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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第三章 金獅子の娘は夢を追う
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第92話:“迷宮”

 「ーーつまり、サンドスコーピオンの対処法はこうだ」


 ローガンが黒板に描かれた、蠍のような生物の絵に印を付けていく。それを教室にいる生徒たちは、自分の書き取りように用意した羊皮紙に写していた。


 今は冒険者学の時間だ。最近は王都より西に行った、砂漠地帯の魔物についての話が多い。

 隣に座るアリスは授業の初日から変わらず、ずっと寝ている。

 最初の頃はローガンも、彼女のその姿によく苦言を呈していたが、中間試験の結果が出てからは何も言わなくなった。

 ピネットは書き取りもせず、つまらなそうに欠伸をしながらも授業は聞いているようで、試験での成績は上位に入っていた。現役の冒険者としての知識を、遺憾無く発揮しているのだろう。


 「尾の針には毒がある。優先して尾の破壊を目指した方が、効率的に討伐できるだろう。なお毒を貰った場合は、解毒魔術か専用の解毒薬が必要だ。忘れないよう、砂漠に入る前に用意しておけ」


 黒板にチョークが触れるたび、軽快な音が静かな教室に響く。

 私は手元の羊皮紙に、羽ペンを使ってローガンが言ったことを書き込んでいく。


 「あの砂漠に入る前に、だいたい商人が解毒薬売ってくれるんだけどね。そうそう忘れることもないよ」


 隣で欠伸を噛み殺しながら、ピネットが呟いた。

 その言葉を聞くに、ピネットは砂漠に行ったことがあるのだろうか。

 私が気になり尋ねてみると、彼女は笑いながら頷いた。


 「砂漠には“迷宮(ダンジョン)”があるからね。人数がいれば、稼ぎにはちょうど良かったんだ」

 「“迷宮(ダンジョン)”かぁ」


 “迷宮(ダンジョン)”については、先日の授業で学んだばかりだ。

 世界各地に点在している、地下にある大きな空間。それを“迷宮(ダンジョン)”と呼称している。

 非常に危険な場所で誰が造ったのか、どんな理由で造られたのか全くわからない迷路のような場所で、その奥深くには金銀財宝が眠るらしい。

 危険だと言ったのは、“迷宮(ダンジョン)”には魔物が住み着いているからだ。その数は未知数で、数百とも数千とも言われている。

 難易度も冒険者組合(ギルド)で設定されており、簡単で深度の浅いものから、入れば命の保証はないし、どこまで続いているかもわからないような深さのものまである。


 「砂漠の“迷宮(ダンジョン)”は、冒険者にとって登竜門みたいな所。自力で最奥部まで辿り着ければ、卵からひよこになったと周りから評価されるの」

 「それでもひよこなんだ」

 「そこから先はランクを上げないとね〜。まあでもフィリアなら、あっという間に上げられそうだけど」


 そうかなぁと言いながら、黒板を見る。いずれ私も砂漠の“迷宮(ダンジョン)”に挑む時が来るのだろうか。

 その時は誰と行こう。その場で知り合った人たちでも良いが、できれば知り合いの方が楽だし嬉しい。

 そうなると、やっぱりいつものメンバーからか。でもオルは戦闘向きじゃないし、ピネットは既に攻略済みだから断られるかもしれない。アリスは、まあ何も言わずとも着いて来てくれるだろう。


 (……レミィは、誘ったら来てくれるかな)


 レミィならきっと解毒についての魔術も知っているだろうし、私とアリスの前衛に、後衛として魔術師の彼女がいればパーティとして安定しそうだ。

 そういえば、と思い出す。入学初日、オルと二人で話していた時に旅をしたいと言っていた気がする。それが冒険者として、ということなのかはわからない。


 「ねえ、ピネット。砂漠の“迷宮(ダンジョン)”は三人で行けると思う?」

 「うーん……流石に厳しいと思うけど、そこで寝てる子も含まれてるんでしょ? なら割と余裕かもねぇ」


 私の問いに対しピネットは、両腕を組んで悩んだ後に寝ているアリスを見ながらそう言った。

 なるほど、余裕かもしれないか。


 (今度、レミィにも聞いてみよう)


 一緒に“迷宮(ダンジョン)”へ行こうと言ったら、彼女はどんな反応をするだろう。良いよと言ってくれたならそれが一番だが、断られたらちょっとへこむかもしれない。

 いやまあ一応危険な場所であることは変わりないので、それも仕方ないか。その時はその時だ。


 私が考えていると、授業の終わりを告げる鐘の音が聞こえた。

 今日も残すところ、あとは剣術だけだ。最近はジアの熱が入ってきたのもあって、内容がかなりはげしくきびしいものになってきた。


 (今日も頑張ろう)


 心の中で覚悟を決めながら、羊皮紙を片付けていく。

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