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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第86話:いつもの五人、二つの報せ

 「――フィリアちゃん!」


 校舎の食堂前は、殺到する生徒たちによって人混みができていた。その中に、私の名前を呼ぶ者がいる。その呼び方と声から、その者の正体がレミィであることはすぐにわかった。

 彼女は人混みの中で跳ねており、私に向かって手を振っている。私は少しだけ恥ずかしくて、控えめに手を振って応えた。

 少しすると雑踏をかき分けながらレミィは、オルとピネットの二人を連れながら私に駆け寄ると、一瞬考えるような素振りをした後に腕を首に回して抱き着いてきた。


 「れ、レミィ……?」

 「良かった……格好良かったよ……!」


 私が困惑していると、レミィは私の耳元で声を震わせながらそう言った。

 密着しているので彼女の体温を感じ、少しだけ安心感を抱きながらも、大衆の面前でこの体勢はとても恥ずかしい。その状況に加えて、抱き返して良いのかわからなくなり、私の両腕は居場所をなくしていた。


 「レミィ、フィリアは怪我人」

 「……えっ!?」


 私の右手を握り、隣に立っていたアリスが半目でレミを見ながらそう諫める。彼女はその言葉に一拍間を置くと、飛び退くように私から離れた。


 「え、なんで、治してもらったんじゃ……?」

 「あー、一応そんな話はされたんだけど……肩の怪我だけ、ね」


 そう説明すると、レミィは少し混乱したように首を傾げながら、私の体を下から上へと見ていた。


 果物を食べ終え、一度眠りについた後、医務室の担当教師が帰って来て私を起こした。その時に、体の怪我などを治す話になったが、少し考えた上で肩のヒビだけ治して貰うことにした。全て治して貰った方が色々と楽になるのはわかっていたものの、戦った証を消してしまうのは嫌だったからだ。

 それを伝えるとその教師は、決闘を終えた後の生徒は皆そう言う、といって微笑みながら治癒魔術を掛けてくれた。

 治癒魔術が掛け終わる直前、アリスが戻って来た。そして二限目ももう終わる頃だったので、私は彼女と共に食堂へと向かったのだ。

 医務室の先生は終始笑顔で、とても柔らかい印象の女性だった。また今度会ったら、お礼を言おう。


 傷を残しているのは気分というか、気持ちの部分の話なので、より詳細に説明しようにもなんて言ったら良いかわからないのが現状だ。


 「フィリアも立派な戦士、ということだよ。レミオレッタ。いや剣士と言った方が正しいか?」


 困っている私を見兼ねてか、オルが一歩前に出てきてレミィの肩に触れながら、彼女に諭すようにそう言った。


 「オル」

 「おはよう、フィリア。素晴らしい戦いだったよ。その傷は、君が誇り高いことの証明になるだろうね」


 オルは朝の挨拶をしながら、いつものように前髪を手で払ってそう言った。彼と今日話すのは、これが初めてだ。今朝はホームルームに行かず、直接第三運動場へと向かってしまったため、寮生ではない彼と話す機会が無かったからだ。

 彼の言葉はレミィの耳にも届いており、彼女は完全ではないものの納得した様子だった。抽象的な感じもあるが、レミィが納得してくれたのならそれで良い。助かった。


 「ありがとう。引き分けになったらしいけどね」

 「完全な互角だったということさ」


 何一つ恥じることはないよ、と言ってオルは私に微笑みかけた。

 自分でも、恥ずべきところは無かったと思う。そのことを観客として、あの観覧席から見ていた彼に言われるのは嬉しかった。


 「正直、最初の方は冷や冷やしたけどねぇ。一方的な展開だったし」


 ピネットはいつも通り、ふわふわとした髪を揺らしながら笑っていた。


 「ピネット」

 「……わかってるよぅ。後でちゃんと話すから」


 アリスはうんざりしたような声色で、ピネットの名を呼ぶ。対するピネットは頭の後ろで手を組んで、どこか申し訳なさそうにそう答えた。

 なんだかアリスとピネット、二人の間に今朝までと違った雰囲気を感じる。

 私が医務室で寝ている間に何かあったのだろうか。険悪な感じはしないので、取り敢えず気にしないことにする。


 「皆、ごめんね」


 私は三人の顔を見ながら、頭を下げる。

 気を失って医務室へ運ばれたこと、そして決闘が決まってから今日までの間、私の勝手な思い込みかもしれないが、三人には心配を掛けさせたと思う。それらを含めて、私は三人に謝った。


 「謝られるようなこと、されたっけ? アタシは覚えてないけど」

 「奇遇だね。僕も全く身に覚えが無い。むしろ頑張る姿を見せられて、奮い立たせられたほどさ」


 オルとピネット、二人はとぼけたようにそんな会話をしていた。


 「謝らないで、フィリアちゃん」


 レミィの声に、私は顔を上げた。目の前に立つレミィは優しく微笑みながら、私の手を取る。


 「私たち、ずっと応援してた。負けないで、って。そんな私たちへの言葉は、ごめんねじゃないよ」


 そう言われ、私は一瞬考える。

 答えはすぐに見つかった。

 私は精一杯の笑顔で、その言葉を告げる。


 「ありがとう、皆」 


 私の言葉に、レミィたちは満足げに頷いていた。


 廊下で話し続けるのも、行き交う生徒たちの邪魔になるだろうということで、私たちは食堂へ入ることにした時だった。


 「何やら、騒がしいね」


 ピネットの言葉に私たちは、廊下の奥で生徒たちが何やら騒いでいることに気付く。


 私たちはその様子が少し気になり、食堂へ入る前に何が起きているのか確かめようということで、奥へと進んだ。

 そこには生徒たちが集団を作っており、何か話をしている。彼らの視線は廊下の壁へと向けられており、私たちもそれに釣られて視線を移した。

 その壁は掲示板だ。学園から生徒への通知を貼り出す場所で、二日前、私の決闘についてもここに貼り出されたのを思い出す。


 ざわつく生徒たちの姿から、また何か新しい報せが掲示板に貼り出されたのだろうと思い、私たちは集団の後ろから掲示板を眺めてみる。羊皮紙が一枚貼り出されているのを確認できるが、少し遠くて内容までは読めなかった。


 「あ、ねえねえ。あの羊皮紙に書かれてること、わかる?」


 私の後ろに立っていたピネットが、集団の中から出ていく女子生徒に話し掛ける。制服の色からして、同じ第一学年だ。


 「え? あ、えっと……今朝の決闘について、だそう、です……」


 丸い眼鏡を掛けた彼女は、急に話し掛けられたことに驚きながらそう答えた。


 「詳細も読んだ?」


 決闘についてと言われ、気になった私は反射的に彼女へそう聞き返した。

 引き分けとなった時、どうなるのか知らないので気になっていたところだ。後ほどデカルトあたりから聞かされると思っていたので、まさか掲示板に貼り出されるとは思っていなかった。

 仕切り直しかなぁ、などと呑気に考えていた私に、その女子生徒は予想外の答えを私に告げた。


 「引き分けではなく、アスファロスさんの勝利となったことと、ロドリゴスさんの退学について、書いてありました」

 「……え?」


 引き分けじゃなくて、私の勝ち?

 マウロの退学?

 なにを言って、どういうこと?


 彼女の答えに、私の頭は疑問に溢れ、次第に真っ白になっていった。

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