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才能無き少女と天才少女が英雄と呼ばれるまで  作者: ふきのたわー
第一章 学園の始まりと少女たちの出会い
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第13話:王立アルビオン学園


 「ここが……」


 そう漏らしたのは隣に立つレミオレッタだ。

 私たちの前には鉄製の高い柵と開かれた門が聳え立っており、奥には巨大な横に広い赤煉瓦造りの建物が見える。

 門には七本の剣が円形に並べられ、中心に女性がが彫られたレリーフが飾られていた。これはこのアルビオン王国の王家を示す紋章であり、ここが王によって管理された場所である事を証明している。


 王立アルビオン学園。

 その歴史は古く、建国と共に設立された千年以上続く由緒正しい育成機関である。

 アルビオン王国の歴史書、そこに名を連ねる偉人たちの殆どがここの卒業生、もしくは在学していたことがあるとされる。

 “学園において学べぬ事は神の真意だけである”と言われるほど、その教育内容は多岐に渡り、算術や公用語学から剣術、魔術など様々だ。その種類の多さと内容の充実性から外国の用心も留学してくるほど。


 私たちは、ようやく着いたのだ。


 「すごいよ、フィリアちゃん」


 そう言ってレミオレッタは柵の根元を指差す。そこには何か紋様があり、よく見れば一定間隔で刻まれていた。


 「これ、地脈を源にした刻印型結界魔術だよ。外部の侵入者を完全に排除できるようになってる……」

 「刻印型、とは……?」


 興奮気味のレミオレッタとは対照的に、私にはさっぱりだ。仕方ない、魔術は苦手というか使えないのだ。

 私が首を傾げていると、レミオレッタは指先で紋様をなぞりながら語る。


 「どう言えばわかりやすいかな。後天的魔道具って言ってわかるかなぁ……魔道具の話になるんだけど、本来の魔道具って、それ用に作られた素材や部品を使うの」


 そう言って彼女は私の左手のブレスレットを指差す。


 「“剣帝”様のブレスレットがわかりやすいと思う。それ自体が魔術を使う為の魔銀っていうものでできていて、精錬段階で魔術を練り込んじゃうんだ」


 魔術を練り込む、というのはわからないが彼女の語る理屈はこうだ。

 魔銀という特殊な素材を使って、魔術を祓う術式をブレスレットの形にしながら魔銀に練り込む。そうする事で使用者が魔力を通せば練り込まれた術式が発動し、効果を即座に反映させることができる。


 「対してこれは、元々あった鉄柵に術式を意味する刻印を刻むことで、後から魔術を発動する鉄柵にしてるの。そもそも魔術を刻印にすることが難しいし、結界魔術となればなおさら。更に地脈から自動的に魔力を吸い上げるなんて、私でも知らないよ……」


 難しい単語がずらずら出てきて私の頭はパンクしそうになる。

 ひとつひとつ整理しよう。

 刻印、というのは魔術を視覚的な形に変換したものであり、言うなれば魔術の三工程を記号化したものらしい。

 そして結界魔術。かなり高位の魔術師にしか扱うことが許されない魔術で、国内でも扱える者は数十人程度。

 最後に地脈。私たちが立つ地面の奥深くに流れる、魔力の川みたいなもので、謎に包まれたものらしい。言葉だけは教会で読んだ魔術教本に書いてあったが、今述べた情報ぐらいしかなく、実際レミオレッタも同じぐらいの私と同じぐらいの知識しかないそうだ。


 総じて、この鉄柵の形をした魔道具は現在において、模造する事はほぼ不可能な品であり、おそらく大昔に偉大な魔術師たちによって作られたのだろう。それがレミオレッタの出した結論だった。


 魔道具に種類があること自体初めて知る私には、その規模感はなんとも理解しづらい。だがとんでもなくすごいもの、というイメージは伝わった。


 「すごいね、楽しみだなぁ」


 レミオレッタの言葉を聞きながら、私たちは一緒に門を潜る。瞬間、何か体の中を通った感触があった。


 「今のが結界を通った感覚だよ。どうやってかはわからないけど、私たち個人を調べて侵入者かどうか判別してるみたい」


 彼女は笑いながらそう言った。

 何も知らない、というのはある種の恐怖を抱かせるもので。

 私は心から、道で彼女に出会って良かったと思った。


 「レミオレッタ様が居て、本当に助かりました……」

 「もう学園敷地内だから、敬語と様付け禁止だよ? フィリアちゃん」


 胸を撫で下ろしながら呟いた言葉に、食い気味でレミオレッタは言った。

 私はこれから続く受難に、再び頭を抱えることになるのだ。

 しっかりしているというか、ちゃっかりしているというか。


 思ったよりも食わせ者だと、私は彼女への評価を改め目の前の建物を目指し、レミオレッタの隣を歩く。



―――☆☆☆―――



 横幅の広い学園の玄関口は、扉がなく開け放たれていた。玄関の奥に、何人かの生徒の存在を目視する。

 私たちは玄関の前に建てられた、小さな小屋のようなものに寄っていた。受付用の窓口になっているそれには、中年の男性が居た。


 「新入生かい? 手紙は忘れず持ってきたかな?」


 その男性は笑みを絶やさず、私たちにそう声をかける。


 「合格通知に同封されてた手紙のことだよ」


 隣のレミオレッタが私にそう耳打ちをする。

 そういえばそんなものがあったなぁ、と思い出し、私はカバンから大きめの封筒を取り出すと、中身を開ける。

 三枚の羊皮紙が入っており、内一枚に入学許可証というのがあった。

 私はこれのことだろうと思い、それを男性に手渡す。レミオレッタの手元を見れば、彼女も同じ入学許可証を差し出していたので正解だ。


 「少し待っていなさい」


 男性はそう言うと、奥の部屋へと姿を消した。


 「ありがとうござ……ありがとう、レミオレッタ、さん」

 「さんは無しだよ。あとレミィって呼んでくれると嬉しいかも」


 中々敬語の抜けない私に、苦笑しながらレミオレッタはそう言った。しばらく慣れそうに無いが、頑張らないと親しくしてくれる彼女に申し訳ない。


 「その内慣れると思いま、思う。レ、ミィ」

 「ふふふ、その調子」


 レミオレッタ改めレミィは、私の慣れない姿が面白いのかくすくすと笑っていた。


 「レミオレッタ・スヴァン・レオンゴルドと、フィリア・アスファロス。確認が終わったぞ」


 そんな感じでレミィの笑い声を聞いていると、部屋の奥から男性が戻ってきた。

 なるほど、学園内において身分差が存在しないと言うのは本当らしい。彼の言葉遣いを聞いて、私は実感した。


 「なるほど、君が“陽炎の少女(ヘイザ―)”か」


 彼は私とレミィの顔を見比べ、私に視線を止めるとそう言った。

 早くもそう呼ばれるのか、と私は思い、ため息をついたところ、レミィが私と男性の間に立ち塞がるように割り込んだ。

 彼女は先ほどまでの笑顔と真逆の、鋭い目つきで彼を睨んでいた。


 「失礼ではないですか? その呼び名は蔑称に近いと聞き及んでおります。訂正して下さい」


 明らかに怒っている様子のレミィは、毅然とした態度で男性にそう言った。

 貴族ということでもしかしたら、とは思っていたがレミィも私の呼び名を知っていたようだ。

 だが想定していたものとは違う。彼女は私のために怒っているのだ。

 私は特に気にしないが、彼女は違ったようだ。


 「ああ、いや失礼。貶す訳ではなかったのですよ。申し訳ない」


 彼は慌てた様子でそう言いながら私に頭を下げた。おそらく物珍しさというか、そんなところだったのだろう。


 「私は平気です。顔をお上げください。えと、レミィも私は全然大丈夫だから……」


 私は彼に配慮しながら答え、顔を上げさせる。加えてレミィを宥め、怒りを鎮めてもらおうと声を掛ける。

 彼女は一瞬目を閉じると私に顔を向けた。その表情は心配そうな、どこか悲しげなものだった。


 「フィリアちゃんがそう言うなら良いけど……」

 「大丈夫、大丈夫だから。あ、そうだ。私たちはこれからどこに向かえばよろしいのでしょうか?」


 私は急いで話題を変えようと、少し早口で男性に尋ねる。すると彼は察したのか、少し慌てながら玄関を指差した。


 「所属は二人ともホワイトルームですので、玄関を入って右手の一番奥。そこに専用の教室があるので、そこに向かってください」

 「レミィ、聞いた? 私たち同じ所属なんだって」


 私がレミィに言うと、彼女は少し不満げな顔をしてわかりました、と一言呟いた。

 レミィの手を引き、その場から逃げるように私は玄関へと向かった。


 彼も軽率だったが、少し不憫だと思った。決して悪い意味で言った訳ではなく、ただ興味本位で言った言葉がまさかここまで反感を買うとは思わなかっただろう。

 あまり気にしなければ良いけど、と思いながら私は振り返る。


 離れつつある窓口に、人影が一つ見えた。

 小さめの影は、焦茶色のローブを纏っており、体格がわかりづらい。顔もフードによって全く見えなかった。

 だがどこか、懐かしいような気配を私は人影から感じていた。


 (どこかで、会ったことがある……? でもあのローブに見覚えはないな)


 するとその人影は私の視線に気付いたのか、私の方を向いた。

 フードの奥に、輝く白銀色の髪が見える。


 (知り合いにあの髪色はいないはず……私の勘違いか)


 私は結局、その人影に見覚えがなく、懐かしさは気のせいだろうとした。

 そして前へと向き直り、レミィの腕を引いたまま玄関へと入っていった。

お読みいただきありがとうございます。


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