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性別転館の殺人  作者: 天草一樹
日常パート:性別転館の優雅な日々
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館内図

「この館って、コの字型じゃなくてH型の建物だったんだ。偶然、じゃなくて意図したんだろうなあ」


 ベッドに横たわった私は、館内図を眺めながらそう呟いた。


挿絵(By みてみん)


 SサイズからXLサイズまで取り揃えられた豊富な服や、確かに女性になったら必要だよなというものがあらん限り詰め込まれた一室。中にはあれば便利だけど中々家にないものもあり、純粋にここに泊まるだけでも楽しそうに思えた。

 しかしまあ、さすがにここまで来て、性転換しないわけがない。

 少しベッドで体を休めたら、早々に性転換装置を使いに行こう。

 そう決めた私は、ベッドの上でペタペタと自分の体を触り始めた。勿論性転換後の姿次第ではあるが、私の場合は割と本気で男性になりたいと思っている。正確には今の見た目を何とかしたいというところだけれど――まあとにかく、それなりの確率で、私は男の姿を選ぶだろう。そう考えれば、この体でいる時間も残り僅か。

 ……いざその時間が迫ると、急に名残惜しくなるものだ。これまで飽きるほど見た自分の姿を、改めて目に焼き付けておこうと、鏡の前に移動する。

 鏡に映る私は、当たり前だが普段と何も違いがない。二十年以上の歳月お世話になってきた顔と体。改めてじっくりと観察してみると――うーん、悪くない。別に、嫌いなわけではないのだ。むしろ、というか普通に好きだし。ただ、社会を生き抜くには、どうしても不便なことが多いのが残念なところだ。

 せっかくだし写真を撮っておこうと思いスマホを探し――アンに回収されたことを思い出す。


「こんなことなら、家でもっと写真撮っておくんだった」


 舌打ちを一つ。

 性転換前の自分の写真を撮るだけなら、アンの監視条件のもと許されそうな気もするが、まず間違いなくアンの嘲笑を買うことになる。それは腹立たしいのでご免被りたいところだ。


「まあ、写真自体はいくらでもあるし、今更撮る必要もないか」


 鏡の前から離れ、再びベッドの上にダイブ。

 ぼんやり館内図を眺めていたら、ふと、この館には現在何人が滞在しているのだろうかと気になった。

 性別転館の客室は八部屋。ここの人気を考えれば全ての部屋に滞在客がいるはず。となると私を除き七人の滞在客がいることになる。ではその七人は既に館の中にいるのか、それともこれからやってくるのか。


「どっちにしても、あんまりダラダラしてるとまずいかも?」


 性転換装置を使えばたったの一時間で性別を変えることができる。しかし逆に言えば、誰かが使用を始めたらそれから一時間は使えなくなるということだ。

 部屋に備え付けられた時計を見ると、時刻はちょうど午後一時を示していた。仮に今から他の七人が順に使い始めた場合、私に回ってくるのは夜の十時過ぎになってしまう。

 そう何度も性別を入れ替えるつもりはないので、そこまで問題があるわけではないが――長距離の移動も含め疲れている今の体調では、夜中に性別を変えるのはできれば避けたいところ。

 私は数秒目をつぶり、それから一度大きく伸びをした。


「まあ、行ってみますか」


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