表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
88/96

第85話:光を浴びながら

 切り分けられた果物を、一口頬張る。

 ベッドは窓側に面しており、柔らかな日光がカーテン越しに差し込んできている。それがとても心地良くて、私は眩しさに目を細めた。左手で顔を覆い、光を遮断しようとしたが左肩が痛んで、上手く動かせなかった。

 アリスは用があるとのことで、一度席を外している。この医務室にいるのは私だけで、他の生徒の姿は無い。


 「甘い」


 この果物は教会でも時折食べていた物で、これを使ったミリ姉のパイはとても美味しかった。ジアも気に入っていたし、ララたち姉妹が取り合いになっているのを思い出す。


 医務室を出る前のアリスに聞いたところ、今は二限目の最中だそうだ。

 私は決闘後、すぐに医務室へ運ばれた。加護によって致命傷は負っていないが、全身に打撲と擦り傷、酷使された筋肉の疲労、剣による怪我に左肩の骨にヒビが入っていると、医務室の担当教師が言っていたらしい。左腕を使おうとすると痛むのは、それが原因だろう。

 その担当教師は治癒魔術で、怪我をした生徒を治すためだけにいるとのことだったが、私の傷は治っていない。その疑問をアリスにぶつけたが、彼女は何も答えなかった。知らない、というより答えないと言った方が、その時のアリスの様子を指す言葉としては適切だろう。


 (まあでも、治して欲しいとは言わないかも)


 この痛みと傷は、決闘の末にできたものだ。

 理屈で説明はできないが、この傷を治してしまったら決闘が無かったことになる気がして、治さなくても良いと思ってしまう。

 担当の教師が来たら治さないでくれ、と言ってみても良いかもしれない。でもヒビは流石に日常生活に支障が出そうなので、治してもらっても良いかも。

 そんなことを思いながら、私は最後の一切れを口に放り込んだ。


 改めて、決闘の結果について考える。

 最後の一撃、あれは相打ちとなって、私とマウロは同時に気絶したそうだ。

 判定を下すデカルトは、それまでの攻防を振り返った上で互角であったと運動場にいた生徒たちに告げ、引き分けを宣言した。

 マウロはというと、ついさっきまで私の隣で寝ており、私より先に目が覚めたので授業に戻ったとアリスは言っていた。

 私も授業に戻りたいとアリスに言ったが、怪我の具合で言ったらマウロより酷いものだったそうで、デカルトからは今日一日、休んで良いと言われているらしい。遅れは出るかもしれないが、欠席扱いにはならないので気にしなくて良いとも言っていたそうだ。


 (そう言われても、午後は冒険者学と剣術。どっちも好きな授業だし、ちゃんと出よう)


 これで休んだら、ジアから何か言われそうというのもある。

 今から行っても二限目には間に合わないので、この時間はゆっくり休ませてもらうことにする。


 「引き分け、か……」


 どうなるんだろう、と呟きながら思う。

 勝った時どうするかは決めていたが、引き分けた時なんていうのは想定していなかった。こういう場合、普通の決闘ならどうするのだろうか。

 仕切り直しと言われたらどうしよう。流石に明日とか無理だが、日を開ければ大丈夫か。それまでまた剣の稽古でもしながら待っても良い。


 「でも、手の内は全部使っちゃったんだよね」


 私は右手を自分の胸に当て、瞳を閉じる。自分の中に集中し、探るように感覚を研ぎ澄ませる。

 決闘の前までそこにあったものが、無くなっている感覚がある。


 (魔力切れ。貯まりきるまで、どれくらいかかるかな……)


 自分の中にあったもの、それは魔力だ。

 空っぽになっている感覚、それを自分の奥に感じた。


 原因は明白だ。

 決闘の終わりに使った、自身の周りに揺らめく青い光を纏わせていたあの技。

 その技の名は“陽炎の剣(ヘイズ・ブレイド)”。技の効果は、貯め込んだ全ての魔力を己の体に流し込み、短時間ではあるが身体能力を限界を超えて底上げさせる。発案者、というよりこの技を使っているのはジアだ。

 十年前、いくつもの剣術を教わった私はそのどれもに適性が無く、そもそも才能が無いとジアに告げられる。だが、それで諦めるつもりが無かった私は、彼にどうしたら強くなれるかと尋ねた。彼から返ってきた答えこそ、魔力を使った身体能力向上の(すべ)だ。


 完全に習得したのは今年に入ってからで、実際に使ったのは今回の決闘が二回目だ。簡単に使ってはいけないとジアに言われており、その理由は身体能力を無理やり上昇させるため、肉体への負荷と、反動によって重傷を負う危険性があったことにある。


 ちなみに体の外側に揺らめく光が見えるのは、体に流し込みきれなかった余剰魔力で、青く発光しているのは、魔力の適性が水であることによるものだとジアは言っていた。

 彼は、私はまだ魔力の運用が甘いので、余剰として流れ出てしまう。もっと技術が上がれば無くなるとも語っていた。

 今回は、使用していた時間が短かったので、筋肉の疲労だけで済んだと考えられる。


 (魔力を全部使う以上、次にあの技が使えるのは魔力が完全に貯まってから)


 私の一日に魔力を生成できる量は、全体の三割程度。完全に貯まるまで、最低でも四日は掛かる。

 もし決闘が仕切り直しになり、二、三日の間に執り行われるとしたら間に合わない。そうでなくとも、あの技を見せてしまっている以上、対策されるのは明らかだ。


 「次は、もっと辛い戦いになるよね……」


 そう呟きながら、肩を落とす。


 窓の外を見る。

 誰も居ない中庭が見え、植えられた木々が風に揺れている。


 「……彼は、何を思っているんだろう」


 私はマウロの不機嫌そうな顔を思い出しながら、再び横になって目を瞑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ