表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
90/96

第87話:走り出した先

 「どういうことですか!?」


 木目調の黒い机を両手で強く叩き、私は目の前に座る男へ問い掛けた。男は私の様子に一切物怖じせず、パイプを口に咥えたままため息をついていた。


 「どうもこうも、なんのことかわからん。急に入って来たと思えば、第一声がそれでは答えようがないだろ」


 男ーーデカルトはパイプを口から離し、うんざりした表情を見せながら私にそう告げた。


 食堂近くの掲示板に貼り出されていた内容について、私は詳細を知っているだろうデカルトに会いに、彼の自室へと訪れていた。

 レミィたちには、食堂に行くよう伝えてある。一緒に行くと言ってくれたが、私個人の問題に時間を取らせるのも申し訳なかったため、そのようにした。

 ちなみにアリスはそれでも着いて来たため、部屋の外で待たせている。


 「決闘の結果やマウロの件です!」


 ここへ来るまでに、なるべく冷静に話を聞こうと思ってはいたものの、いざデカルトの前に立つと感情的になってしまう。

 決闘のこととなれば、私は当事者だ。なのに何も聞かされないまま、決まってしまったことに私は苛立っている。デカルトやマウロから直接言われないで、羊皮紙に数行書かれたもので知らされたことにもだ。


 「掲示板に書かれたことが全てだ。お前が勝者で、マウロ・ロドリゴスは退学となった」

 「その理由とか、過程とかを知りたいんです! だいたい、何で私抜きで話が進んでいるんですか……!」


 デカルトは私の言葉に、また一口パイプを吹かすと、机に置かれた小さな皿に中身を落とした。乾いた葉っぱの屑が燃えており、細い煙を上らせながら独特な匂いを振り撒いている。

 彼は少し考えるような素振りを見せ、ため息をつく。


 「……学園から詳細について口止めされてる。だが当事者であるお前なら良いだろ。ただし、口外するなよ?」


 私はデカルトの言葉に頷き、机から両手を離すと姿勢を正した。それを見て彼は、真剣な面持ちで話し始めた。


 「勝敗についてだが、俺に直接、ロドリゴス自ら敗北を宣言したことで決まった。引き分けでなく、自分の負けだとな」

 「自分から、ですか……?」


 咄嗟にそんなことはありえないだろう、と言いそうになったが踏み止まった。マウロのことは全くと言って良いほど知らないが、これまでに見て来た彼の態度や言動を考えると、ありえないと思ってしまう。

 理由だ。理由を知りたい。


 「マウロはその理由を、言ってましたか?」

 「不意を突かれた正面からの斬り落とし。あれによってて一時的ではあるものの、意識を失っていた。本来、あの時既に自分は戦闘不能と判断されるべきだと」


 仰向けで倒れていたマウロの姿を思い出す。たしかにそう言われればそうだが、決着を告げる声は聞こえなかった。


 「でもあの時、デカルト先生は何も言ってないはずです」

 「ああ。俺はまだ続行できると判断したからな」


 それも伝えた上で、ロドリゴスは敗北で良い。そう言っていたと、デカルトは答えた。

 意識を失ったことが勝敗を決するのであれば、私はそれより前に顎先を掠めた攻撃によって、一瞬意識を手放していた。順番的に見れば、私の負けでも通りそうな理屈だろう。

 私がそれを伝えると、デカルトは首を横に振り否定した。


 「既に学園の決定事項として、掲示板を介して全生徒に通達している。変えることは無理だ」

 「ならもう一度知らせれば、良いだけじゃないですか!」

 「決定事項と言ったろ」


 そんなこと言われても、納得できない。

 こんなの、勝ちを譲られたようなもので勝ったと思えない。そんなことになるなら、不利だろうがもう一度決闘したって良い。

 だが、もう一つの通達事項によってそれすらもできない。


 「そうだ退学! 退学ってどういうことなんですか!?」

 「次から次へと……落ち着け。ちゃんと話してやるから」


 デカルトは明日から立ち上がり、窓の近くに立つ。以前、彼から呼び出され、ここに来た時のことを思い出す。あの時とは立場が逆転しており、問いただしているのが私で答えるのがデカルトだ。


 「俺も直接本人から聞いていないからな」


 デカルトはそう前置きの言葉を述べ、私の目を見ながら語り始めた。


 「告発された内容を重く見た、学園から奴に対する処分だ」

 「……告発?」

 「そうだ。奴からの依頼で、お前が冒険者の襲撃を受けたとな」


 襲撃、と言えば昨夜のことに違いない。夜の稽古中にナイフによる襲撃を受けたことは、まだはっきりと覚えている。

 マウロによるものだろうと予想はしていたが、まさか本当に彼が犯人だとは、驚きを隠せない。しかも下手人が冒険者なんて、夢にも思わなかった。


 「マウロは、本人は認めているんですか?」

 「知らん。直接聞いたわけじゃないと言っただろうが。だが即日退学とされた以上、ある程度裏は取れてるんだろうな」

 「……え? 即日ってつまり、今日ってこと!?」


 私がそう尋ねると、デカルトは頷いて見せた。

 そんなこと、掲示板の内容を教えてくれた子は言っていなかった。


 「マウロは、彼は今どこにいるんですか!?」

 「手続きは済んでいるそうだから、もう学園から出るんじゃーーっておい! アスファロスっ!」


 私はデカルトの呼び掛けを無視し、急いで部屋を出る。

 アリスが少し驚いたように、どうしたのと尋ねて来たが、今は答える時間すら惜しい。


 学園から出るとなれば、場所は一つしかない。外界と学園を繋ぐのは、そこしかないからだ。

 私はその場所に向かって走り出す。全身の傷が痛み、こんなことなら治して貰えば良かったと少しだけ後悔した。


 (直接会って、話したい)


 その思いが、私を突き動かした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ