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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第76話:弟子

レミオレッタ視点です。

投稿遅くなり、すみません。

 運動場に、規則正しい金属同士の衝突音が鳴り響く。

 始まった直後こそ、非常に盛り上がり歓声が度々上がっていたが、今はほとんどの生徒が黙ってしまい、その音がよく通る。


 私は幼い頃に、父に連れられて王都の東側にある領地で、鍛冶場を見に行ったことがある。

 灼熱とも言える熱気の中、鍛治師たちは額に汗を浮かべ、必死の形相で鉄を打っていた。父はその姿を見て、己の信念と誇りを鉄にぶつけているのだと言っていた。


 金属音は、あの鍛冶場で聞いたものによく似ている。


 「お互い、譲らずか……!」


 隣に座るオルが、少し興奮した様子でそう言葉を漏らした。

 眼下で繰り広げられ続けている、死闘とも言える戦いを見る。先ほど、フィリアはマウロへ突進を加えた刺突技によって、彼を間合いに入れることに成功した。

 そこからは二人ともが剣による戦いに移行し、金属同士の衝突音、鉄を打つ音に聞こえていたものは剣撃によるものだ。


 剣は正直、私にはわからない。

 それでも二人が今、引く気も負ける気もさらさら無いように見えた。


 「ふぅむ。あまり良くないのぅ」


 私は、声が聞こえた方に視線を送る。

 彼はアリスが元々座っていた席におり、蓄えた髭を撫でながらフィリアとマウロの戦いを見守っていた。

 “剣帝”ジアッテ。彼はなぜか、私とオルの二人と一緒に決闘を見ていた。


 「“剣帝”様、良くないというのは……」


 私はジアの言葉が気になり、恐る恐る聞く。

 すると彼は視線を私に向けると、うむと一つ頷いた。


 「この状況を作り出したこと、それは良いんじゃがな。いかんせんその代償が多過ぎる」


 この状況というのは、マウロの魔術による一方的な攻撃を避け、フィリアの得意な剣の間合いを維持していることを指しているのだろう。

 では代償とは何か。


 「消費した体力と蓄積したダメージ。フィリアの方がマウロに比べて、そのどちらも多いのだろう」


 その疑問に対し、答えたのはオルだった。

 私はフィリアを見る。彼女の表情は必死さと真剣さを感じさせるが、それらは同時に苦悶とも取れるものだ。


 「痛みは自身を奮い立たせる時もあるが、心を折ることの方が大半じゃ」


 ジアの言葉を聞き、私は苦しいと感じた。

 フィリアのことは応援している。彼女の勝利を願っているし、マウロに一泡吹かせた上で自分を貫いて欲しいとも思っている。

 だが、私は彼女の、フィリアの友達だ。

 彼女が辛いのであれば手を貸したい。悲しいのなら寄り添っていたい。そしてそれら苦痛から、逃げてしまっても良いのだと言いたい。


 剣撃の、信念と誇りが衝突する音が響く。


 「……フィリアちゃん、頑張れ……」


 心の中の声が、口から漏れ出る。

 囁くようなその言葉は、フィリアの耳に届くわけではない。


 「このまま行けば、先に膝を折るのはフィリアか……!」


 オルの声が聞こえる。

 そんなことはない。フィリアならきっと勝てる。

 そう反論したいが、今のフィリアの姿を見ていると、膝を折ってしまっても良いのではないかと考えてしまう。

 十分に頑張った。その心を多くの生徒に見せた。だから、これ以上苦しまなくたって良いだろう。


 ――学園から去ったとしても、私がなんとかすれば良い。


 私は家の紋章が刻まれたブローチを、腰から取り外して握り締める。


 「……お主たち、悲観するのも良いが、もう少し信じてやれ」


 ジアの言葉に、私は頭を上げ彼を見た。

 彼は不敵に笑いながら、私を見ていた。


 「信じておりますとも。友を信頼せぬ者は、この場におりません」

 「……でも、これ以上辛そうなフィリアを私は見たくない……です」


 オルの言葉と私の言葉。それぞれの口から出たものだが、きっとお互いが思っていることだ。

 信じてる、でも止まって欲しい。

 二律背反とも言えるその二つの思いを、私とオルは抱いている。


 「……十年じゃ」


 ジアが呟くように言う。

 彼は何かを思い出しながら、優しい表情を浮かべていた。


 「あの娘と出会って、約十年、共に過ごした」


 彼は立ち上がり、フィリアを見ながら語る。


 「娘に、剣の才能は無かった。魔術さえ使えぬ、何も持たない無才。そこいらの凡才よりも劣ろうて」


 ジアはそう語りながら、ゆっくりと歩き出す。

 静まり返った観覧席には、彼の低くしわがれた声がよく通る。


 「だが娘は、諦めることだけはしなかった。何故ならとうの昔に、生きることさえ諦めてしまったからじゃ」


 言葉の意味はよく理解できない。

 だが何故か、彼の言葉は私の心に深く入り込んでくる。


 「だから儂も、諦めなかった。全ての知恵と力を賭けて、あの娘の道を照らそうとした」


 見るが良い、と言ってジアは両手を広げ、観覧席へ振り向いた。

 生徒たちの視線が、ジアへと向けられる。

 彼は、笑っていた。


 「我が弟子、フィリア・アスファロスは我が剣の全てを知った! 我が知恵を全て授けたのだ!」


 剣撃と、彼の声が響く。


 「――“剣帝”ジアッテの弟子。その名は、軽くないのだぞ?」


 瞬間、彼の背後で一段と大きな金属音が鳴った。


 決着が、近い。

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