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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第43話:たった二つのアドバンテージ

 「フィリア」


 デカルトの部屋を出ると、私の体に抱きついてくるものがあった。咄嗟のことで一瞬戸惑ったが、下を見下ろせば銀色が広がっており、抱きついてきたのがアリスだとわかる。


 「先にご飯、食べてて良かったのに」

 「心配だったんだよ。私たち含めて」


 アリスに声を掛けると、その後ろから返事があった。声のあった方を見てみれば、そこにはレミィとオルが立っていた。

 どうやら私とデカルトの話が終わるまで、部屋の前で待っていてくれたようだ。


 「ごめんね、待たせて」

 「何も謝ることは無いさ。女性を待つのも良い男の仕事だからね」


 オルは笑顔をキラキラとさせながら、私の肩に手を乗せそう言った。

 デカルトとの会話で緊張していた体から、力が抜けていくのを感じる。彼らの姿を見て、そして待っていてくれたことに対して私は安心した。


 「ありがとう、三人とも。短くなったけど、ご飯食べながら話すよ」


 私は眼下に広がる銀髪を撫でながら、三人に言う。

 レミィとオルは頷き、アリスは何も言わずそのままだった。



―――☆☆☆―――



 「なるほど、あくまで状況把握のためといった感じだな」


 焼かれた丸いパンに齧り付くオルは、神妙な面持ちでそう言った。

 食堂には既に生徒は少なく、私たち四人と数人しか残っていなかった。昼の休憩が終わるまで、あと十五分程度ということもあり、元々いた生徒たちは皆移動を始めているのだろう。

 食堂は校舎の一階に造られており、デカルトの部屋から遠くない位置にあった。思ったよりもデカルトとの会話に、時間を取られていたようだ。


 「でもなんで三日後なんだろう? 昨日みたいにすぐやるものだと思ってたんだけど……」


 そう言いながらレミィは、昼食で出された果物を食べる。酸味が強かったのかその直後、顔を顰めていた。

 決闘の時間をずらしたのは、学園の都合だとデカルトは言っていた。理由があるのは間違いないが、それがどんなものかは私は聞かされていない。


 「……“カースト”に関わる理由なのか?」

 「カースト?」


 初めて聞いた言葉に私は、そのまま聞き返す。

 するとオルは、パンを皿の上に置き語り始めた。


 「決闘の勝敗によって変化する、生徒の順位があるらしいと兄から聞いた」

 「らしい、ってお兄様もよく知らないの?」


 オルは無言で頷いた。どういうことだろう?

 在学生ですら知らないものがある?


 「兄は武闘派では無いからな。決闘とは無縁だったようでね。だが兄の友人が決闘をした時、そのような言葉を友人が言っていた、と」

 「勝敗によって、というのは?」

 「そこはあくまで兄の予想だ。詳細までは知らない。僕もあくまで、もしかしたらそれが理由なんじゃないか、ぐらいの感覚だ」


 予想の範囲を出ない、ということか。どちらにせよ連絡を待たないといけないのだろう。

 今朝も思ったが、学園側から生徒への情報が少ないように感じる。それこそ一部の生徒でしか知らないこと、知らされていないことが多い。オルの話もそうだ。

 学園内において身分は関係ないというが、そうだとしても貴族、その中でも特別な“王の色彩(カラーズ)”のレミィですらわからないというのは変だ。

 どこか意図的に制限されているようにも思う。


 「私は時間があって、良かったと思う」


 ずっと黙って食事を摂っていた隣のアリスが、頭を悩ませる私たちに対し口を開いた。

 薄くスライスされたチーズをパンに乗せ、それを頬張り嚥下するとまた話し始める。


 「このままだとフィリアが勝つことは難しい」


 その言葉は昨晩聞いたものと同じだ。

 私はマウロに比べ、単純な力量で劣っている。男と女の腕力が、という話ではない。技術や才能、その全てで見劣りしているのは自分でも理解している。

 何度も言うようだが、マウロの剣は本物だ。言葉が悪いかもしれないが、相対し会話を交えた中で見えた彼の性格や性根からは考えられないぐらい、本物の力を持っている。

 きっと彼は彼で努力を怠っていないのだと、そう思えるほどだ。


 「だから、フィリアは有利」

 「どういうこと?」


 アリスの言葉に対し、私に代わって疑問を投げつけたのはレミィだ。アリスはパンを食べながら、その疑問に答える。


 「時間があることと、私がいるから」

 「……なるほど」

 「それでフィリアが有利なのか。理解した」

 「……?」


 私とオルはアリスの言葉で納得がいったが、レミィはわかっていないようで首を傾げている。

 私はレミィの方を向き、アリスの言葉の意味を話し始める。


 「マウロと戦ったアリスの経験を使って、彼への対策ができるんだよ。付け焼き刃なんだけどね」


 知っている、というのはあらゆる場面に有利に働く。知らない問題を解くのは相応の難易度となるが、既知であれば容易い。


 たった一日前、実際に彼と真剣勝負をしたアリスは今の私にとって、間接的に彼を知ることができる本のような存在だ。見ていただけの私より、断然多くの情報を得ている。三日後までに対策を練ることができれば、勝てるとまではいかないかもしれないが、渡り合えるところまでいけるかもしれない。

 そしてマウロは私のことを知らない。おそらく手の内を知る方法が無いだろうし、知ろうともしないだろう。


 この二つは現状、私がマウロを上回るアドバンテージと言っても良いだろう。


 私の言葉に納得したのか、レミィは何度も頷く。


 昼間は変わらず授業がある。使える時間は限られているが、有効的に使わなければマウロを捕まえることはできない。

 せめて指の触れる範囲まで、この短い時間を使って近付かなければならないのだ。


 私は少し硬いパンを齧りながら、改めて決意を固める。

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