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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第52話:心と剣の構え方

 素振りが終わり、次にジアから指示されたのは騎士団剣術の型稽古だった。


 これに一部の生徒は、はっきりと言葉にしないが反発気味でざわついていた。

 それぞれ得物も習得している剣術も違うため、それの練習ができないのが不満となったのだ。ただそれを言葉にしないのは、教師があの“剣帝”であることが原因だろう。


 私は正直それでも構わない。

 多少ではあるものの、ジアより騎士団剣術を教わっていたので抵抗感は無いし、教われるならどんなことでも貴重な経験と知識になるからだ。

 これまで適性のある剣術を模索し続けて、いくつもの剣術を教わったのがこの考えの要因かもしれないが。


 「騎士団剣術は、どのような者であれ扱えるよう考えたものじゃ」


 不満を抱えているという雰囲気を感じ取ったのか、ざわつく生徒たちの前に立つジアはそう言って杖代わりにした木剣を構えた。

 自身の顔のすぐ右側に柄を持ってきて、剣先が真っ直ぐ空に向けられる。地面に対し直角に立てられた剣は攻撃、防御の両方に優れた形となっている。この構えは騎士団剣術の基礎、四つの構えの一つである日天(ひてん)の構えだ。


 「騎士団剣術には剣を扱う技術、それに必要なことが全て詰まっておる」


 ジアは喋りながら、ゆっくりとした動きで柄を頭上まで持っていく。腕が伸び切る前に止められた剣は、地面に対し直角だったものから平行へと変化している。

 動きが止まったジアを、私たち生徒が黙って見ていると、次の瞬間には剣が振り下ろされていた。

 

 「必要なことには心構えも入っておる」


 振り下ろした体勢を解き、再び地面に木剣を突き立てたジアは語る。


 「要らぬことは教えぬ。いずれわかってくれれば良い」


 そう言ってジアは私たちに笑って見せる。

 彼の構えから振り下ろしまでの動き。私はそれを何度も見ているが、いつだってその姿は私の目に綺麗に映る。

 誰にでもできることだが、極めるにはそれ相応の鍛練と時間が必要になる。


 私は剣を習い始めてすぐの時、ジアに言われた言葉を思い出す。ジアに対して私が、なぜ剣術があるのか、と聞いた時のことだ。

 

 剣を振り回すなら誰だってできる。老いていようが、若かろうが、男も女も関係なく。

 だがそれはただ単に、筋肉という生物に備わった力を、普段の生活と同じように使っているだけだ。

 走る、という行為がある。ただ走るなら、誰にだってできることだ。

 例えばその走る時の呼吸の仕方、それを変えてみたらどうだろう。

 足の運び方や、腕の振り方を変えてみるとどうなるだろうか。もしかしたら体力を無駄に消費することが無くなるかもしれないし、速く走れるようになるかもしれない。


 技術とは、力の使い方だ。

 

 剣を振り回すのではなく、振り下ろすのであればそれは技術が必要になる。

 持ち上げ、構え、振り上げ、振り下ろし、構えなおす。その全ての工程に技術が存在し、習得すればスムーズかつ効率的に行えるようになる。

 合理的かつ効率的な剣の扱い方を明確にしたものこそ、剣術である。

 そしてそれを理解し、技術を習得しようと努力する心もまた剣術である。 


 かつてジアはそう語っていた。


 騎士団剣術は剣の扱い方の基礎中の基礎を網羅しており、全てが詰まっていると言ったジアの言葉は間違いではない。

 ジアは今、それを学んで欲しいと言っているのだ。


 彼の言葉を理解した者が、どれだけいるかわからない。

 だが多少なりとも効果があったのか、ざわついていたのが静まりかえり、生徒たちは皆ジアを見ていた。


 「では四つの構えから始めよう」


 ジアは生徒たちの姿に満足したように頷くと、そう言って授業を再開した。



―――☆☆☆―――



 騎士団剣術における基本の四つの構え。

 一つは先程ジアが見せていた日天(ひてん)の構えだ。フォム・ダッハとも言われる。

 剣の攻撃方法は突き詰めてしまえば斬撃と刺突の二種しかなく、日天(ひてん)の構えはその両方の行動を、スムーズに行えるため最も基礎に近いと言える。


 次に雄牛の構えというものがある。オックスと言われることもあり、頭よりも少し高い位置に柄を持ってきて、剣先を相手の顔に向ける構え方だ。

 鍔に対して右手が近いのか左手が近いのか、つまり剣の握り方によって体勢が変わる。右手が近ければ左半身を相手に向け、左手であればその逆だ。

 構えの特性として、刺突を繰り出す際と、相手からの斬撃への防御に優れている。


 三つ目に鋤の構え、プルークだ。構え方は雄牛と似ており、剣の位置を下ろし自分の腰後ろに柄を持ってくることでこの構えとなる。

 特性として雄牛から構え直しやすいことと、踏み込みによる距離の詰めやすさ、そして振り上げて裏刃を使った斬撃を得意とする。ちなみに裏刃とは両刃剣における峰を指す。

 振り下ろしの斬撃は多少繰り出すまでに時間がかかるが、振り上げた際の力を利用できるため威力は高い。


 そして四つ目に愚者の構え、アルベア。相手に対して正面を向き、剣先は完全に地面を向いた状態の構えのことだ。特性としては攻撃よりも防御、とりわけ迎撃と回避に重きを置いている。

 具体的に言えば、相手の突進や距離を詰める動きに対して、剣先を置いておくことで牽制する、または左右に振って足を切りつける迎撃ができる。

 他の構えよりも剣の重心が低いため、体の動きに制限や負荷が掛かりにくく動きやすいことから回避行動に転じやすい。


 四つの構えには様々な利点と欠点があり、それらを総合的に考えて自分に合ったものを主に使っていくのが普通らしい。

 私の場合は日天(ひてん)の構えが最もしっくり来る。まあそもそも使わない剣術なので、構える機会はそうそうないが。


 そうして構えを一通り教わっていると、四限目の終わりを告げる鐘が校舎の方から聞こえ、一旦休憩の時間となった。

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