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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第39話:予感

 朝食を食べ終えた私たちは、算術の教室へと移動するために校内を歩いている。場所は昨日も使っていたホワイトルームだ。地図が無くとも迷うことはないだろう。


 廊下には生徒がまばらにおり、皆一様に制服である上着を羽織っていた。特に着用について何も言われてなかったが、その様子を見るに着て正解だったのだろう。

 加えて、少数ではあるが帯剣する者もいる。午後から剣術の授業がある私は、いちいち取りに戻るのが面倒だったので持って来たが、それも問題無さそうだ。

 剣以外にも弓や魔術で用いられる杖を持つ者も見掛けられる。武具に該当する物を持っていても大丈夫なのだろう。


 「私も杖、持って来れば良かったかなぁ」


 隣でレミィが不安そうにそう言った。


 昨日もそうだが、全体的に説明されていないことが多い気がする。制服や時間割の告知、武具の携帯などが最たる例だろうか。私が見ていない、聞いていないだけならまだしも、レミィもこの感じからすると知らないようだ。


 「学園内のこと、デカルト先生に聞けば良いんだろうけど……私は受ける授業的に、会う機会が少なそうなんだよね」


 自己紹介の時にデカルトは、初等攻撃魔術と魔術理論が担当だと話していた。受ける予定の授業にその二つは無いし、そもそも受けられるとは思えないので接触する機会が無さそうだ。


 「私は魔術理論があるから会えるかも。聞いておこうか?」


 私の言葉に隣を歩いていたレミィが反応する。

 そうか。レミィは魔術の授業を受けると言っていた。そうなると私よりは機会が多そうだ。


 「あー、それならお願いしたいかも」

 「任せて」


 昼食までに聞きたいことをまとめておこう。今の段階では制服の着用についてと、帯剣について。

 あとは思いついたらで良いか。


 「おお、朝からなんと幸運だろうか。美しき花たちと会えるなんてね」


 私たちが話をしながらホワイトルームの前に着くと、ちょうどそこにはオルがいた。

 朝から彼は笑顔をキラキラさせながら、私たちに声をかける。


 「おはよう、レミオレッタ。今日も金獅子たるその髪が美しい。輝きに目を焼かれてしまいそうだ」

 「おはよう。オルくんは朝から上手だね。ありがとう」


 オルは前髪を手で払いながらレミィの前に立ち、姿勢を正すと胸に手を当て一礼する。歯の浮くような言葉ではあるが、昨日からの彼を見ていれば、オルらしいと言える。


 「おはよう、フィリア。剣を携える君の姿は気品に満ちているね。昨晩はよく眠れたかい?」


 私はその言葉に一瞬戸惑う。

 良い眠りだった、とは言えない。夢の内容ははっきり覚えている。

 だがそれをオルに言う必要はないだろう。


 「うん、ちゃんと寝れたよ」

 「それは良かった。良い眠りは身も心も整えてくれる。もし寝付けないなどあったら言ってくれ。良い枕を手頃な値段で用意しようとも」


 さすが商人の息子だ、と私は思った。

 商機に余念がない。

 彼は次にアリスを見ると腰を落とし、視線を同じ高さにする。


 「やあ、ローデンバルト。調子はどうだい?」

 「問題ない。よく食べよく寝た」

 「そうか、何よりだ。何か困ったら言ってくれ」

 「大丈夫」


 短くはあるものの、オルは優しく笑いながらアリスに語り掛けていた。

 オルは律儀だ。一人一人に声をかけ、相手を気遣っている。商人として人との繋がりを大事にしているのもあるだろうが、彼の性格も要因の一つだろう。


 「すまないね、時間を取らせた。教室に入ろう」


 彼の言葉に私たちは頷き、四人一緒に教室へと入ろうと扉を開ける。


 「フィリアちゃん?」


 その時、私はぞくりとした嫌な視線を背後から得た。

 私はそれを感じた瞬間、後ろを振り返る。そしてそれを見たレミィが私に声を掛けた。

 一本道となっている廊下を見る。数人の生徒が歩いているが、特に私を見ている者はいない。


 「どうかしたか?」


 オルはきょろきょろと見回している私を不審がって、肩に手を置きながら呼びかける。

 私はそれを気にすることなく、辺りを注視し続けた。

 特に何もない。誰も私を見ていないし、先ほどの嫌な視線は既に感じない。


 「……ごめん、なんでもない」

 「うん? そうなのか?」


 オルの聞き返す言葉に私は頷き、正面を向き直る。

 心配そうなレミィに、大丈夫と声を掛け、四人揃って教室へと入っていく。


 先ほど感じた嫌な視線。

 あれは殺気だ。ジアが稽古中に向けてきたものなどではない。私を殺したくてしょうがないという、純然たるものだった。

 怖い、と思ったのはいつぶりだろうか。思わず手が震える。

 そんな私の手をアリスは強く握っていた。何も言わず、顔も見ずにただそれだけをしていた。


 何かが起こるかもしれない、という嫌な予感がした。

お読みいただきありがとうございます。

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