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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第二章 “英雄”の娘は学園で舞う
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第24話:入寮

 教室に寄って荷物を取った私たちは、寮を目指して学園内を歩いていた。

 寮までの道のりは非常にわかりやすく、校舎を南側として北東にずっと歩いていけば良さそうだった。玄関のあった側を表とし、校舎の裏側は広い庭園と、並木道が造られている。

 並木道は大きく三本に分かれており、一本が寮へと繋がる道。真北に向かうのは別校舎に通じていて、北西方面に続く道は第一運動場に繋がっている。


 並木道は青々とした木々によって彩られ、春を感じさせる。徐々に傾きつつある太陽が、葉の間から光を届けており、歩いていると気持ちが良い。


 「レミィ、これ美味しい」

 「歩きながら食べるのはお行儀良くないよ、アリスヒルデちゃん」


 アリスは私の手を握りながら空いた手で、先程レミィからもらったクッキーを食べている。

 そしてクッキーをあげたレミィは、アリスを挟んで隣を歩いている。今はアリスの行動を注視しており、懐から出したハンカチで彼女の顔を拭っていた。


 「初めて食べた。すごく気に入った」

 「砂糖は嗜好品だもんね。また手に入ったら作ってあげる」

 「レミィは、優しくて美味しい」


 すっかり仲良くなってないか、この二人。

 私はまだ飲み込めないものが多々あるというのに。話が勝手に転がって行っているような感覚があるというのに。

 いやまあ険悪な仲とかよりは断然良いのだが。


 「アリスヒルデちゃんは、ここに来るまで何してたの?」

 「旅してた」

 「お母さんと?」


 アリスはクッキーを頬張りながら、首を縦に振り肯定した。


 「お母さんはまだ王国にいるの?」

 「いない。三日前に別れて、どこかに行った」


 私はその言葉を聞いて、少し残念に思った。

 もしまだ国内にいるのなら、機会を見て会ってみたかった。あの日の礼を直接したことないし、単純に憧れの人物に会いたいという気持ちがある。


 「そうだ。フィリアに伝言がある」

 「……私? 誰から?」

 「母」


 それを聞いて私の鼓動は、大きく跳ねた。

 あの“英雄”が、私に?


 「“楽しみにしている”って」


 ……どういう意味だろう。

 何かを期待されているのだろうか。


 「楽しみにって、何を?」

 「わからない。それだけ言ってた」


 アリスのことと言い、中々に脈絡を得ない。

 だがまあ、その言葉に悪い意味は感じない。何を期待されているかも、待っているのかもわからない。

 それでも自分のことを認知されているだけで、私は嬉しい。


 「あ、見えてきたよ」


 レミィがそう言って指を刺した先に、校舎ほどではないが大きな建物がある。五階建ての石造りの建物は、豪華さはない。

 あそこで新たな生活が始まると思うと、少しの緊張と高揚が私の中で渦巻く。



―――☆☆☆―――




 「やっとゆっくりできるね」

 「だね」


 階段を上がりながらレミィに話しかけられ、私は答えた。

 私たちは寮の入口にある管理室で簡単な入寮手続きを終え、自分たちに用意された部屋へと向かっていた。

 寮は外観と同じように内装も簡易的なもので、校舎と違い実用性に重きを置いた雰囲気だ。


 「まさか私の隣がフィリアちゃんたちなんて、嬉しいよ」


 私はレミィの言葉に頷く。

 私に用意された部屋はこの寮の五階にあり、隣の部屋はレミィが入ることになっていた。お隣さんだ。


 「レミィが隣なのも驚いたけど……」


 私はそう言ってアリスを見る。

 一応入学試験時に、入寮の際は相部屋になる可能性があるとは聞いていた。実際今回用意された部屋は相部屋で、それ自体は問題ない。


 「アリスヒルデちゃんと一緒なんてね」


 レミィの言葉通り、私の相部屋の相手はアリスヒルデだった。アリスの言葉といい、ここまで来ると運命というより何か思惑を感じるが気にし過ぎだろうか。


 「そばにいるから、当たり前」

 「そうだよねぇ」


 アリスの言葉ににこにことしながら頷いたレミィは、彼女の頭を撫でている。扱いが完全に子供のそれだが、アリスは気にしていないように見える。


 「どうせなら夜ご飯、一緒に食べない?」

 「良いよ。一緒に食べよう」


 寮には食堂が設置されているそうで、寮生である私たちは朝夜の決まった時間に二回、その食堂で食べるように手続きの際に言われた。

 断る理由も無いし、食事の時は人が多い方がいい。教会でも皆で一緒に食べていたし。

 ちなみに昼食は校舎内にある食堂で食べることができるそうだ。残念ながら時間が過ぎていたので、今日はお昼抜きだ。


 「アリスヒルデちゃんも一緒にどう?」

 「フィリアが行くなら、私も行く」


 どこまで着いてくるんだこの子は、と思ったが多分どこまででもなのだろう。いやまあ別に良いんだが、お手洗いまで着いてこられたら困る。

 ひとりぼっちで学園生活を過ごすよりマシだ。


 しばらく階段を上がると五階につき、私たちは自分の部屋へと向かう。

 部屋の前に着くと一旦別れ、それぞれの部屋へと入っていく。


 「二人部屋だから、結構広めだ」


 部屋に入ると左右にベッドが置かれ、正面には窓がある。窓のある壁には二つ机が設置されている。

 部屋は私が使っていた教会の部屋より、だいぶ広くベッドが二つあっても手狭には感じない。


 「どっちのベッド使う?」

 「一緒ので良い」


 答えがなんとなくわかっていたが、念のためアリスに聞いてみると予想通りの答えが返ってきた。


 「一緒に寝たいってこと?」

 「うん」


 せっかく二つあるのになぁ、と私は思いながら部屋に入って右側のベッドの下に荷物を置く。

 昔はミリ姉と一緒に寝ていたな、と思い出しながら窓の外を見る。そこからは王国の北側にある山脈が見え、中々に良い景色だった。


 「一緒の部屋だし、荷物を片付けたいから手、離しても良い?」

 「……わかった」


 どこか不満げに見えたが、意外とすんなりアリスは手を解き、もう一つのベッドに腰掛けた。


 この後どうしようか。

 そんなことを考えながら、私は荷物を片付け始める。

お読みいただきありがとうございます。

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