第0話:夢の始まり
その世界を一言で表現するのならば、それは赤だった。
漆黒の闇の中、辺り一面は轟々と音を立て、燃え盛る赤い炎が地面を覆い隠している。
そしてその炎は闇の中で光源となり、炎と共に広がる血は深紅に輝いて見えた。
私はその中に立っていた。
私はその地獄を見て『ああ、またか』と思う。
この地獄は何度も、私の前に現れるのだ。
私は、いつの間にか握りしめていた両の掌を視界に収め、ゆっくりと開く。
“それ”があることを確かめるように、両の掌を見る。
私の手は、土と、煤と、血で赤黒く汚れていた。
辺りを吹く風が頬を撫でる。まるで獣の呻き声の様な音が聴こえると、炎は荒れ狂う灼熱の海となって、一瞬で触れるもの全てを爛れさせてしまいそうな熱い空気が、私の全身を撫でた。
ひとつ、息を吸ってみると、喉の奥に火が灯ったかの様な感覚に陥る。
熱せられた空気は更なる大風を呼び、びゅうびゅうと音を立てている。
その音が私にはまるで、悲鳴に聞こえた。
目を凝らし、いまだ燃え盛る炎の先を見る。
そこには一つの影があった。
私は、その影の正体を知っている。
全身に白銀の鎧を纏い、一本の両刃剣を携えた人物。
それが影の正体だ。
その人物に対する私の感情は、怒りや憎しみではない。
何故ならこの地獄を作り上げたのは、その人でないことを知っているからだ。
私はこの地獄の中で輝く白銀に、光を見た。
深紅の炎の中でもひと際輝き、眩い程の、瞳を焦がす希望の光を。
――この光景は、私の夢の世界だ。
眠っている私が見ているだけだ。
だがこれは私が実際に見た、真実の出来事であり、少しだけ遠い記憶の世界だ。
私が初めて己の無力さと、世界に対する絶望を抱いた日の記憶。
そして自分が進むべき道、目指したい夢を抱いた始まりの日の記憶。
私――フィリア・アスファロスが生まれた日だ。
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