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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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幕間:ミリアの一日〈後編〉

 「ーーさて、困りましたね」


 目の前で椅子に座るエドガーが、眉間に指を当て、俯きながらそう言った。彼の目の前には、一通の手紙が開いた状態で置かれている。

 丁寧に封蝋がされ、羊皮紙ではなく高級品である真っ白な紙を使ったそれは、差出人の身分をある程度予測できるものだった。


 「シスター・ミリア。これについて、どう思いますか?」


 そう言ってエドガーは、トントンと手紙を指先で叩く。私は彼を見据えたまま、少しだけ考える。


 あの手紙は、寝坊したリーシャが郵便受けを確認し、持ってきたものだ。

 私は朝食を食べ終え、洗濯物を中庭で干している最中にエドガーに呼ばれて来ている。


 何故私が呼ばれたかと言えば、単純にエドガーにとって相談しやすい相手が私であること、そして内容についても私が適任だったからだろう。

 手紙の内容についてはもちろんエドガーから先ほど聞いており、内容に付随する事情についても、ある程度把握している。


 「まさか、ここまで早く動いてくるとは思いませんでした。早くても一ヶ月は余裕だと」

 「私も同じ意見です」


 私がエドガーの問いに対し答えると、彼はため息混じりにそう言って手紙を手に取る。

 視線をエドガーから手前の机に落とし、封蝋を見ると真っ赤な蝋に竜の紋章が象られていた。


 「“緋竜”はそこまでして、あの子のことを?」

 「はい。手紙にはなるべく早急に、と書かれてまして」


 困ったものです、と言いながら苦笑したエドガーを見て、私は唇を噛んだ。

 “緋竜”とはある家の通称であり、この教会を金銭面や物資などで支援してくれている者たちのことだ。彼らは数年前よりあの子、フィリアの身柄を要求するようになった。

 理由は様々あるが、一番はその身の上にある。


 「ドラゴンと接触したこと。それだけで彼らにとって、何よりも重要なんでしょうね」


 十年前、フィリアの故郷で起きた天災。

 あの出来事だけで、“緋竜”たちは彼女を欲している。その経験は自分たちの家名に相応しいから、ぜひとも家族になってくれ。

 それが手紙の内容で、これまでの要求の全てだ。


 今までは国教の教会で暮らしていたということが、フィリアの身を守っていた。アルビス教の保護下にある事実は、彼女に対する悪意やその他の思い、考えに対して抑止力となっていたのだ。

 しかし、フィリアは学園へと旅立った。

 それは彼女にとって一番良い選択だ。同時に、彼女を巡る者たちにとっても良いものと言える。何故なら、国教の保護下から出て来たことにより、手が出せるようになったからだ。


 「……“剣帝”様の名を借りるのはいかがでしょう?」


 私は考え、エドガーにそう提案する。

 ジアはこの国において、“英雄”と同じくらいにはなの通った御仁だ。彼の名前を出して、フィリアは彼の弟子だ、という牽制をするだけでも効果はあるだろう。嘘をついているわけではないし、この国で“英雄”の次に名前が知れ渡っている。


 「それが丸いでしょうね」


 エドガーの頷く姿を見た私は、とりあえずこの後はジアに連絡を取ろうと考える。本人の許可も無く、名前を使っては失礼だろうという考えからだ。


 (今度お会いした時、何か食べ物を作ってお渡ししましょうか)


 ジアはよく食べるし、私の料理を喜んでくれる。それこそフィリアが彼の分をつまみ食いした際に、怒りから稽古が八つ当たりになるほどに。


 「シスターたちにも、簡単で良いので“緋竜”の件を伝えておいてください」

 「承知しました」


 “緋竜”のことは、この教会に属する者であれば誰でも知っている。いや、正確にはフィリア以外は知らされている。

 当事者である本人に伝えていないのにも理由はあるが、今は割愛しておこう。


 その後、私はいくつかの話し合いをエドガーとし、洗濯物へと戻っていった。

 昼食に“緋竜”の件を周知した際、一部で“緋竜”に対する過激な発言や考えがあったが、賑やかなだけだったと処理した。


 (何も無いのが一番なんですがね)


 そんなことを考えながら、私はシスターとしての仕事をこなす。

 今日の手紙のようなイレギュラーは稀で、基本的には平和な教会だ。だからこそ、ララとリーシャのようや子が反省しないとも言えるが。


 そうして一日を終え、また次の日がやってくる。

 フィリアは少し遠くに行ってしまったが、それでも私の一日は変わらないのだ。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日17時を予定しております。また次話より第三章が開幕となります。ぜひお楽しみください。

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