第14話:友達と学び
玄関から学園の校舎に入れば、圧巻の一言だった。
まず玄関から入ってすぐのメインホールには階段があり、天井は吹き抜けになっている。吹き抜けを見上げれば五階まであるのがわかる。
内装はまるで物語に出てくるお城のようで、細やかに装飾が施された石壁は非常に美しい。等間隔で壁に掛けられたランプや、調度品などにも目がいく。どれも高級品だろう。
床には赤いカーペットが、左右の廊下を途切れることなく敷かれている。
さすが王立、かなり豪勢な作りをしている。
「ね、すごいよほら。見て」
私は一歩後ろを歩く、未だ不機嫌なレミィの手を引きながら話しかける。
「なんで、平気なの?」
頬を膨らませ、まさに今怒っていますという雰囲気を醸し出す彼女は、拗ねた口調で私に話す。
「あんな呼び方されて……フィリアちゃんはどうして平気なの?」
「うーん……少し驚いただけで、所詮呼び名なんて人の勝手だからかなぁ」
気にならないと言えば嘘になる。だがそれは決して嫌な思いをしている訳ではない。実際に呼ばれることがあるんだ、という驚きの方が勝る。
呼び方なんて人それぞれだ。ある意味、あだ名で呼ばれている感覚に近いだろうか。
私がそう答えると、レミィは悲しそうな顔をしながら続けた。
「あの出来事、お父様は、“英雄”様に任せっきりにした私たち貴族の責任もあるって……それなのに、貴族の一部ではフィリアちゃんを面白おかしく噂する者もいる。あまりにも勝手過ぎるって、私は思う」
正直、そういった貴族の内部事情というか、そういうのは私に直接関わりがない。遠くで私のことを話されても、私に聞こえなければ関与のしようがない訳で。
全ては結果論だ。
「ありがとう、レミィ。私の代わりに怒ってくれたんだよね」
私がそう言うと、彼女は少し照れくさそうにしながら答えた。
「当然だよ。無辜の民を守るのは貴族の義務なんだから」
レミィはあの場で、立派に貴族としての役割を全うしようとしていたのだと、その言葉で気付かされる。
貴族らしくないと思ったのは、修正しなければならないようだ。
それに、と彼女は言葉を続けた。
「だってもう、フィリアちゃんは私のお友達で、お友達は大事にしないとダメなんだよ」
恥ずかしいのか少し言いづらそうにしながら、レミィは私の目を見てそう言った。
友達。そうか。彼女は会って間もない私のことを、もう友達と呼んでくれるのか。
教会のシスターの中には、ルゥのように歳の近い子は何人かいる。だが関係性は家族に近い。私にとって純粋な友達と呼べる者はあそこにはいなかった。
だからだろうか。レミィの言葉に胸が温かくなるのは。
「……友達」
「そうだよ。フィリアちゃんは、嫌……?」
恐る恐る聞いてくるレミィに、私は足を止め向き直る。
いざ正面からとなると、なんだか気恥ずかしい。
「嫌、じゃないよ。私、友達って初めてだから」
私が頬を掻きながらそう言うと、レミィは満面の笑みで私の両手を握り締める。
「じゃあ私がフィリアちゃんのお友達第一号ね!」
私はその言葉で、更に顔が熱くなるのを感じた。
こうして私に初めての友達ができた。
喜んだり悲しんだり感情の起伏が激しくも、真っ直ぐな貴族のお嬢様。
それが私の友達、第一号だ。
―――☆☆☆―――
窓口の男性から言われた通り、私たちは玄関から入って右へと進む。
しばらく歩くと校舎の端に到着し、そこには教室に繋がる扉が一つあった。
扉の上に標識のような白い織物が掛けられ、王家の紋章が描かれている。
「ここ、かな……?」
「多分……?」
レミィに聞かれるが私にもわからないので曖昧な返事となってしまった。
ホワイトルーム、と言っていたので白い織物が目印になっていてもおかしくはない。廊下の道中にはそう言ったわかりやすいものは無かったし。
とりあえず私は引っ張っていたレミィの荷物を渡し、念の為衣服を整える。横を見ればレミィも同じように、少し乱れた箇所を直していた。
「ど、どっちが開ける?」
「レミィ、どっちが開けても変わらないよ」
緊張した様子のレミィが私の服を指先で引っ張りながら、私に尋ねてきたので私はそう答えた。
「どうせならレミィが最初に入りなよ。貴族様だし」
私が茶化すように言うと、彼女は少し緊張が和らいだのか小さく笑いながらずるいよ、と言った。
レミィは意を決したようで、扉に手をかける。扉のレバーハンドルを捻ると奥に押し込み扉を開けた。
正直に言えば私も緊張していた。だが隣にレミィが居たので、少し強がって見せたのだ。
友達には、良い格好を見せたくなるんだな、と私は一つ学びを得た。
私たちは、教室へと踏み込む。
お読みいただきありがとうございます。皆様が読んでくれているとあって、張り切って更新中です。
お楽しみ頂ければ幸いです。