~ 重要な切り札 ~
こちらの姿を見るなり、床に唾を吐いて不機嫌そうに睨みつけてくる。
「嬢ちゃんか。なんの様だ」
「わかっているでしょ?」
「けっ、金なんてねぇよ。残念だったな」
「でしたら、体で払って頂くとしましょう」
「体……まさか、男色家に売る気じゃ」
「なんの需要もありませんわ」
「こうみえて筋肉は一端についてる。好かれるかもしれんぞ」
「本当に売られたいのですね?」
慌てた様に手を振り、否定のリアクションをとる。
お父様の前に連れていったら、面白い事になりそう。
「冗談だって。体って言ったら、鍛治屋の仕事か」
「当然。報酬は本来でしたら金貨30枚でしたが、昨日の件で金貨2枚に致します」
「おいおい嬢ちゃん、いくらなんでも」
「でしたら、サボらないで鍛冶屋の仕事をすべきでしたわね」
「ぐっ、まずは話を聞いてからだな」
「えぇ、そうね」
手に持っていた設計図をカウンターの上に広げる。
中身を見ると少し考え、口を開く。
「これは武器って所まではわかるが……ここに弾を装填して、ここから押し出して弾を筒から発射するってくらいしかわからん」
「だいたい合ってますわ。これを実用できる様に仕上げて欲しいの」
「これをか? ボウガンに似てるが、あんまり強そうに見えないぞ」
「ボウガンなんて、比にならない程の力を秘めている事は保証しますわ。疑うようでしたら、試しに作ってみなさい」
問題なく受けてもらえそうなので、不安そうに顔を尻目にお店を出て自宅に帰ろうとすると、入口前で以前お漏らしをしていた男性とバッタリ遭遇。
お互い注意しておらず、ぶつかってしまい相手が尻餅をついて持っていた買い物袋から品物が零れ落ちる。
「すいません、すいません!」
慌てて落ちた物を拾い、あわあわしてる彼を手伝います。
Sの性格ではないですが、何故か彼を見るとイジメたくなるのは何故でしょう。
「怪我はなさそうですね」
「ありがとうございます。この通り、擦り傷一つありません」
スカートをたくし上げ、膝もすりむいてない事をアピール。
目線を逸らして、眼鏡を一度クイッとかけなおし、照れ隠しをしている素振りが可愛らしい。
ほんと、いじりがいのある人だこと。
「あら、顔が真っ赤。風邪かしら」
手を額に当て、熱を測る素振り。
慌てて振りほどかれ、完全に視線を逸らしてしまいます。
「だ、大丈夫ですから」
「そうですの? ご無理なさらないで下さいね」
顔を覗き込もうとしますが、後ろを向いてうずくまってしまいました。
仕方ないので、これ以上いじらないであげましょう。
「ふふ、それでは失礼致します」
用事は終わり、後は待つのみ。
早急にやらなければならない事もなく、習い事をこなしながら平和な時間を過ごしていました。