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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第79話:決闘を見詰める者たち

三人称視点です。

 「まさか、あんな隠し玉を持ってるなんてねぇ」


 外と中央部を繋ぐ薄暗い通路で、そう呟いたのは一人の少女だった。

 中央部で繰り広げられる剣撃はまるで嵐のようで、同時に死闘の終わりが近いことを示していた。


 「魔力を全身に巡らせて、自身の身体能力を底上げさせる技。魔術が使えないって聞いてたんだけど、魔力運用はできるんだ」


 情報が不足したなぁ、と少女は自分の頭を掻いた。

 だがその言葉に反して、少女の表情は穏やかであり、笑みを浮かべるほどの余裕すら見せている。


 「アタシたちの“獣化(アルタール)”に近いね。人族が似たようなことするなんて、聞いたことないけど」


 ふふんと鼻を鳴らすと、彼女の明るい茶髪がふわふわと揺れた。


 「ま、アタシは仕事を十分にこなした。知らないことあっても文句言わないでよ?」


 そう言って彼女が見たのは、死闘を繰り広げている男子生徒、マウロだ。彼の表情は苦悶に満ちており、少女はそれを見てまた鼻で笑った。

 すると彼女の頭頂部にある三角形の耳が、ピクリと動く。

 少女は表情を変えることなく目を伏せ、一つ息を吐いた。


 「……来ると思ったよ。むしろまだ来ないのかな、なんて考えてた」


 少女は目を伏せたまま振り返る。体は中央部とは真逆を向き、言葉は暗闇へと吸い込まれていった。

 すると暗闇の向こう、運動場の外側からコツコツと足音が聞こえる。その足音は徐々に大きくなり、茶髪の少女へと近付いて来ているのだとわかる。


 「動きを、探っていた」


 足音共に聞こえてきたのは、女の声だ。それもかなり幼い少女の声。

 それを聞いて、茶髪の少女はゆっくりと瞼を開いた。

 彼女の視界、暗闇の向こうから近付いて来る影がある。一歩距離が縮まるごとに、茶髪の少女は目に見えない圧力を感じた。

 自然と少女の額から、汗が滲み出た。


 「泳がされたってこと?」


 振り絞った声は震えている。

 今すぐにでも逃げ出したいと少女が思うほど、暗闇の向こうから感じるプレッシャーは強く、そして冷たい。

 そして、少女は視界の中に、暗闇から出て来る白銀色を捉えた。

 小さな女の子。その子は白銀の髪と瞳を持ち、まるで人形のような美しさを持っていた。

 だが人形と違うのは、その手に握られた剣と、それだけで人を殺しかねない殺気を放っていることだろう。


 「――じゃないと、斬った後にフィリアに怒られる」


 その人形のような少女の名は、アリスヒルデ・ローデンバルト。

 この世界で最も名高い剣士、“英雄”の娘を名乗る者だ。


 「念のため確認する。お前は……フィリアの敵?」


 すぅっとアリスの持つ剣の切先が、茶髪の少女に向けられた。

 茶髪の少女――獣人、ピネット・ピルギノットは緊張からか、意識せず生唾を飲んだ。ごくりと喉がなり、同時に体が強張るのを自覚する。


 「……違うって言ったら?」

 「仮定は必要無い。答えて」


 ピネットの震えた言葉を聞き、アリスはそう答える。

 余計な言葉はいらない。そう言われていることを、ピネットは即座に理解した。


 「……違うよ。アタシは、依頼をこなしただけ」


 ピネットは唇の震えを抑えながら、真っ直ぐアリスを見据えそう言った。

 するとアリスは目を閉じ、その剣を下ろす。


 「わかった」


 そのアリスの一言に、ピネットは安心を感じながらも驚く。そんなすんなり信じてくれるとは思っていなかったからだ。


 「……随分と簡単に信じてくれるじゃん」

 「ある程度、事情を把握した上で聞いた。だから念のため確認、と言った」


 なるほどね、とピネットは呟く。できるだけ周りに察知されないように動いていたつもりだったが、どうやらアリスには全てお見通しだったのだと、ピネットは思った。


 ピネットは胸を撫で下ろした。殺し合いになると思って持って来た短剣を腰から鞘ごと外し、床に落とし、改めて争う気は無いのだと行動で主張する。

 カラカラと、軽い金属音を立てながら床を転がる短剣は、装飾の一切無い、鞘も柄も真っ黒に染められた物だった。


 「いつ気付いたの?」

 「予測はしていた。確信したのは昨日の夜」


 ピネットの問い掛けに対し、考える間もなくそう答えたアリスはその手の剣を光の粒子へと変換した。同時に、彼女の纏っていた殺気が消える。


 「あちゃー……失敗しちゃったもんね」

 「わざと失敗した」


 それもバレてたかぁ、とピネットは頭の後ろで手を組んで笑う。

 二人の間に、険悪な雰囲気は無い。


 「短剣を目視するまで、私ですら気付かなかった」


 アリスはゆっくりピネットへと近付きながら語り始める。


 「私がフィリアに向けられる殺意に気付けない。そんなことはあり得ない。だから、殺す気が無いとわかった」

 「すんごい自信。まあ実際そうなんだけどね」


 アリスはピネットの横を通り抜け、その視線を中央部の戦いへと向ける。

 ピネットはそれを横目に見ると振り返り、彼女と隣り合わせで中央部を見た。

 攻め立てるフィリアと、防ぐしかないマウロの姿を二人は見る。


 「一応、最初から説明しとく?」

 「どっちでも良い」

 「ならまあ聞き流してくれても良いから、話そうか。懺悔って意味も含めてね」


 ピネットは決闘の行く末を見つめながら、アリスに語り始めた。

 今回の決闘に関わる、ピネットの物語を。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日12時、次々話は17時の更新を予定しております。

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