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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第77話:私だけの剣術

 斬り結ぶたび、空中に火花が閃く。

 瞳に焼き付いたその光が、酷く眩しいように思えた。


 剣を右から左へ、横薙ぎに振るう。

 マウロはそれに対し、剣を垂直に立てることで受け止め、私の剣を辿るように前進するとカウンターとして突きを放つ。


 「……っ」


 顔目掛けて向かってくる切先を、首を横に倒し回避しようとした。だが反応が一瞬遅れ、切先は私の左頬を撫でた。

 刃は音も抵抗も無く、私の頬を浅く斬り裂き、鋭い痛みに私は顔を顰めた。


 「ぐぅッ!?」


 私はゼロ距離の状態からさらに一歩前へと踏み出し、左肩を前に、体全体を押し出す。その行動は体当たりとして作用し、マウロの鳩尾に左肩が食い込む。


 「はァッ!」


 彼は痛みと衝撃によって後退りし、間合いが少し空いたことから、私は右下から左上への斬り上げを行った。

 その攻撃はマウロがさらに背後へと後退することで回避され、剣は何もない空中を斬るだけとなった。


 攻めて、防がれ。守って、攻められる。

 まるで示し合わせたかのように、交代で繰り返される剣撃を、どれだけ続けているのだろうか。 

 制限時間はあとどれくらい残っているだろう。既に私は限界に近い。

 ゆらゆらと揺れ動く視界、呼吸が上手くできず息も上がっている。剣を持つ腕は震え、足は一歩動かすごとに激痛が走っていた。


 「はぁ……はぁ……」


 マウロを見れば、彼も同様に肩で息をしている。辛そうな表情に、私は自分を見ている感覚に陥った。

 

 (もう、十分頑張った)


 お互い、苦痛の中で意地を通そうとしているだけに過ぎない。


 (だから、もう)


 立ち上がらないで欲しい。

 マウロの姿を見ながら、私は思った。


 「……譲らない」


 するとマウロが口を開き、そう呟いた。

 私は剣を構えながら、彼の言葉に耳を傾ける。


 「負けてない……!」


 彼はゆっくり、その剣を構え直した。

 震える腕を必死に抑えながら剣を構えるその姿は、まさに私と同じなのだろうと悟った。


 「僕が、俺が! 負けるわけがないんだ!」


 気合いのこもったその一声は、運動場を揺らしたと錯覚するほどに圧のあるものだった。


 生まれや思想は違えど、彼と私は同じだ。

 押し通したい意思と、思いと、願いと、そして意地がある。

 同じなのだ。この場にいて、ここで剣を執っている以上、その何もかもが。


 (……出会い方が、ほんの少し違っていれば……)


 そんな思いが胸中に渦巻く。

 出会い方なんて人それぞれ違う。それに後悔をする意味も、するわけも無い。

 だが、そう思わずにはいられない。

 だって、少し違った出会い方をしていれば、きっと――


 (――私たちは、剣を通して友達になれたかもしれないんだ)


 何度も言うが、彼の剣は綺麗だ。ことここに至ってなお、私はそう感じる。

 私が避け、防いだ彼の剣が描く軌跡。その全ては、私が到底及ばない美しさを持っていた。

 羨ましいと感じるほどに。


 (だから超えたいんだ。超えて、伝えたいんだ)


 私がアルビオン学園(ここ)にいたいと思っていること。そしてあの地獄を生き延びて、どうしたいと願ったのかを。


 「……勝ったら、ちゃんと伝えるよ」


 私は構えを解き、その場にただ立ち尽くす。

 対してマウロは私の行動に警戒したのか、剣に込める力をより強くした。


 「そこから、また出会おう(始めよう)


 左手を、胸に当てる。

 ボロボロになった服越しに、自分の心臓が脈打っているのを感じる。


 「俺は、お前を認めない……!」

 「私は、君に認めてもらうよ」


 願いを貫くための力。

 私はそれを手に入れるために、この十年を費やした。


 それを今、使う。


 左手を握り締め、瞳を閉じる。

 感じるのは鼓動。そして溜め込んでいた力。

 使う時は、今しかない。


 「――“巡れ、(つるぎ)の鼓動”」


 心臓を中心に、目に見えない力が体の隅々へ浸透していく感覚を得る。

 同時に、私の体を淡い空色の光が纏わり付く。その光は私の鼓動と連動しているかのように、どくどくと明滅を始めた。


 「――“解放”」


 その言葉と共に、明滅していた光が一段と強く脈動し、私の周りをゆらゆらと揺らめく。

 体の底から湧き上がる力。これが私の十年の成果だ。

 そういえばこれに、名をつけていなかったとふと思い出す。今考えることではないが、この姿に絶好の名があると思った。

 その名と共に、今ここに、それを示す。


 「これが私の、私だけの剣術……名前をつけるなら、そう――“陽炎の剣(ヘイズ・ブレイド)”」


 右手に持った剣をゆっくり持ち上げ、その切先をマウロへと向ける。


 「行くよ、マウロ。無才の私が、君を倒す」


 空色に揺らめく光と共に、私の体はマウロ目掛けて飛び込んだ。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日12時、次々話は17時の更新を予定しております。

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