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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第三章 金獅子の娘は夢を追う
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第91話:友達として

 それからしばらく経っても、レミィの様子はおかしかった。ふと見せる暗い表情や、食事中に何か考え込むように俯きながらぼうっとしている。

 普段の明るく温厚で、笑顔を振り撒く彼女を知っていると、明らかに以上だと感じる様子だ。

 それは私だけでなく、オルとピネットも同じように感じ取っているようで、この数日に二人からレミィについての話や相談があった。


 ピネットからは夜、私が洗濯をしている最中に、彼女が部屋を訪ねてきた時の話だ。

 謹慎が解けてからピネットは、寝る前の少し空いた時間によく遊びに来るようになった。大抵、何かつまめるものと葡萄酒を携えて来ては、一人で酒盛りをしながらアリスと話をしている。

 その日もそれだろうと思っていたが、話しかけられたのは私だった。


 「フィリアさあ」

 「ん? なに?」

 「レミィの様子、最近変じゃない?」


 私は洗面所で服を洗いながら、その入り口に立つピネットの言葉を聞いた。

 少し手を止め、レミィの最近の姿を思い出す。確かに、と思うことはいくつもあったので、私はピネットの言葉に頷いて肯定した。


 「だよねぇ。なんかぼーっとしてたり、話し掛けても気付かない、みたいなさ」

 「食事中も、手が止まってた」


 どうやらアリスも、レミィの様子がおかしいことに気付いたらしい。ピネットの言葉に付け加えるように、ベッドの方から声が聞こえた。


 「なんか聞いてない?」

 「なにも。聞いてみようかと思ったけど……」


 言いたくないことや、隠したいことなんていうのは人それぞれにあると思う。それを無理に聞き出すのは気が引ける。

 悩みや相談事は、その人が言いたくなった時、吐き出したいと思った時が一番良いタイミングだと思う。

 そう思い、言い淀んでいるとピネットはため息をついた。


 「フィリア。もしかして友達少なかった?」

 「……まあ少ないというか、うーん」


 家族は沢山いた。でも友達と呼べる関係性の人間は、あまりいなかったと言って良いだろう。

 年齢の近さで言えば、ルゥが一番友達に近い子だった。でも二人で何かしたりというのは無かったし、やはり教会にいたシスターたちは家族という意識の方が強い。


 (……そもそも私の友達が少ないという話と、レミィの話にどんな関係があるんだ)


 そんなことを考えていると、ピネットが私の前にしゃがんで目線を合わせながら話を始めた。


 「時には友達なら、無理やり悩み聞き出して、一緒に解決してあげるものよ」

 「……レミィから聞き出せってこと?」

 「そゆこと」

 「ならピネットが聞けば良いんじゃないの?」

 「アタシよりもフィリアの方が、レミィと仲良いでしょ?あと相談に乗れるほど、大人じゃないからアタシ」


 なんか、体よく使われてないか私。

 というか大人じゃないと言うなら、私だって変わらないだろう。


 「そんなわけで、レミィの件よろしくね」

 「えっ? 本当に私がやるの?」


 ピネットは立ち上がって洗面所を出ながら、私にそう言って聞き返す頃にはそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 私は肩を落としながら、洗濯に戻る。

 取り敢えず、明日会った時に文句を言おう。

 そんなことを思いながら、レミィについてどうしようかと考え、洗濯を続けた。


 オルから聞いた話は、こうだ。

 ある日の昼休憩、レミィとピネットが用事で遅れて合流するということで、私とアリス、ピネットの三人で昼食を摂っていた時のことだ。


 「……君は何か、レミオレッタから聞いているかい?」


 アリスが口の端を汚していたので、私がハンカチで拭っていると、オルが探るようにそう尋ねてきた。

 私はアリスの口を拭いながら、最近レミィから何か言われただろうかと考えてみるが、特に思い当たる節は無かったので黙って首を横に振った。

 するとオルは肩を落としながらため息を漏らし、その手に持ったフォークで豆料理を弄りながら話を続ける。


 「そうか。仲の良い君たちのことだ。フィリアなら何か知っているだろうと思ったが、外れたようだ。いや、もしくは僕の勘違いか」

 「……どういうこと?」


 私がそう聞き返すとオルは、一瞬どうするか悩むような素振りを見せ、話し始めた。


 「……僕も聞いた話だが貴族、それも“王の色彩(カラーズ)”で何かトラブルが起きているみたいでね」

 「トラブル?」

 「ああ。詳細までは知らないけれど」


 それが最近、レミィの様子がおかしい理由なのだろうか。

 確かにそれなら、様子がおかしいことに納得できる気がする。家でトラブルが起きているとなれば、心持ちとしては不安になるだろうし、何よりレミィは寮生だ。学園の外との関わりが薄い。

 一応、週末に二日の休みがあり、寮で暮らしている者は申請を事前に出しておけば外出ができる。逆に言えば寮生にとって、学園外との接触はその二日しかない。


 (トラブルがどの程度のものかわからないけど、今どうなっているかって心配にはなるよね)


 だとすると、割と合点がいく。

 ピネットから、レミィの悩みを聞き出せ、と言われたのを思い出す。もしもレミィの悩みが本当にそれだとしたら、正直手に余る。私がどうこうできる問題じゃない気がする。


 「まあ確実な話では無いし、詳細もわからない。本人から言われるまでは、静観で良いだろう」


 オルのその言葉は、ピネットとは真逆のものだ。

 私も比較的、オルの考えに近い。何か起きてからではおそいだろうが、何もわからない状態で能動的に動くのは得策じゃない気がする。


 (でも、心配は心配だし……)


 どうしたら良いのだろうか。

 ピネットに言われた通り、無理にでも聞き出すべきか。

 それともオルと同じように、レミィから直接相談されるまでは静かに待つべきか。


 (友達なら、どっちなんだろう)


 私もまた悩みながら、豆料理を口に運んだ。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日17時の更新を予定しております。

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