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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第61話:沢山の出会いのおかげで

 日課を終えた私は、レミィたちを待たせていることもあり、急いでアリスと自室へと戻る。

 寮の階段を早足で上がり、自室のある階へと着くと廊下の先に人影が見えた。足を止めその人影を注視すると、その正体は両手に着替えやタオルを抱えたレミィだ。

 レミィが立っている場所は私たちの自室前、つまり彼女はその扉の前で私たちを待っていたのだと気付く。


 「あ、おかえり。お疲れ様」


 階段の前で止まっている私たちに気付いたのか、彼女は駆け寄ると笑顔でそう言った。どれくらい待っていたのかわからないが、申し訳ない気持ちで一杯になる。


 「ごめん、遅くなったかも」

 「全然そんなことないよ。昨日と同じくらいかな?」


 そう言うとレミィが歩き出すので、私たちもそれに合わせて進み出す。

 もし明日以降も一緒に行動するのであれば、日課の時間を変えた方が良いだろうか。


 「時計見てそろそろかなって思って、あそこにいたの」


 待たせる時間をどう短くしようかと悩んでいると、レミィは振り向いて後ろ歩きになりながら私にそう言った。彼女は笑顔を振り撒きながら、言葉を続ける。


 「あと待ってる間、私も勉強できるから。気にしないで良いからね?」


 悩んでいるのが表情に出ていたのか、私を擁護するようにレミィは語る。免罪符とも言うべきその言葉は、私の中の罪悪感を多少和らげてくれた。


 「ありがとね。なるべく待たせないようにするから」

 「ここはそうじゃなくて、沢山練習してくるねって言うところ」


 そんなこと言えるはずないでしょうに、と思いながらレミィの言葉を聞く。

 まあ、でも。そこまで言ってくれるなら多少厚意に甘えても良いだろう。


 私は自室の前に着くと、アリスを置いて自室の中へと入る。今日も月明かりがとても綺麗で、部屋の中は薄暗いものの荷物を置いて、支度を整えるぐらいは問題無くできる。

 自分のとアリスの着替え、タオルを手に取り小走りで部屋の外へと出る。


 「ねえねえ、アリスヒルデちゃん。冒険者学、楽しかった?」

 「覚えてない」


 アリスとレミィはそんな会話をしながら待っており、私が部屋から出てきたのを見るとアリスが私の右腕に自分の腕を絡ませた。


 「アリスは冒険者学、全部寝てたよ」

 「えぇ!? もったいないよ……」


 私はレミィに話し掛けながら一旦アリスを引きはがすと、自分の分の着替えなどを手渡し、彼女の右手を握った。

 レミィはアリスが寝ていたことを聞くと、肩を落としながらとても残念そうな顔をしていた。


 「……私も冒険者学、受けてみたいなぁ」


 浴場に向かうため歩き出した時、レミィが小さな声で零した言葉を私は聞いていた。



―――☆☆☆―――



 「はぁ……」


 広く深い浴槽に腰を落とすと、全身がちょうど良い温度のお湯によって包まれ、その気持ち良さに私は思わず声が出た。

 大浴場は昨日と同じで他の生徒の姿は見えず、私とアリス、レミィの貸し切り状態だ。


 「やっと一息って感じだね」


 レミィがお湯をかき分けながら、私の隣に座るとそう声を掛けてきた。

 アリスは私の目の前で、水面から顔だけ出してぷかぷかと浮いている。目を閉じているが、まさか寝ていないだろうか。


 「だね。お風呂に浸かった時が一番落ち着くかも」


 私は浴槽の壁に背中を預け浅く座ると、肩まで浸かるように姿勢を変える。程良い熱が肌から内側に向かって、じんわりと浸透していくのを感じる。


 「そういえばピネットは? 一緒に入るって話してなかったっけ?」


 隣で膝を抱えて座るレミィにそう声を掛けると、彼女は一瞬考えるような素振りをする。


 「うーん、一応声は掛けたんだけどね。やることがあるって言って、断られちゃったんだ」


 レミィは悲しげに私の問いにそう答える。ピネットに対してかなり好意的だった彼女のことだ。断られたことが残念なのだろう。

 それにしてもピネットの言った、やることとは一体なんだろう。こんな時間に用があるとなると、学園関係のことではないのは確かだ。もしかしたら冒険者としての用事だろうか。

 まあ詮索するのも失礼か。


 「でもまさかフィリアちゃんが獣人の子を連れてくるなんて、私びっくりしちゃった」

 「冒険者学の時、彼女から声掛けて貰ったんだよ」


 ピネットとの最初の出会いを、今日のことながら思い出す。第一印象はあまり良くなかった。マウロのようにからかってくる口だと思って警戒してみれば、単純に好奇心旺盛なだけだった。

 オルもそういえば最初の印象は良くなかったが、話してみればとても良い人だった。人に恵まれているのかもしれない。

 今後はできればどんなことを言われても、警戒し過ぎないようにしてみよう。話せばオルやピネットのように仲良くなれるかもしれない。


 「さっきも言ったんだけどね。小さい頃から獣人の方と、仲良くしたいってずっと思ってたんだ」


 レミィは静かに優しく囁くように私にそう語り、どこか遠くを見るようにしていた。

 獣人のことを好きな理由が物語、というのが本好きな彼女らしくてとても微笑ましい。残念ながら私は“海を超えた獣”という本は読んだことはない。だがきっと、心に残って彼女のような人を魅了する内容なのだろう。ぜひいつか読んでみたい。


 「二日しか経ってないけど、ここに来て良かったってずっと思ってるんだ」

 「……私もだよ」


 教会と限られた範囲しか知らなかった私の世界は、この二日間で随分と広がった気がする。

 “王の彩色(カラーズ)”の第五席、レミオレッタ。

 王国内で名を馳せる商会の息子、オル。

 “剣の森”の獣人にして冒険者、ピネット。

 そして“英雄”の娘、アリスヒルデ。

 出会い方はそれぞれ違うけど、皆良い子だ。身分に関係なく過ごすように、という学園の方針が無ければ話すことも無かっただろう。


 もちろん良くない出会い方をしてしまった人もいる。その人とは決着がついた後、どんな関係になるだろうか。


 「……神父様、ミリ姉、皆。私、来て良かったよ」


 私は天井を見上げながら、見送ってくれた教会の皆の顔を思い浮かべる。エドガーたちがいなければ、私は今ここにいない。地獄から“英雄”によって救われた私を、ここまで育ててくれたのは彼らのおかげだ。

 彼らのためにも、より一層頑張ろう。

お読みいただきありがとうございます。

次話は明日12時、次々話は17時の更新を予定しております。


いいね、ブックマーク等ありがとうございます!日々の活力になっております!

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