表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
49/96

第47話:傲慢の死、油断の死

 「行き渡ったか?」


 ローガンは教室内の生徒を見回しながらそう言う。

 私はそんなローガンを見た後、視線を机の上へと落とす。そこには少し大きめの羊皮紙が広げられている。横目でピネットを見れば、私と同じ羊皮紙を片手で持って眺めていた。

 アリスはいまだ夢の中で、羊皮紙は寝顔のすぐ横に置かれている。


 「よし。では冒険者学を始めていくぞ」


 手を一度叩きながらそう言うと、ローガンは後ろを向き、黒板に白のチョークを使って何かを書いていく。

 数秒後、黒板には大きく〈冒険者学とは〉と書かれ、ローガンは私たちの方を向き直る。


 「初日だから難しいことはしない。まずは冒険者学というのはなんなのか、そしてそれを学ぶことで何ができるのかを教える」


 では、と言ってローガンは教室内を左から右へと見ていく。


 「あー、そこのお前。起立しろ」


 ローガンは一人の生徒で視線を止め、指を差すと起立するように言う。

 差されたのは男子生徒で見慣れない子だ。おそらく別の学級の子だろう。彼は慌てたように一言返事をすると、その場に立ち上がる。


 「簡単で良い。冒険者学とは何か、言ってみろ」


 そう言われた男子生徒は、きょろきょろと視線を動かしながら考え込む。


 「えっと……文字通り、冒険者について学ぶこと……ですかね?」


 一言一言、聞いているローガンや私たちに確認せるように男子生徒は言った。

 するとローガンは頷き、手でその男子生徒に座るよう命じると、黒板を向いて文字を書きながら話し出す。


 「安直過ぎるが、まあ正解だ。冒険者学とは、冒険者としての心意気から行動理念、旅におけるサバイバル術などを包括した最も新しい学問だ」


 黒板に書かれていくのはローガンが喋った内容であり、例としてあげていた三つの事柄以外にも、魔物とその対処法、世界の危険地帯などが書き込まれていく。


 「近年作られたこの学問は、新たに冒険者となる者に対して生きるために必要な、基本的な知識を授けるために生まれた。冒険者で最も死亡率が高いのは、冒険者に成り立ての(アンランク)だからな」


 そう言って幾つかのランクを書き並べ、その隣に数字を書いていく。

 (アンランク)の右隣には五、赤鉄(アイアン)には四といった具合だ。


 「次、お前だ。起立してこの数字が何か答えてみろ」


 そう言いながら振り向き、次に指定したのは女子生徒だ。この子も見覚えがないので別の学級だろう。

 女子生徒はさっきの男子と違い、戸惑うことなく返事をして立ち上がるとすぐに答えた。


 「各ランクの死亡率かと」

 「正解だ。やるな」


 ローガンは座って良いぞ、と女子生徒に声を掛け座らせる。彼は腕を組んで私たちを見回すと、視線を自分で書いた黒板に移す。


 「この数字は、そのランク到達時から一ヶ月以内の割合による死亡率だ。見ればわかるが(アンランク)が最も高く、ランクが上がるにつれて死亡率は減少する傾向にある」


 これは何故か、とローガンは言葉を続ける。


 「とても簡単で、生存能力が上がっていくからだ。ランクが高ければ魔物への知識、旅における知識などが備わっていく。冒険者において無知とはすなわち死を意味するわけだな」


 私は黒板とローガンを見比べながら、彼の話を聞く。

 こうして見ると、冒険者というのは死ぬ確率がとんでもなく高い。特に(アンランク)に至っては五割、つまり半分だ。冒険者になって一ヶ月以内に半分が死ぬ、と考えると驚異的な数字だ。


 「冒険者の間でよく言われる言葉がある。“傲慢の死、油断の死。二回の死を超え始点に至る”と」


 ローガンはその言葉を黒板へと書き込みながら言う。

 どういう意味だろうと考えていると、隣のピネットが私をつっつく。

 私がピネットの方を見れば、彼女は口元を手で隠し小さな声で話し掛ける。


 「アタシも冒険者登録した時に、組合(ギルド)の受付の人族にアレ言われた」

 「どういう意味なの?」

 「先生が教えてくれるよ」


 ピネットはそう言ってニヤリと笑うと、再び正面へと向き直る。

 どうせなら教えてくれれば良いのに、と思いながら私もローガンの方を向く。


 「傲慢の死とは、冒険者に成り立ての(アンランク)が自分の力量に見合わない依頼を受け、勝手に死ぬことを揶揄している。ランクは、当人の力量や依頼の達成具合などで上昇するが、(アンランク)はなろうと思えば誰でもなれる。だから勝手に死ぬような事態が生まれる」


 ローガンの言葉を整理するなら、こういうことだろう。


 冒険者のランクと、依頼内容は合致するものだ。見合っていると言っても良いだろう。ランクが高ければ難易度の高い依頼になり、低ければその逆をいく。

 だが(アンランク)で受けられる依頼内容は、必ずしも見合ったものではない。あくまで(アンランク)が受けれる、というだけで受注した者の力量と合っているかは別だ。

 つまり依頼内容を吟味せず、自分ならこれぐらい余裕だろうと侮った結果、(アンランク)が死ぬことを傲慢の死と表現するのだろう。何の知識が無い状態だと、理不尽に死ぬことになりそうだ。


 「そして油断の死、これは簡単だ。ランクが上がったことで己が強くなったと過信し、注意や警戒が疎かになってつまらない死に方をするということだ」


 (アンランク)を超え、赤鉄(アイアン)に至るとプレートに鉄が嵌め込まれる。そこで冒険者は、自分は認められた上で強くなったと思うだろう。確かにその通りではあるが、過ぎた自信を持って油断した結果、死に至る。

 文字通り、これが油断の死だ。


 そしてその二つの死を乗り越えて、青銅(ブロンズ)に到達した時にようやく、一人前の冒険者として始められる。

 それがローガンが語り、ピネットが言われた言葉の意味なのだろう。


 そう考えて見ると、隣のピネットは相応の経験と知識を持っていることになる。どこか軽い雰囲気をしているが、実力はあるのだろう。


 「……ピネットって、思ったよりも凄いんだね」

 「思ったよりもは余計かもー。でもアタシの凄さ、理解してくれた?」


 私がピネットの言葉に頷くと、彼女は笑顔を見せる。


 授業はまだまだ続いていく。

遅くなりすみません。

お読みいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ