真っ白な空間の秘め事
少しづつ修正も加えて再投稿してます。
この回は前世と事故後の話。
私の前世の人生は割と普通だったように思う。日本という国で生まれて、育った。
普通、それ以外に表現のしようもない。家庭環境も問題なかったと思う。あ、両親は仕事で不在が多く、芽久菜は一人っ子だったのでいつも家には一人だったかも。一人でやれてるようで、家庭科的な事が底辺レベルだったので自炊するとひどい有様になってた。洗濯と掃除はできた!
小・中学校と義務教育を進み、高校では少しレベルが上位の学校の普通科に進学。特に問題もなく高校生活を過ごすかな、と思ったけど高校でバスケ部のマネージャーで入部して、律に会った。
友人に誘われての運動部のマネージャーは正直キツくて、特に運動するわけではないが大会時の朝集合時間だったり、練習や試合の時の水分の確保&暑さ対策などの備品管理や準備など、芽久菜には苦痛だった。
背番号を全員分、マネージャーで縫えと言われた時には泣いた。家庭科、本当に苦手でヨレヨレになってしまう。一度、その仕上がりをいじられてから裁縫は本当にダメだった。いつもいつも指が穴だらけ・・・。
「ありがとう、うまく縫えてるよ」
そういって、笑って頭を撫でてくれたのは律だった。ほかの部員のダメ出しが冗談で流せなくて涙が出てきてた時に言ってくれた言葉。それまで続いていた弄りが律の優しい発言で終わった。
律の言葉には見えない“力”があるような気がする。
慣れないマネージャー仕事に疲れてる芽久菜を、さりげない言葉や態度で守られていると感じる。
いつも、必要な時に律の言葉はあって、必要な時に居てくれたから。
だから、自然に恋人同士になってた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ずっと、大好き。
これからも、一緒にいてね。――約束。
律は真っ白い世界で気が付いた。
腕の中には、芽久菜がいる。
――動かない・・・・。嘘だろう?
――芽久菜!
駅の長い階段から落ちてくる人々の下敷きになった芽久菜。引き寄せて守った筈なのに、守れていなかった。腕の中の芽久菜は動かない。眠るように・・・、呼吸をしていない。
ここは、駅構内じゃない。何もない、真っ白い空間の中に、律と芽久菜だけいる。
そんな現象も律にはどうでもよかった。律にとって芽久菜の異常のほうが、どうにかなりそうだから。
震える手で芽久菜の頬を撫でる。――芽久菜がいなければ生きてる意味なんかないのに!
律は芽久菜を掻き抱いて嗚咽を漏らす。身体中の血液が凍ってしまったかのように冷えていく。
――だめだ、芽久・・・・!
どれくらいの時間をそうしていただろう。
時間だけがこの真っ白な世界で無意味に過ぎて行っている。 死後硬直がない芽久菜の身体、生きてるのか?でも呼吸してない、心臓も・・・動いていない。
「くそっ・・・」
律の悲鳴にも似た悪態が白い世界に木霊する。
『――帰らないのかい?』
何もないはずの白い世界に投げかけられた、男とも女とも言えないような声。
声、だけがする。
「・・・なんだって?」
律は芽久菜を抱きながら周囲を警戒する。なにも、ない。
『君は生きてるよ。その子は死んでしまったんだけどね。』
抑揚のない声が白い世界に落ちる。
「・・・俺は生きている?」
誰だろう?声だけの存在。神、とかいうモノだろうか・・・?
そう、と声は告げる。
『今、病院で治療中だよ。この事故で亡くなるのは3人なんだ。君は含まれていないよ』
「・・・3人?」
『うん。君がその子を抱きしめる前に死んじゃったんだよ、彼女。』
律はぶるぶる震えた指先で芽久菜の唇をなぞる。嘘だ、と譫言のように繰り返す律の声が響く。
「芽久菜がいなければ、生きる意味がない・・・」
『ほんとに、そう?』
「このまま、芽久の身体と一緒にここにいる」
『ここにはいられないよ』
「無理だ!!離れられない!!!」
悲鳴のような叫びが空気を震わせる。芽久菜を搔き抱いて、無理だ、いやだ、と荒くなる呼吸の合間に零れ落ち慟哭する。
『――それは、もう空っぽだよ。魂は別のところに旅立つ予定でいるけど、その子の魂も君と離れられなくてちょっと困ってる。無理に残ったせいで少し魂が傷ついてしまったから、君、先に行きなよ』
「・・・は?」
『だから、君が行った先にこの子の魂も送ってあげるから、先に行っててよ』
ああ、と声は気が付いたように言う。
『この子と一緒に行くって事は、助かった君の身体、死んじゃうよ?』
「・・・いい。芽久菜といられるなら」
『じゃあ、決定。魂が傷ついちゃった所は治して送るけど、傷ついた影響で君の事がわからないかもしれないけど、いい?』
はっ、と律は笑う。そんなもの、俺がすぐに気が付くんだから些細な事だろう。
俺が見つければいいだけの話。どんなに時間がかかっても、必ず芽久菜を見つける。たとえ姿・形が変わろうとも芽久菜だと見分けられる、絶対の自信。
「必ず、芽久菜を見つける。――魂に誓って」
『私はあんまり魂を導いたりしないんだけど、君には少し思う所があるからね、特別。じゃあ、行きなよ“君が在るべき”世界へ』
すうっと律の姿が透明になり、消えていく。
最後に愛しい芽久菜の頬をにキスを残して。先に行って待ってるよ、と優しい声で告げていく。
律の姿が完全に消え、送ったのを確認した声は芽久菜に意識を向ける。
芽久菜の身体も少しずつ消えていく。ここに留めていたのは律の強靭な意思の力だったから。
『・・・彼はやっぱり、あの一族だよね。素質あるよ、ほんとに』
ため息とともに漏れた声は呆れた調子だった。
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