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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第31話:事実が信じる理由

 「流すよ、アリスヒルデちゃん」

 「任せた」


 その短い会話の後、私の後ろからざぱっとお湯が掛けられる。洗髪の終わったアリスの髪をレミィが濯いでいるわけだが、アリスが私にくっついているので余波が来る。


 「あと何回か濯ぐから、そのまま動かないでね」

 「動かないのは得意」


 自分の髪を洗いながら二人の会話を聞く。

 レミィはアリスの扱いに慣れ始めており、会話も気楽にしていると思う。なんなら私より親密度が高い気もする。

 どこか人懐っこさも感じさせるレミィの言葉や表情は、人を惹き寄せる何かがあるのだろうか。

 惹き寄せる何かで言えば、それはアリスにも言える。人となりもわからないし、彼女の語ったことも理解できないことが圧倒的に多い。

 正直、客観的に見れば何か思惑があって近付いて来たかもしれない変な少女、と言われても不思議じゃない。


 「さあアリスヒルデちゃん。お髪の後は体だよ。一旦フィリアちゃんから離れてね」

 「……仕方ない」


 そんな会話が聞こえると、体に掛かっていた重さが消え、背後から遠ざかる素足の音が聞こえた。

 私は手を止め、少し考える。

 私は“英雄”、もしくはアリスに騙されているかもしれない。そう思っても仕方のない状況と言える。だが彼女にそれをする理由があるだろうか。

 たまたま良い人に拾われ、その伝手で“剣帝”と繋がりができ、王立アルビオン学園に通っている。そんな感じで私の今の状況を羅列しても、所詮幼い頃に両親を失った才能なんてない普通の孤児であることに変わりはない。

 では他に何かあるだろうか。


 「お肌綺麗だねぇ」

 「レミィは触り過ぎ。くすぐったい」


 遠く離れた位置から二人の会話が聞こえる。

 私は気にせず、洗い終わった髪をお湯で濯ぎながら考え続ける。


 例えば孤児になった原因。ドラゴンと接触し、生き残ったこと。確かに希少価値があるかもしれない。ドラゴンという生きる災厄は、一年で一度か二度目撃情報があれば良い方だ。

 だが決してゼロではない。珍しいと言うだけで、ありえないということではないのだ

 それにもし、ドラゴンとの接触が理由なのであれば、“英雄”はなぜ助けてくれたあの時に、何もしなかった?

 何かできない理由があったのか、村へ運び出す時に何かしたのか。後者であれば気付かなくても仕方ないが、そこから十年何もなかったのはなぜだろう。


 「うーん……」


 体を石鹸のついたタオルで体を拭く。

 私が疑っているだけなのだろうか。疑った上で私の夢と言える“英雄”とその娘に、黒い思惑も何もないのだと信じたいがために疑っているのだろうか。


 私は自重気味に、小さく笑う。

 自分自身の心さえまともにわからないのに、他人を疑っているなんて馬鹿らしい、と。

 アリスは、あの子は少なくとも害意がないように思える。表情は変わらないし、私に触れていたがるし、どこか私たちの常識とは異なる価値観を持っている感じもする。

 だが、それだけで悪い子とは言えない。

 お礼は言えるし、私より幼いのにしっかりと自分の信念がある。技術も何もかも自分より劣る私の剣を笑わず、助言までしてくれた。

 それに何より、私の尊厳を守るために戦ってくれた。


 事実だ。

 事実によって、私は私の想像よりも彼女の善性を信じたい。


 「結論は、出てたようなものだったね」


 私は一人呟く。

 それで良いと、今は思う。


 そんな時だった。

 ざぱぁ、と頭からお湯を掛けられた感覚と共に、私は反射的に目を閉じる。


 「アリスヒルデちゃん!?」


 後ろからレミィの声が聞こえた。

 私は手で顔についた水を払うと、後ろを振り向く。

 そこには包み隠さないアリスが桶を持って立っていた。


 「終わったみたいだったから、手伝った」


 後ろからお湯を掛けた犯人は、すぐに見つかった。


 「……ありがと。でも次からは声を掛けてね。びっくりするから」

 「わかった」


 うん。怒るほどでもない。ほどでもないが、まあ、なんだろう。

 色々と教えることがあるなぁ、と私はため息をついた。

お読みいただきありがとうございます。

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