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ジミとアホとバカとモブ

作者: 伊勢


この世界は誰かが描いた物語で出来てるらしい。

ありふれた小説の設定、人気なゲームの登場人物達。

この世界が先か、それとも異世界の物語が先かは知らないが…兎にも角にも、この世界は異世界で綴られた物語と余りにも酷似しているらしい。


俺自身何言ってんだろうって、感じだ。

実際今も信じてないし。

荒唐無稽な、それこそ夢物語じゃないかと思う。


だが、高熱で3日も寝込んでいた同室の奴が目を覚ました途端こう叫んだんだ。


「俺ってモブじゃんっ!!」


って。




俺の名前はジミー。

名前の通り地味で平凡な見た目をしていると思う。

唯一、非凡な事があるとすれば瞳が世にも珍しい紫紺色だと言うことくらい。まぁ、細目なもんで俺がそんな珍しい瞳をしているなんて知るやつ両親以外いないけど。


「ついに頭がイカれたか…」


ベッドの上でそう叫び、呆然としている奴に声をかけた。

因みにやつの名前はアホーテだ。

名前の通りアホで、そもそもこいつが熱を出して寝込んだのも風に飛ばされたタオルを追ってうっかり池に落ちて溺れたからだ。

その後直ぐに助けてやったはいいが、アホーテはまじでアホなので。こちらの制止を振り切って濡れた体のままに、またも風に飛ばされたタオルを追ってアチコチ走り回ったのだ。

挙句、またまた池に落ちるという…


な?アホだろう??


しかもさっさと風呂に入って着替えればいいのに、課題をやってなかっただの。夕飯に遅れるだのなんだの言ってなかなか風呂に入らなかった。

課題なんて結局俺達に助けを求めてくるくせに。

夕飯だって取り置きしておくっつってんのに…はぁ…。


ほんと、アホーテは阿呆だ。


「そんなわけないだろ!ピンピンしてるわ!!」


「3日も寝込んでたもんな、熱で頭がやられたんだろ…まぁ、

寝込む前から頭はあれだったがな」


「酷い!!」


「アホーテ、うるさい…」


そう呟いたのは、もう1人の同室者。

奴もここ3日、アホーテと共に寝込んでた奴である。

名前はバッカーである。


「バッカー、目が覚めたか?」


「ジミー…?あれ、僕ってモブ?」


…どうやらバッカーも熱で頭がやられてしまったらしい。

早急に医者を呼びに行くべきか。


「モブって…バッカー!まさか、お前もか?」


「お前もって、アホーテも?」


恐る恐る、互いに何かを確かめるように見つめ合う二人。

次の瞬間にはお互いに抱き合い涙を流している。


さながら感動の再会を果たしたとでも言うかのように…


「「同士よ!!」」


何だこの茶番…


因みに、バッカーが寝込んでいたのはアホーテに巻き込まれて池に落ちたからだ。

元々身体が余り強くないバッカーは、アホーテと違ってすぐに風呂にも入ったし念の為に薬も飲んで寝たが可哀想なことに熱を出してしまったのだ。

正直、バッカーはそれほど馬鹿では無い。

勉強はできるし…と言うよりも学年5位以内に入るくらいには頭がいい。最早天才と言ってもいいかもしれない。

アホーテみたいに興味の赴くままにアチコチ考え知らずに猪のように突っ走るようなことも無い。


だがしかし!

非常に残念な事にアホーテといる時は違う。


なんというか…流されやすいというか…

いや、ある意味快楽主義なのかもしれない。

アホーテの思い付きや発想は確かに他と違って面白いと思う。だが、アホーテは考えが浅いというか…


思い立ったら吉日!猪突猛進に突き進め!!


と言うやつなのだ。

だから、その行動の先を一切考えない。

バッカーはそれをわかっていてアホーテに付き合い一緒に阿呆になって馬鹿をやるのだ。


なぜって?

行儀よくお勉強してるより、楽しいからだそうだ。


なんともタチが悪い!!

頭良いくせに、そういう所は本当に馬鹿だと思う!!

しかもそのしり拭をするのはいつも俺だ!

俺は地味に慎ましく暮らしたいというのに!

この2人のせいで昔から色んなことに巻き込まれ… しかも!

何故か俺含めて周囲からは『三馬鹿トリオ』なんて呼ばれる始末。まてぇい!俺をこいつらと一緒にするんじゃねー!


「はいはい、頭がおかしい者同士盛り上がってるとこ悪いんだがー」


そもそも、モブモブって可笑しいだろ。


「頭がおかしいってなんだよっ!」


「アホーテは兎も角、僕は違うよ!!」


「何だと?!」


「なんだよ!」


早速の仲間割れ。

これはいつもの事だ、もはやコントである。

というか、こいつら3日も寝込んでた割に元気だな。


「はいはい、取り敢えず…お前らは『モブ』じゃないだろ?マジでさっきから何言ってんだ?」


そう。こいつらはモブでは無い。


「「は?」」


「モブじゃないって…え??」


「ど、どういう事さ…」


困惑する2人の姿にヤレヤレと首を振る。

本当に、頭のおかしい奴らめ…


「どうもこうも、モブは隣の部屋にいるじゃないか」


「「え?」」


そうなのだ。

奴らがさっきからモブだモブ言ってるが、実はモブはいる。それも隣の部屋に。


「バッカーなんて、モブといつも成績競い合ってる癖に…いきなりモブのこと忘れた挙句、名前奪うとか可哀想だろ」


「あ、違う違う!モブってそっちじゃなくて」


モブじゃない?なら、別のやつの事か?

モブってつく名前の奴って意外と多いからなぁ…あ。


「?なら、モーブリアンの事か?」


「モーブリアン?!…て誰だ」


「お前、モーブリアンの事も忘れたのか?いつもリアンリアン言ってひっつき回ってるくせに…」


「あいつモーブリアンって言うの?!」


「なんで知らないんだよ…」


「じゃなくて!俺たちが言ってるモブってのは名前じゃないの!」


「そうそう!」


「名前じゃない…?じゃあ何だよ」


何か通じあってるらしい2人の言う『モブ』が名前でないとしたら俺にはわからん。

何が言いたいんだと聞けば、随分酷い答えが返ってきた。


「モブで言うのは…あー、えーっと…モブモブしてるって言うか…こう、主役では無い…背景的な?居てもいなくてもいい存在的な…??」


「はぁ??」


「アレだよ、物語の中でヒーローでもヒロインでも脇役でもない。言うなれば顔も名前も書かれない群衆達の事かな」


「その言い方はモブ達に失礼じゃないか??」


「言葉だけ聞くと確かにそうかもだけど…」


「いやでも、俺達もモブだし…」


「そもそもモブってそういうのだし…なぁ?」


「うんうん」


モブがモブがって、言う割には随分酷い扱いだ。

終いには、自分もそんな『モブ』の1人だとか言い出した。


「でも確かに…どうせなら主人公の親友とかになりたかった」


「えー?そこは主人公になってチート三昧だろ!」


「いやいや!お、俺が主役とか…そんな、確かにハーレムには憧れるけど!!」


「いやいやいや!ハーレムとかは別にいいとして、自由自在に魔法扱えたら超かっこよくね!!」


「お前っ、ハーレムを馬鹿にするのか?!色んな子にチヤホヤされるのは男なら誰でも憧れるもんだろ?!」


「お前そんなに女すぎっけ?いつも女の前じゃ挙動不審になっていつも以上の阿呆に成り下がるくせに??」


「うっ、それは…魔法なんて!!無駄に創造力働かさないとーとか、長ったらしい詠唱とかよく考えんでもクソ恥ずかしいやつじゃねぇかっ!それこそ重度の厨二病じゃなきゃ出来ねぇやつじゃん!!」


「なにおゥ?!」


「やんのかゴラァ?!」


突然始まる意味のわからない罵りあいに心底辟易する。

主人公がー、厨二病がー、チートだ無双だ…何言ってやがる。

終始意味の分からない事を言い合い、仕方がなく奴らの言葉を拾っていけばここは異世界だと言い出した。

元の世界では2人とも成人しており、人種や国は違えどもニホンのオタク文化とやらに触れ酷く感銘を受けたという。

その後は国を飛び出し聖地巡礼の旅にでて、ニホンでオシに貢ぎ、新たな嫁をつくり、様々な沼にハマり、逆に沼に突き落とし、引き摺りこみまくり…なんやかんや充実した人生…オタク人生を謳歌したのだとか。


うん…あのさ。


オシが何なのかイマイチ分からんが(尊くて萌えが凄くてカッコ可愛い存在ってなんだよ…)多分、名前かなにかなのだろう。こいつらはどうもオシさんに結構な額を貢いでいたらしい…大丈夫か?騙されてないか??このツボを買えば金運アップとか言われて買ってたりしてないだろうな…。


しかも?


新たな嫁?が、どうのこうの。なんだお前ら、ナチュラルにハーレムを製造していたというのか??

そんなに前世とやらではモテモテだったのか?今とさほど変わらなそうなその性格で??スゲーな…お前ら。

まぁ、そこは一夫多妻制の国ならハーレムというのも分からなくもないが、どうも違うようだ。

なんて奴らだ…こんな残念な頭のヤツらに惚れて嫁になってくれたと言うのに。そのうち刺されても知らないからな…。


そんで?


沼にハマり、沼に突き落とし、更には引き摺りこみ??って…どんな国だよ?!

そりゃな?国が違えば(この場合は異世界?らしいが)違えば当然常識や文化は変わるが…いやいや、オタク文化こっわ!!

てか、どだけ沼の多い国なのさ!!てか、なに。皆沼に住んでんの??もはやそれってモンスターじゃない??

しかもそれを当然のように行ってきたとか…お前らもだけど!異世界マジで恐ろしいな?!


最終的にこいつらが言うには、これらの話は自分の前世の話であり、今いる世界は前世の世界から見て異世界であり、自分達はどうやら異世界転生というものをしたらしいという。


そしてそして?


この世界は前世で読んだ小説とゲームの物語にそっくりなのだとか(2人の意見がここで割れた為、詳細は不明だ)

しかし、残念な事に自分らは物語の主役でも脇役でもない何処にでもいる『モブ』だった、と。


「モブが主役の話もあったけどさー」


「アホーテやらバッカーなんて、名前のやつはいなかったんだよなぁ」


「だから、せめてモブが主役のモブになりたかったなーって、そしたら女の子にもモテたかもだしー」


前の世界で散々ハーレム築き上げといて、おまそれ言う?


「それか、設定もりもりのチートで魔法無双しまくったりさ!」


「「ねー」」


仲良く顔を見合せてどこぞの女子のように可愛こぶる2人の姿に、何だこいつらと呆れた視線を送ってしまう。


そして、一つ分かったことがある。


こいつらの話が本当だとして、生まれ変わったとしても前世からこいつらの性格は変わらなかったんだという残念さだ。


死んでも、阿呆や馬鹿は治らないんだな…。


「あのさ、俺にはお前らが言う前世の記憶だの、イセカイやらチートやらモブやらなんのこっちゃよく分からん。

ぶっちゃけ熱で3日も寝込んで残念な頭が更に残念なことになっちまったんだろうなと心底哀れんでいる」


「「ひどいっ!」」


「だが、もしお前らの妄言が事実だったとして…この世界が本当に誰かに作られた物語の世界だとしてよ。

俺がこの世界で生まれて育って、今まで人生を送ってきた事実は変わらないし。それはお前らも同じだ。この世界に生まれて生きてきた、一人の人間だってのは忘れるな」


話を聞いていて、何よりも思ったのはそんな事だった。

今目の前にいる2人は一見いつも通りに見えるが、何処かソワソワとした落ち着かない雰囲気が正しく夢と現実が曖昧になっているのだと語っている様で見ていて酷く危うく見えた。


だからこそ、あえて忠告する。

ここはお前らが今まで必死に生きてきた現実だと。


「…あぁ。そう、だよな」


「うん…今が現実ってことは変わらないもんね」


「モブだ主役だ、そんな役割与えられてなくても俺は俺の人生を生きるし。お前らも、お前らの人生を生きろ。

物語だ、シナリオだ…んなよく分からねぇもんに振り回されて生きるのだけは無駄だと思うぞ。

それに何より、お前らが言うモブだってな一生懸命に生きてそれぞれの人生を歩んでんだ。背景だなんだ、馬鹿にするのはやめろ」


「すまん…」


「ごめん…」


俺の言葉にスッカリ項垂れてしまった2人の姿に、俺はおもむろに背中を向けて窓辺に向かう。

爽やかな風が入り込み、窓の外から木々の揺れる音が聞こえ、小鳥たちが楽しそうに空を飛んでいた。


和やかなその風景にを眺めながら…

少しの恥ずかしさとそれを上回る高揚感に必死ににやけそうになる口元を抑える。


俺…我ながらかっこいいこと言ったわー(ドヤッ)!


こいつらが冒険譚などの小説が好きなように、実は俺もそういう話は大好きである。

中には今こいつらが言った前世やら異世界物の話もあった。

その中では今の俺が言ったようなセリフも実は出てくるわけで…常々そういうセリフを吐く奴って実はカッコイイよなって思ってたんだよなー。

こう、下手に前世の記憶とやらがあるせいで現実を受け止めきれない主人公を諭して受け止める役…みたいな??頼れる存在的な??!


まぁ、2人には言わないけどな!!


「あとあれだ。チートだ無双だ、やりたきゃやれるように努力しろ。アホーテは兎も角、バッカーは頭良いんだからやろうと思えばやれんだろ」


1歩間違えればあまりの恥ずかしさに悶え苦しみそうな自分から目を逸らし、苦し紛れに適当なことを言ってみる。


まぁ、あれだ…

何事も努力次第だと思うぞ、うん。


「なにおう!俺だってなぁ…あ、アレだ!やろうと思えばいつだって出来るからな!」


頭を上げてプンスカ怒りを露わにするアホーテの姿に間髪入れず言葉を返す。


「「いや、無理だろ(よ)」」


だってアホーテは阿呆だからな!

アレとか言ってる時点で無理だと思うぞ!


「確かに…僕、アホーテみたく馬鹿じゃないし。むしろ天才だし?勉強は好きじゃないけど。まぁ、やろうと思えばやれなくないのかなぁ…アホーテは、無理だろうけど!」


何処か照れくさそうに、しかし自慢げに語るバッカーの姿に呆れた視線を送る。


まぁ、うん…


確かにバッカーは勉強はできる。

頭の回転は早い方だし、やろうと思えばやれるのだろう。

しかし、一つ言いたい。

天才は自分のことを天才とは言わないだろ…と。

そこはアホーテの同類。勉強のできる馬鹿はこれだから…。


「そうだぞ。お前いつも手抜きしてんだから、偶には本気出してやってみるのもいいんじゃないか?…アホーテはあれが本気だろうから無理だがな」


まぁ、そんな事言わないが。

やる気のあるうちに持ちあげておけば暫くは突然「飽きた」とか言ってアホーテを拐かして変な遊びを始めることもなく大人しいだろうと、そっと言葉を加えた。


是非是非そのやる気を勉強に当てて俺に平穏な日々を与えてくれたまえ。


「くっそー!今に見てろよー!」


「そのセリフは俺に勝ってから言ってみろ」


「本当ソレね」


因みに、俺はこいつらが先程言っていた言葉を借りるならば典型的なモブ野郎なので、勉強の成績は真ん中よりも上だが上位には入らないくらい…精々、中の上ってとこか?

そして、アホーテはアホなので下の下だ。

まぁ、こいつは良くも悪くも単純なのでここで煽るだけ煽っておけば変な対抗心燃やして少しは勉強に打ち込むだろ。


「さてと、一応お前ら熱は下がったみたいだが念の為医者に見てもらった方がいいな」


「えー」


「もう大丈夫だよー」


「3日も寝込んでたんだぞ?今は平気そうだが、またぶり返したりして悪化したらどうするんだよ」


「大丈夫だって!」


「ジミーは心配症だなぁ」


「あのよ、ちゃんと治してくれないと俺が大変なんだよ!

そりゃ心配もあったけど!!アホーテは兎も角、バッカーは元々身体が弱いしよ!?なのに全然熱さがんねーし、お前ら2人して普段のヘラヘラした脳天気な面もなくてすげー辛そうだし、まともに飯も食ってくれねぇ、こっちの声にも答えてくれねぇ。なのに、医者は薬飲ましてあとは様子みろしか言わねーし!同じ部屋なんだからお前が看病しろよって、他の奴らにはうつすなよって誰も手伝ってくれねぇし!

…お前ら2人を俺1人で3日も看病してやってたんだぞ?!

これ以上寝込まれたら俺の方が死ぬわ!」


「お、おう」


「ご、ごめん」


漸く熱が下がって安心した途端、マジで変なこと言い出したしな?!だからマジでちゃんと(主に頭を)診てもらおうな?!


「たくよ…おら、病み上がり野郎共大人しく。くれぐれも大人しく!決して布団から出よう思わずそこで犬のように従順に待ってやがれ!…いいな?」


「お、おう!」


「わ、わかった!」


ドスの効いた声で俺がそう支持すれば2人はピャッ!と布団の中へと潜り込んだ。しかし、俺に恐れながらも少しソワソワしたその姿にチッと舌打ちを零す。


「熱下がって元気だし、少しくらい外行ってもいいよねー」


「バレなきゃ大丈夫!」


「てか寝すぎてそろそろ飽きたし外いきたーい!」


と、言う奴らの思考が透けて見えるようだった。

否、実際丸聞こえである。お前ら基本的に声でけぇんだよ!


逃亡する気満々の病人どもに、俺は先程とは違い殊更優しくゆっくりと囁きかけた。


「2人の事だ、俺のいいつけくらいしっっっっかり!聞き分けてくれる事は分かっているんだが…

もし…もしも、俺が部屋に戻ってきていなかったら…」


「「…ゴ、ゴクリ」」


喉を鳴らし、緊張した様子のふたりの姿に俺の糸のように細すぎる目を少しだけ開きじっと見詰める。


ジーーーーっと、無言で見つめて。


俺は部屋を出た。


「え?え!なに?何が起こるっていうんだよっ!」


「なになになに?!やだ、こっわ!こっわ!!」


全く、熱が下がった途端騒がしいやつらめ!

だが、普段の変わらない彼らの元気なその声に俺は心底安堵の息を零した。


「…よかった」


誰にも聞こえない程小さな言葉を呟いて、俺は足早に医者の所へと向かった。


廊下の窓から見える景色は、先程と同じく爽やかな風が木々を揺らし、小鳥達が空を楽しげに飛んでいる。

何処までも平和で、平穏なその風景に…


自然と笑みが零れた。


名前の通り、地味な見た目に地味な性格。

しかし、地味の何が悪い。

俺は俺だ、地味で平和な人生をおくってやる。


例え、実は俺の瞳が王族由来の珍しい色だったとしても。

例え、実は俺の父親は王弟で当時平民だった母に惚れ込んで家出同然で出家したが、俺が生まれたお陰で孫可愛さに両親と祖父母の中が改善されて偶に家に遊びに来るくらい良好だったとしても。

例え、実はそのお陰で貴族席があり俺は公爵子息で、そのせいで俺にも王位継承権が存在しようとも。


生来影の薄さのお陰であまり認識されずこうして平穏で地味な生活が送れているのだから、それは幸せな事だろう。


因みに、俺は一切身分を隠していない。

なのに俺が公爵子息だと気付かないのはあいつららしい。

そんな面白い奴らに囲まれて、色々大変だか楽しい日々を送れているのも奴らのお陰だったりする。

3日も寝込んだ挙句、あんなことを言い出したことには心底驚いたし、今でもただの夢物語だとしか思えないが…


もし…

もしも、本当に。


この世界が、誰かが描いた空想の産物だったとしても。

この先、運命という名の物語のシナリオに振り回されることになろうとも…あいつらは大事な友達だからな。


せいぜい最後まで付き合ってやるさ。



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