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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第63話:フィリアのやりきれぬ思い

 廊下でレミィと別れると、私たちは自室へと戻って来た。

 この後、寝る前にやることを頭の中で整理しながら部屋の奥、ランプまで歩いていくと火を灯して灯りをつける。

 後ろから何かが倒れるような音がし、振り返って見てみれば眠気が限界だったのかアリスがベッドに倒れ込んでいた。


 「ちゃんと布団掛けないと寒いよ」


 私は寝そべったアリスに近寄り、その軽い体を動かして向きなどを直して布団を彼女に掛ける。

 声を掛けてみたが反応は無く、既に夢の中に旅立ってしまったようで、アリスは静かで落ち着いた寝息を立てていた。


 「……眠い」


 斯く言う私も大分眠気が厳しい。アリスの寝顔を見てしまったのもあり、眠気を誘われている。

 だがやるべきことが残っているので、私が眠るのはそれらが終わってからだ。ベッドに入るのはもう少し先になる。


 「……あれ?」


 洗濯物をしようと思い、洗面所に向かおうとした時のこと、ふと机の上に視線が動いた。部屋に入った時は暗くて気付かなかったが、何かが置いてある。


 「羊皮紙、しかも一枚だけ?」


 それは紐で丸められ縛られた一枚の羊皮紙だった。見える位置に私の名前が書かれている。

 よく見てみれば昨日、アリスが見つけた時間割と同じ紐が使われているに気が付く。その時と違うのは一枚だけだということで、それ以外は同じだ。


 「……これ、多分あれだ」


 書かれている内容まではわからないものの、私はこれが学園側からの、より細かく言えばデカルトから決闘に関する連絡だろうということを察する。


 椅子に座り酔う皮脂と向き合うと、蝶々結びで縛られた紐を解く。すると、丸められた羊皮紙は自然と開いていき、その中身を私に見せた。

 書かれている量は多くないことは、表面の文字の量を見ればわかる。


 「えっと……序列(カースト)戦についての諸連絡?」


 題名として一際大きく書かれた一文を、私は確かめるように読み上げる。

 序列(カースト)戦。ピネットが教えてくれたその名を読んで、彼女の予想が正しいことが証明されたのだと思った。


 私は指で本文をなぞりながら、書かれている内容を読んでいく。


 「第一学年ホワイトルーム責任者より、同所属の生徒間による序列(カースト)戦の申請があった」


 責任者はデカルトのことだろう。そしてこの生徒というのは、もちろん私とマウロのことだ。


 「王立アルビオン学園はこれを承諾。王の名において正式な決闘であると認む」


 書き方は小難しいが、要は序列(カースト)戦としての決闘であることを証明するのでやること自体に問題はない、ということだろう。

 たまに文字の読み書きの勉強として、エドガーが書類を見せてくれたことがある。その時にも思ったが、どうしてこう大人は遠回しな表現をするのだろう。単に決闘して良いですよ、って書くだけで良いだろうに。

 思うところはあるが、本題から外れてしまう。私は頭を横に振って文句じみた考えを振り払う。


 「えっと……なお、この決闘は今学期最初の序列(カースト)戦として、学園所属の全生徒に観覧の許可を与える」


 ……うん?

 なにやら雲行きが怪しい。

 観覧を許可する?

 学園の全生徒に?


 「マウロ・ロドリゴス、フィリア・アスファロス両名に対して学園は、正々堂々と華々しい決闘を披露するよう要求する……?」


 羊皮紙に書かれている本文にあたる部分は以上で、最後に小さく日時が記載されている。あとは本筋には関係ないだろうが、羊皮紙の右下の隅には王家の紋章が捺されていた。


 私は背もたれに体重を預け、天を仰いだ。視界には薄暗い天井が広がる。

 想定していた以上の都合を押し付けられた、と私は思った。


 「これじゃあ見せ物だよ……!」


 私たちの決闘は学園によって、全生徒へ見せびらかされるのだ。

 理由はなんとなく予想がつく。序列(カースト)とそれに基づいた決闘がどういうものなのかの視覚情報による説明、そして生徒に対する娯楽の提供だ。

 見られることは別に良い。戦っている最中に他人の視線なんか気にしていられるほど、私は器用じゃない。

 だが見せ物にされるのは話が違う。言葉で表現するのが難しいが、恥ずかしいなどという意味ではなく、気持ち的に嫌だと思った。私の大事な決闘を、こんな形で利用されるなんて、と。


 王の名と王家の紋章が捺されている以上、これは決定事項だ。決してこういう感じでやりたいけどどうですか、なんていう御用聞きでは無い。文句や反論すら許さぬ、ある意味での命令だ。


 そもそも私はこの決闘を取り下げる気は微塵も無いし、マウロもまた同じだろう。


 「〜〜〜っ!」


 私は行き場のない、怒りとも悔しさとも言える不思議な感情を、足をばたつかせることで発散しようとした。だがそれは床にぶつかる自分の足が痛くなるだけで、解消には程遠いものだった。


 私は椅子から立ち上がると、手に持っていた羊皮紙を机の上に放り投げ、洗面所へと向かう。


 洗濯だ。洗濯をして気を紛らわせよう。


 そんなことを思いながら、学園二日目の夜は更けていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日12時、次々話は17の更新を予定しております。

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