第11話:王都と“王の色彩”
王都ラウンズ。
世界で最も発展していると言われ、世界中から人や物が集められるアルビオン王国の首都である。
王城を中心とし、その周りを施設や住宅が囲んでおり、それらを守るように石造りの高い壁が建てられている。
王都はいくつかの区画で分けられ、その構造はわかりやすい。
元々山だった王とはその頂上を“王の座”と呼ばれる台地に開拓し、王城が建てられる。そこから四段の土地を作り、上から行政区、貴族区、総合区とされる。
行政区には人の住む住宅は無いが、国の運営を任せられた省庁が集中しており、貴族区はその名の通り貴族の住まう屋敷がある。基本的に一般人は立ち入ることはないので、どんな所なのか私は知らない。
総合区は東西南北に分けられ、一般人や旅人、商人など身分に関係なく立ち入ることのできる場所だ。王都の目玉と言っても良い。
東は平民の住宅地となっており、私の居た教会はその中の外側の壁近くにある。
西は王国の抱える騎士団と軍が駐留し、ここも一般人は中々入ることはない場所だ。
南は商業施設が密集しており、国内外から来た人々で溢れかえっており、最も人の出入りが多いとされている。外国人向けの入国審査もここで行われているので、旅人や行商人などもまずはここを目指す。買い物で私もよく訪れる場所だ。ただし、建物が密集しているため人の目が行き届かない箇所が多々あり、治安はお世辞にも良いとは言えない。路地に入った者がひったくりや、暴行事件に巻き込まれると聞く。
北は“組合”と呼ばれる施設がある。代表的なのは魔術師組合と冒険者組合だろうか。組合とは簡単に言えば仕事の依頼を纏め適性のあるものに割り振ったり、組合に所属する者を管理する機関のことだ。依頼は一般人から貴族まで、どんな身分であっても対価を用意できれば掛けられる。
更に冒険者とは、冒険者組合に所属する世界中を旅しながら仕事をこなす何でも屋のような職業だ。基本的には荒事を好み、森に巣食う魔物の討伐や、山に潜む盗賊の撃退などを行うらしい。その仕事ぶりや成果によって、ランクと言われるシステムで力量を明確にするのだとか。
そして組合の他に、北にはもう一つ施設がある。北側区画の半分を使ったその場所こそ、王立アルビオン学園だ。
私は左右を住宅で挟まれた道を歩いていた。家はどれも同じ形をしており、高さが多少違うくらいで見分けが付かない。
道は絶えず人や場所が行き交っている。南の区画に比べれば人は少ないが、十分だろう。外国がどうなっているかはわからないが、当然ではあるが私のいた村より人は多い。
北に向かう私とは逆方向に進む人が多いのは、おそらく南の区画へと向かっているのだろう。
「……あれは」
道の先に、一人の女の子を見つける。同い年ぐらいだろうか。かなり大きな、というより女の子自身と同じ大きさをした車輪付きのカバンを大変そうに引きずっている。
私と同じ方向へ進んでいることから、目的地もまた同じなのだろう。
私は見かねて彼女へと走り寄る。近付いてくる私に気付かない彼女は、未だひぃひぃと言いながら引きずっていた。
「大丈夫ですか……?」
「あ、えっ、わっ、わぁ!」
声を掛けると驚いたように彼女は振り向いた。それと同時に思ったようにカバンが動かなかったのか、彼女はぺたんとその場に尻餅をつく。
「ごめんなさい。怪我してないですか?」
私は自分の荷物を置きながらその場に跪き、彼女の様子を見る。金色の髪は短めに切り揃えられ、透き通るような碧眼がうるうるとしている。服装はかなり凝った装飾の施された藍色のもので、一目で高い身分だとわかる。
「あ、だ、大丈夫。驚いただけ」
慌てたように立ち上がったその少女の腰に、金色のアクセサリーが見えた。杖を噛むライオンの意匠が施されたブローチだ。
(まずい)
私はそれに見覚えがあり、内心焦りながら立ち上がると左手を自身の胸に添え、一礼する。
「失礼しました。まさかレオンゴルド家の御方だと気が付かず、気安くお声掛けなぞ」
「良い、良いのよ! そういうの気にしないから!」
顔を上げるとそこには顔を真っ赤にした彼女がいた。
「お気遣い、感謝します。レオンゴルド様」
「その名前はちょっと恥ずかしいよ……レミオレッタって呼んで欲しいかも……」
彼女の名にも聞き覚えがある。
レミオレッタ・スヴァン・レオンゴルド。彼女の家は貴族の中でも“王の彩色”と呼ばれるかなり特殊なものだ。
“王の彩色”とは、この国に存在する十二の貴族に与えられた名だ。過去の戦争や強大な魔物に対抗したなど、その功績を認められた者は王より新たな家名を与えられることがある。その家名には色をもじったものが当てられ、レオンゴルドは金色を当てられている。
レオンゴルド家は三百年前に起きた他国との戦争において、効果的に人を殺傷できる魔術を完成させたことで名を与えられた魔術師一家だ。一説にはレオンゴルド家のその魔術によって、敵軍の半分を一晩で撃滅したのだとか。
以来、王国騎士団の魔術師育成を一手に引き受けており、今なおその威光は健在だ。
レミオレッタはレオンゴルド家の次期当主として有名だ。私はエドガーから聞いたことがあるだけで、新聞などに載るほどの人物らしい。
学園まで、まだまだ距離はある。