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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第33話:洗濯と二枚の羊皮紙

 ゆっくり体を温め風呂を楽しんだ私たちは、特にやることもないのでそのまま寮の自室へと戻ることにした。

 洗濯用の桶と洗濯板は脱衣所の隅にあったので、それを一つ拝借してきた。あとは部屋に備え付けられた洗面所で使えば良いだろう。


 「洗い終わったら畳んで持って行くよ」

 「ありがとう。まだしばらく寝ないから、お湯足りなかったら呼んでね」


 そう言ってレミィと別れ、私たちは自室へと戻る。

 部屋は月明かりのみが光源となっており、かなり暗い。

 たしか棚に備え付けのランプがあったはずだ。


 「アリス、ランプに火をつけてくれる?」

 「わかった」


 アリスは頷くと一人、部屋の奥へと進む。

 両手で抱えているお湯の入った桶を一旦床に置くと、私は靴を脱いでおく。

 ランプに火が灯ったことで、部屋の中がオレンジ色の光でが照らされる。


 「見える?」

 「大丈夫。ありがとう」


 アリスは私の返事を聞くと、ベッドに腰掛けた後に横になる。ベッドの脇の床には、脱いだ後に畳んだ服が置かれている。両手が塞がってしまった私の代わりに、アリスに脱いだものの運搬を頼んだのだ。


 私は足元に置いた桶を取り、すぐ横の扉を開ける。お手洗いと一緒に併設された洗面所がそこにあり、私は中へと入る。

 湯船に浸かりながら、洗濯をするのは良いがどこでして良いかわからないとレミィに相談したところ、部屋の中に洗面所があると教えてくれたのだ。


 最初に入った時は片付けのことで手一杯で、よく確認していなかった。それに、あってもお手洗いだけだと思っていた。


 「これだけの空間なら十分かな」


 壁に付けられた棚の上、そこに桶を置く。

 一度部屋に戻り、床に置かれた服を持つ。ついでに教会から持ってきた衣服用の石鹸も手に取り、再度洗面所へと戻る。

 とりあえず私とアリスのものから先に洗い、繊細そうなレミィの服と下着は後にしよう。


 桶に入ったお湯は温度を保ったままで、私はその中にアリスの服を浸ける。十分にお湯で濡らしたら洗濯板に広げ、衣服用石鹸を少し塗ると、優しく洗い始めた。

 修道服もそうだが、下手に力を入れすぎると布地が駄目になってしまう。念の為気を配りながら、洗濯を続ける。


 「フィリア、なんか置いてあった」


 そう言って洗面所に入って来たアリスの手には、紐で縛って封のされた二枚の羊皮紙が握られていた。


 「それ、どうしたの?」

 「わからない。机に置いてあった」


 たしか部屋を片付けていた時は、机の上に何も無かったはずだ。この様子だと、アリスが持って来たものでないのは確実だろう。


 「それほどいて読める?」


 私は手を動かしながら、アリスを見てそう言う。

 彼女は頷くと細い紐を解き、丸まった羊皮紙を広げる。


 「……個人時間割って書いてある。私とフィリアで一枚ずつみたい」

 「あー……なるほど」


 学園で受けられる授業や講義は、一般科目以外に固有のものがあり、それは入学試験の結果と本人の希望によって決められる。

 私の場合は剣術関連の授業を希望した。

 つまり、学園に通う生徒は得意分野に関係する授業や、興味のある授業を取ることができるため、個々人で時間割が異なる。

 アリスの読み上げた言葉が正しいのであれば、おそらくそれを通知する内容が羊皮紙には書かれているのだろう。


 「明日からそれに従って授業を受けると思うから、アリスは自分のを読んでおくんだよ」

 「わかった」


 一度手を止めアリスにそう言うと、彼女は一言だけで肯定し、羊皮紙を読みながら、部屋へと戻って行く。


 私はまた洗濯に戻ると、どんな時間割が書かれているか、思いを馳せる。一応希望というだけで、必ず認められるわけではない。もしかしたら、別に興味のない授業を割り当てられているかもしれない。

 申請をすれば授業の変更ができるらしいが、それもまた申請という形なので必ずではない。


 「アリス、私と違う授業があったらどうするんだろう」


 それぞれ別の授業を受けることになる可能性は高い。私は別に構わないが、アリスはあの調子だ。無理矢理着いてきたがったり、もしくは私を連れて行きそうだ。


 授業を欠席すれば、その分卒業が遠のく。それはお互いのためにはならない。

 もしアリスが着いて行きたい、もしくは着いて来いと言うなら止めなければならないだろう。


 「……今のうちに、納得させる言い方を考えておこう」


 私はそう決意しながら、洗濯を続ける。

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