった。


「ああもう!! シノ、すぐに向かうから、この先の森の中で隠れててくれ!!」


 ラルゴもすぐにその後を追って走り出し、玄関には信乃だけが取り残された。



   ◇ ◇ ◇



「……………先に言っておくが」


 精霊界元老院直下の近衛兵団を束ねるザンバルト一等兵が、目の前の二人のうちの一人に向かって低い声を出す。


「元老院からの勅命を受けた我々の任務の妨害、しかもよりにもよって近衛兵の一員たる貴君がとは。これは重大な規約違反だぞ、ラルゴ三等兵」


「んなことは分かってますよ、でも俺は近衛兵である以前にばあちゃんの子供だ。さんざん言ってきたでしょう」


「随分と嬉しいことを言ってくれるじゃないかい。もし親孝行がしたかったら、今すぐそれ置いてとっとと帰りな」


 剣を構えるルナレアの背後で、ラルゴも同じように腰から抜いた剣を構える。足が震えているが、ルナレアの声には耳を貸さない。


「そして貴女は自身の罪を認めるのだな? 光の霊騎士殿?」


「ああそうともさ、元老のジジイどもに私のかわいい子供は渡さないよ」


「そうか………元老院特別命令の無視による世界への反逆行為により、ルナレア、貴様を連行する」


 ザンバルトの言葉と同時に剣を抜いた兵士が三人、一斉に飛び出して切りかかった。しかし、


「フーレ」


 一陣の風が吹き、ルナレアの体が宙に浮いたかと思うと滑るように動き出した。初速を見極め損ねた最初の兵士が慌てて剣をふるうが、躱したルナレアの剣の柄で首筋を打たれ、その場に崩れ落ちた。


 そのすぐ後ろに迫っていた二人目は横から飛び込んできたラルゴと切り結び、さらにそこへ三人目が参入してきた。三等兵というかなりの猛者であるラルゴも、同じ親衛隊に名を連ねる二人が相手では相性が悪い。


「フルセイア」


「がっ!!」「ごっ!?」


「―――うおおおおっ!!」


 しかし離れたところにいたルナレアが剣をふるうと、見えない刃で斬られたように兵士二人のふくらはぎに裂傷が走った。そのまま両方ともラルゴに押し負け、持っていた剣を弾き飛ばされる。


「引退しても剣筋はさすがだな」


「嫌味のつもりかい? 年寄りを舐めんじゃないよ」


 配下がやられても微動だにしないザンバルトに鼻を鳴らすと、再びルナレアの周りに一陣の風が吹く。


「いやなに、ここで貴様らとわざわざ剣を交えなくても、追跡の魔法を使って奴を追うべきか、と考えていてな」


「生憎とあの子はもう世界の外さ。やれるもんならやってみな」


「そうか、ではそこにいるのは誰なのだ?」


 ザンバルトがあごで指し示した先には、


「あんた何やってんだい!! シノ!!」


 大きな盾を握りしめた信乃が立っていた。



   ◇ ◇ ◇



 ―――怖い、逃げたい、戦いは嫌だ。


「生憎とあの子はもう世界の外さ。やれるもんならやってみな」


 ―――今は守ってくれる海翔も、頼りになる奏汰も大地も叶もいない。


「そうか、ではそこにいるのは誰なのだ?」


 ―――それでも今逃げたら家族に、自分に嘘をつくことになる気がした。


「あんた何やってんだい!! シノ!!」


 信乃の祖母の、祖父と一緒に死ぬことを選んだ豪快な女性の言葉が蘇る。


「家族の危機は命を賭してでも助ける」


「ほう、貴様がか」


「お願いです、言うことを聞くのでおばあちゃんを傷つけないでください」


 震える声でそう口にすると、すぐに駆け寄ってきたルナレアが信乃の肩をつかんで揺さぶった。


「何言ってんだい!? こいつらはあんたを戦争に使おうとしてるんだよ!!」


「それでも………おばあちゃんのことも大好きだもん」


 信乃の両目から涙が溢れそうになるけれども、嘘はつきたくなかった。確かに戦争は嫌いだが、大事な人が傷つく方がもっと嫌いだ。なにより、あの四人ならこうしただろうという確信が、信乃にはあった。


「はぁあんたは本当に……」


「話は済んだか?」


 ルナレアが大きくため息をついた。ラルゴは二人を守るように、こちらに背を向けて剣を構えている。


「大人しく投降するならば、貴様の店の者たちの身の安全は保障しよう。だが」


 先頭の男が腕を振り上げて、勢いよく下に振り下ろした。その瞬間、


「……え?」


「ルナレアは別だ」


 ルナレアの肩から血が噴き出した。信乃の前にあった顔が大きく歪み、そのまま糸が切れた人形のように倒れる。


「精霊界の機密情報を握っているにもかかわらず、元老院の監視下にない存在というのは余りにも危険すぎる。つい先ほど処分せよとの命令が………」


「あああああああっ!!」


 ザンバルトにラルゴが切りかかったが、周りにいた兵士たちに抑え込まれた。ルナレアはピクリとも動かない。


「さて、同行してもら………」


「…………………す……」


 ザンバルトのこめかみが引き攣り、ラルゴが息を呑む。信乃の目から光が消えていた。


「殺す………」


 足元に落ちていたルナレアの剣を足で跳ね上げると、右手で掴んで凄まじい速度で駆けだした。ザンバルトも抜刀しようとするが、その前に肩目掛けて剣を振り下ろす。


「ああああっ!?」


「貴様!!」


 右腕が二の腕からちぎれ飛んだザンバルトの代わりに、ラルゴを押さえていた兵士が飛びかかってくる。しかし今度は持っていた剣を槍のように投擲すると、反応が遅れた兵士の右目に突き刺さった。


 倒した兵士から一瞬にして剣を奪い取り、足で跳ね上げたザンバルトの剣を使ってさらにかかってきた兵士の槍を組み伏せ、首筋に剣を突き刺す。先程のルナレアの比較にならない量の血潮が噴き出し、切られた兵士は地面に転がってピクピクと痙攣している。


「シノ………」


「一斉にかかれいっ!! こいつは転生者だ!!」


 見た目からはおよそ見当もつかない信乃の鬼神のような強さを前に、兵士たちが体勢を立て直して一斉にかかってくる。顔に飛び散った血を拭い、拾い上げた剣を再び構えた時、


「ぐぅっ………!!」


 全身が急に重くなり、耐え切れずに地面にしゃがみこむ。


「くたばれっ!!」


「ダメだ!! やめろっ!!」


 ラルゴの声が聞こえ、信乃目掛けて剣が振り下ろされる。そして、ルナレアのように血しぶきが飛び……


『相変わらず無茶苦茶な生き方してるね、おばあちゃん』


「子供のために無茶をするのが大人の役目さ」


 とはならなかった。信乃にとびかかってきた兵士たちが全員地面に倒れ伏している。信乃が後ろを向くと、斬られたはずのルナレアが力強く地面を踏みしめ、一本の剣を杖代わりに立っている。


 そしてその横には、全身から眩い光を発する一人の女性が浮かんでいた。背中には二対の羽が生え、手にはルナレアが持っているのと同じ剣を持っている。顔は雪のように白い肌と黄金の目、人間とは思えないほどの美貌と美しい髪を兼ね備えている。


「……おばあちゃん?」


「シノ、もう大丈夫だよ。あとはばあちゃんに任せな」


 ルナレアは持っていた剣を取り落とした信乃に近づき、その頭をしっかと抱きしめた。


「トワイライト、頼むよ」


『光は遥か遠き空より出で来て、己の信ずる道へと降り注がん。我が名はトワイライト。黄昏に降臨せし聖なる霊光。異界の創成者の怒りに応え、その刃となろう』


 結構長めの詠唱のようなものが聞こえると、女性が持っている剣から光の粒子が溢れ出し、信乃との戦闘で傷ついた兵士たちへと集まっていき、傷を治し始めた。首が半分ほど落ちかけていた兵士でさえ、傷跡が残らないほどまでに完全に治癒されている。


『眠れ』


 ザンバルトも切り落とされた腕が再生したことに驚愕していたが、次の言葉が発せられるとその場に転がった。ピクリとも動かない。


「ばあちゃん!!」


「ラルゴ、あんたはいつになったら賢い生き方を覚えるんだい」


「でもよお……ばあちゃんが無事でよかった……」


 大人げなくルナレアの肩口に顔をうずめて大泣きしているラルゴを見ていると、横から肩を叩かれた。


『あなたが私を呼んだのかしら?』


「あ、あの夢の人だ!」


 声を聴いてやっと分かったが、昨晩の夢に出てきた、もっと正確に言うと信乃の視点になっていた人物だ。


『ふふっ、初めまして。私はトワイライト、光の精霊よ。あなたのお願いを聞いて、助けに来たの』


「え? でも私はお願いしてないよ?」


『おばあちゃんを助けたいって考えたでしょう? 私たち精霊は人々の強い感情に敏感だから』


 ふふふっ、と笑う精霊―――トワイライトは、近くで見るととても美しい女性だ。何というか、人の美しさではない容姿をしている。手に持っていた剣は消えているが、ドレスのようなひらひらした服を着て、金色の髪は風に吹かれて波打っている。


 なによりその目だ。琥珀から作り出したような目は、一切の邪悪も逃がしはしないというかのように力強く輝いている。


『シノ、あなたは精霊界で『祈り』と言われる儀式を終えて、私という精霊を召還したの。そして、精霊を召還して契約するには対価が必要になるのよ』


「えっ、私お金持ってないよ?」


『精霊はそんなにがめつくないわ。普通だったら宝石とかなんだけど…………』


 契約と対価という、ファンタジー通でなくても理解可能な言葉だったが、信乃のイメージにトワイライトが苦笑する。多分不正解なのだろうが、他に何を差し出せばよいのか見当もつかない。


「料理でいいじゃないかい」


「えっ」


『確かに、いいわね』


「そんな軽いノリでいいんだ。高位の精霊との契約ってなんかこう……寿命を何年分くれよみたいな感じかと思った」


 と思いきや斜め上の提案をしてきたルナレアに、ラルゴも思わず仰天している。


『じゃあ料理でいい? 私はシノの力になって、シノは私に料理を作る』


「うん! 楽しみにしててね!」


 差し出されたトワイライトの手を握り返すと、トワイライトの姿は消え去り、信乃の手には一本の剣が握られていた。


「うっ!」


 それと同時に、信乃のものではない膨大な記憶が次々と蘇る。視界がブラックアウトしかけ、危うく剣を杖代わりにして耐える。恐らくトワイライトの記憶だろう。信乃は覚えがないが、剣や槍の戦い方の記憶もある。


「これで………!」


 詳しいことはさておき、心強い味方が出来た。海翔たちと再会するまでの道のりはまだ長そうだが、不思議と力が湧いてくる。


「ばあちゃん、これからどうすんの?」


 ラルゴがルナレアに肩を貸しながらそう問いかけた。ルナレアが先程まで杖にしていた剣は、今は信乃の手の中にある。


「そうさね。ならまずは……逃げようかい」



   ◇ ◇ ◇



『みんなで逃げるよ』


 ルナレアが店の子供たちにそう伝えると、瞬く間に旅の用意が整った。店も精霊界のお偉いさんたちに狙われていたらしく、ルナレアと信乃の所と同様に兵士たちが差し向けられていたようだが、全員食材倉庫で伸びていた。ここの店員たちは案外強いらしい。


「ごめんなさい、私のせいで……」


「シノ、次私のせいで、って言ったら目にレモン刷り込むわよ?」


「うぎゃあぁぁぁ」


「姉ちゃん、脅しが怖すぎる」


 無事だった皆に駆け寄られて開口一番謝罪したが、頭を撫でてくれていたメリアが顔面を掴んでギリギリと締め上げて来たので別の理由で泣きそうになった。


「俺たちみんな家族を守れることが嬉しいんだ。まあシノはまだ家族二日目の新米だけどね」


「シノ姉よりリリのほうがお姉さんだぁ!」


 リリを肩車しながら分けられた荷物を荷車に積んでいたフレドがメリアを宥めている。


『シノ、面倒くさそうなのが来てる。急いだほうがいいかも』


「面倒くさそう?」


 突如何もない空間に現れたトワイライトがこっそりと耳打ちしてくる。その指の差す方向を見ると、ルナレアの店がある通りを、つい数時間前に信乃が切り伏せたのと似た格好の兵士たちが馬に乗って駆けてきているのが見えた。見送りに来ていた町の人々もそれに気づいて逃げ始めている。


「ばあちゃん!」


「分かってる。面倒くさいけど一発やるかい」


 気づいたバンスが鍋とフライパンを持って臨戦態勢(?)に入り、ルナレアも自身の剣を構える。


「トワイライト、いける?」


『任せて』


「シノ!?」


 しかし、前へ歩み出た信乃が手を空へ伸ばすと、トワイライトの体が光の粒子へと変わり、信乃の手の中に集まって光の剣へと形を変えた。バンスが驚きの声を上げる。


「バンスさん! 任せて!」


『精霊武装』


 剣を持って走り始めると、剣から溢れ出たまばゆい光が信乃の体を包み込み、その装いを白いワンピースから純白の騎士服へと変わる。


 トワイライトの記憶によると、契約による精霊の能力の一つで、契約者の様々な能力を底上げする装備らしい。大地か海翔がいれば諸手を挙げて異世界お約束の変身能力だと歓喜していただろう。左肩には軽い金属のプレートが付いて、背中には真っ白なマントを風になびかせている。


「あとよろしく!」


『任せて!』


 まだ動きに慣れない信乃の代わりに、信乃に憑依したトワイライトが目を開ける。信乃の意識と一緒にトワイライトの意識があるような不思議な感覚だ。


『「思考同調は問題なさそうね』」


 信乃の口から二人分の声が出る。その顔に、信乃らしくない荒々しい表情が宿った、次の瞬間、


『「シッ!!』」


 砂煙を残して、元居た場所から信乃の姿が忽然と消え去る。兵士たちはもう十数メートル先まで迫ってきていた。しかし、


「っ!! 上だ!!」


 白いマントを風になびかせた信乃が大きく跳躍して兵士たちの集団を飛び越え、背後に着地する。気づいた兵士たちが武器を構えるが、体制が整っていない隙に一瞬で加速し、通りを駆け抜け、瞬きの間に兵士たちの集団の間を縫って通り過ぎ、ルナレアの元に戻ってきた。


 チンッ、と音を立てて腰の鞘に剣を収めると、後ろにいた兵士たちが一斉に膝から崩れ落ち、同時に信乃の武装も解除される。一連の様子を見ていたルナレアの子供たちはあんぐりと口を開けている。


「ほら早く! おばあちゃんも!」


「お、おお! 今のうちに行っちまうぞ!」


 自分の荷物をひっつかんで走り出した信乃を、荷車を引いたバンスが追いかける。ほかの子供たちも、次の到着を待つわけがないと言わんばかりに走り出した。


「ほっほ、うちの子供たちは元気だねぇ」


 バンスの引く荷車に腰掛けたルナレアがしみじみと呟いた。



   ◇ ◇ ◇



『陛下、トワイライトは?』


 ピアノのそばにある一本の木が、枝を垂れ下げて聞いてくる。


『予言が始まりました。彼女の行く先に光があることを願うばかりです』


 ピアノを弾く手を止めて、奏者は木々の隙間から遠い空を見上げていた。

ルナレア:おばあちゃん

トワイライト:光の精霊お姉さん

バンス:自称長男

メリア:自他共に認める長女

フレド:苦労人

ラルゴ:サボり常習騎士

リリ:最年少

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