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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第26話:掃除片付け担当、その名はフィリア

 「これで良し、と」


 程なくして私は荷物を片付け終えた。最後に木剣と贈られた剣を壁に立て掛ける。


 「それ、とても良いもの」


 それを見ていたアリスは、贈られた剣を指差しながらそう言った。


 「色んなものがこもってる。大事にすると良い」


 別に自分で購入したわけでもないが、そう言われると嬉しくなる。

 こもっている何かはきっと、送り出してくれた皆の気持ちだろう。


 「……そうだね。大事にする」

 「うん」


 そう言ってアリスは、空いている方のベッドで横になった。柔らかいベッドの感触が気に入ったのか、左右に転がっている。


 「そういえば」


 私はアリスの様子を見ながら、一つ気になったことがあり声を掛けた。

 アリスは枕に顔を埋めながら顔を半分だけ出し、私を見ると首を傾げる。


 「なに?」

 「アリスは荷物無いの?」


 彼女が教室に入って来た時も、運動場から寮に行く前に教室へ寄った時も。なんだったら一番最初に見た受付の前でも、彼女は手荷物と呼べるものを持っていなかった。

 どこかに忘れて来たのだろうか。そうであれば取りに行かなければならないだろう。


 「荷物?」

 「うん。着替えとか」

 「ない。これだけ」


 そう言って彼女はベッドの上で立ち上がり、両手を広げた。部屋に入る際に靴を脱ぐのでベッドは汚れないし、行儀が悪いとは言わない。一応会って間もないし、わざわざ言うこともない。

 これだけ、という言葉が正しければ彼女は着の身着のままここに来たのだろうか。確かにさっき彼女は、服は最近買ってもらったもので、下着さえ初めて着たと言っていた。


 「……その着てるもの、洗ってる?」

 「服は昨日洗った。下着は今日初めて着た。一週間は大丈夫」


 アリスはそう言いながら、ベッドの上に座る。

 最後の言葉に頭がくらくらとした。その言葉の意味することは、一週間洗わなくても着れるから大丈夫、ということなのだろう。


 「いや、ダメ」

 「なにが?」


 なにが、じゃない。

 衛生的にも、私個人的にもそれは耐えられない。


 「毎日綺麗にしようよ」

 「洗うの面倒。私は平気」

 「私が平気じゃないの。とりあえず私が今日から洗ってあげるから……」


 着替えはしばらく、同じ服を着て貰おう。夜寝る時に裸は良くないだろうから、寝巻きは私のを貸そうか。

 下着はせめてあと二着、いや三着は欲しいか。


 「あとで夕食ついでに商店に寄ってみよう。何か売ってるかも」

 「よくわからないけど、着いていく」


 入寮時の説明に、寮の一階に小さな店があると聞いた。外部の商店が出張として常駐しており、色んな商品があるとは言っていた。下着が含まれるかはわからない。

 商店のすぐ近くに食堂があるらしいので、食事を終わらせた後でちょうど良いだろう。


 「アリス、お金はある?」

 「使ったことないから、持ってない」


 私はアリスの言葉を聞き、懐から財布を取り出す。白い布でできたこれは、私の改造修道服の端材からミリ姉が作ってくれたものだ。

 私は財布を開き、中身を見る。一応エドガーから毎月お小遣いを貰っており、使う機会が無かったので結構貯まっている。おそらく三着ぐらいは買えるだろう。

 まあこれも人助けだ。困っているのは私だが、いずれことの重大さにアリスが気付いてくれれば良い。


 「さてと。じゃあレミィの所に行こっか」

 「うん」


 ベッドから跳ねるように降りると、彼女は私の左手を握る。もはや定位置なのかもしれないと錯覚するほどに、それは自然な動きだった。


 あの荷物の量だ。きっと困っているだろう。


 そう思いながら私はアリスの手を引き、部屋を後にする。



―――☆☆☆―――



 「レミィ、来たよ」


 私はレミィの部屋の扉をノックし、声を掛ける。

 何やらゴソゴソと物音が聞こえるが、大丈夫だろうか。

 すると足音と共に扉へ近付く音が聞こえ、一瞬止まると扉が開いた。

 開けられた扉の向こうには、額に少し汗をかいたレミィがおり、泣きそうな顔を私たちに見せる。


 「ごめん、少し手伝ってくれるかな……?」


 朝、初めて会った時も困っていたな。

 そんなことを思いながら頷き、アリスを連れて部屋へと入る。

 そして私は部屋の中の光景を見て、思わず固まってしまった。

 そこは、戦場だった。


 まるで嵐が来た後のような、もしくは子供がおもちゃ箱をひっくり返したかのような、そんな惨状が広がっていた。


 「いや、その、ね……? 普段お掃除とかは使用人たちがやってくれるから……」


 ああ、そうだった。普通に喋っていたから忘れかけていた。彼女は“王の彩色(カラーズ)”第五席、つまり“王の彩色(カラーズ)”の中でも上から五番目の権力を持つレオンゴルド家の御息女だ。掃除などの身の回りのことは、メイドや執事といった使用人たちに任せているのだろう。

 加えて荷物の量も到底一人とは思えないものだ。あれやこれやとやっているうちに、荷物の中身を広げに広げてこんな事態になってしまったに違いない。


 「レミィの部屋、狭い?」


 隣に立つアリスが、呟くように言った。

 いやそんなことはない。部屋の構造は私たちの部屋と同じだ。一人で使う部屋だそうなので、ベッドと机が一つずつ無いだけで他は変わらない。私からすれば広すぎるぐらいで、十分な空間はある。

 ただ単に、私物の散乱する部屋に変わり手狭に感じるだけだ。


 「……アリスはちょっとここで待ってて。上着持ってて貰える?」

 「うん」


 私は上着をアリスに預け靴を脱ぐと、隣の泣きそうな顔をしているレミィを見る。


 「フィリアちゃん……」

 「……とりあえず、普段使うものから片付けよっか」

 「はい……」


 私は袖を捲り、戦場へと赴くのだった。


 それからレミィの部屋が綺麗に整理整頓され、アリスが結構広かったんだ、と認識を改めるまでに約三時間を要した。その頃には既に、窓の外は夕日で赤く染まっていた。


 ちなみにレミィは洗濯もしたことが無いとのことで、魔術の温水を出して貰うことを条件に、私が代わりにすることになった。

 自分の分を含めて計三人分。まあ教会ではその五、六倍の洗濯物があったので、そう考えれば非常に楽だ。


 ……たまにレミィの部屋掃除も、してあげよう。

お読みいただきありがとうございます。

活動報告にてお知らせや裏話を出しておりますので、よろしければぜひ。

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