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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第35話:変わる夢

 ゆっくりと目を開ける。

 私の視界はその瞬間、赤に塗り潰された。

 灼熱の地獄、死の満ちた空間。

 それが夢であることは、すぐに理解した。


 「疲れてたからかな」


 私は赤黒く汚れた掌を見ながら呟く。一昨日も見たが、一日置いてまたこの世界に放り込まれるとは、最近では無かったので少し驚く。

 もしかしたら疲労によって見るようになったのかもしれないが、確証は無い。


 「……あれ?」


 掌を見ていると違和感を感じた。いつもと何かが違う気がするが、それが何かはわからない。

 私はぐるりと辺りを見回す。なんだろう、視線が高いような気がする。

 次に周囲ではなく、私自身を見る。

 足元を見れば、いつも着ている改造修道服だった。これは私が教会に引き取られてから、しばらく経った頃に作られた物だ。

 そして掌。いつもの小さなものではなく、剣タコがうっすらついたものだ。


 「昔の私、じゃない?」


 いつも通りであれば夢の中の私は、当時の幼い自分の姿だ。しかし今回は、成長した私の姿になっている。視線の高さは伸びた身長によるもので、服と掌も成長した後だったからだ。

 過去と現在が入り混じった、不思議な感覚がそこにあった。


 「――――」


 遠くで声が聞こえる。

 何かを呼ぶような、女性の声だ。


 私は再び辺りを見回し、その声の主を探す。

 自分の変化に違和感がありつつも、眼下に広がる光景自体はいつもと変わらない。私だけが浮き上がっているような感じだ。


 その声の主を見つけるのに苦労はしなかった。何故ならこの世界にいる人間は二人しかいない。

 私と、あの人だ。


 「……あなた、は……?」


 予想通りの場所に人を見つけたが、私はその人物を見たことがなく、一瞬戸惑って声が途切れる。

 だがその出立をじっくりと見れば、私の記憶と一致した。


 その人の顔は、アリスと瓜二つだった。いや正確に言えば、アリスが成長し数年が経ったらこんな顔になるんだろうな、と思うような顔つきだ。

 長い銀髪を靡かせ、銀の瞳が私を射抜いている。

 それだけの情報では、彼女が誰かを認識できなかった。何故なら私は、その人が着ている物と持っている物しか見たことがなかったからだ。

 だから、白銀の鎧と、片手に両刃剣を携えているのを確認するとこで、記憶と結び付けた。


 彼女こそ、世界にたった一人しかいない“英雄”にして、あの日の私を救った私の夢そのもの。


 “英雄”グリムヒルト・ローデンバルトが、そこにいた。


 「――――」


 彼女は私を見ながら、何かを喋っている。だが荒れ狂う熱風が轟音を生み、彼女の声が遮られてしまっている。


 私はその場から歩き出す。一歩進むごとに、まるで泥の中を歩いているかのような感覚が襲う。


 「グリムヒルトさんっ!」


 私は歩きながら、その名を呼ぶ。

 足が重い、上手く動かない。何故こんなに動きづらいのか全くわからない。それでも一歩一歩、確かに歩く。


 「――――ぃ」


 近付いて行くと、徐々に聞こえてくる。


 「――すを――」


 あと、少し。あと少し踏み込めば、聞こえそうだ。

 私は必死に体を動かし、彼女へと歩み寄る。

 そして手を伸ばして身を乗り出せば、この手が届きそうな距離まで接近する。そこでようやく、言葉が聞こえた。


 「――アリスをお願い」


 少し低めの女性の声で、そう言っているのが聞こえた。

 お願い、というのはどういう意味なのか。全くわからない。わからないから、知りたい。


 「グリムヒルトさんッ!!!」


 私はすぐ近くにいるというのに彼女に向かって、これ以上無い大きさで名前を呼ぶ。

 その声が聞こえたかどうかはわからないが、微笑み私を見る。近くで見れば見るほど、アリスに似ている。

 聞きたいことも、会いたかった理由も山ほどある。その理由と想いは既に、十年分私の中で貯まっている。


 だが、それらは彼女に届かない。

 何故ならこれは夢で、目の前にいる“英雄”は本物じゃなく、私の想像によって生み出された幻に近い。

 それでも、伝えたい。伝えなきゃいけない。


 「グリムヒルトさん……」


 私は名前を呼びながら、膝から崩れ落ちた。

 諦めても、体力が尽きたわけでもない。

 強烈な眠気が、私を襲っていた。


 「なん、で……急に……」


 立ち上がりたい。立ち上がらなければならない。

 そう思っても私の体には力が入らず、ゆっくりと前のめりで倒れてしまう。

 すると眠気が更なる力を持って、私の意識を刈り取った。


 瞼が落ち、赤の世界から黒の世界へと暗転した。

お読みいただきありがとうございます。

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