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性別転館の殺人  作者: 天草一樹
事件パート:トランスフォビック機構の恐怖と狂気

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第二の首なし死体

「まさか、また首なし死体とはな」


 性別転館三階。装飾室の前。

 そこには仰向けで大の字に倒れた、筋肉ムキムキの男の死体があった。勿論、その首から上は血だまりだけで何もない。

 訓練室で何度か一緒に汗を流した仲なこともあり、頭がなくてもその死体が馬酔さんであるとはっきりわかる。

 毒田さんとは違い、たった数日前からではあるものの知り合いの死体。加えてその死体のすぐ右手の壁には、彼の血を使って描かれた巨大なTP機構のマークが残されていた。

 思いがけぬ惨状に、私は言葉も出ずただ体を震わせる。

 一方常人とはかけ離れた感性の持ち主である一柳は、僅かに眉間にしわを寄せるだけで、淡々と死体を見つめていた。


「はっきり言って、これは予想外か。いや、TP機構相手に生ぬるい予想をしていた俺の落ち度だな。まさかここまで直接的な行動を起こすとは」

「……これ、やっぱり犯人はTP機構のメンバーなのかな」

「まあ間違いないだろう。それ以外で殺人を犯す理由なんて見当たらないし、何よりこのマーク。疑う余地もない」


 世の中には模倣犯というものも存在するが、ことTP機構の模倣犯というのはほとんどいない。彼らの事件の多くが自爆テロであることと、かつて模倣を行った人物が、本物のTP機構メンバーによって処刑されたことが原因だ。

 私たち一般人からしたらTP機構のメンバーは狂った犯罪者以外の何者でもないが、一応彼らは彼らなりの信念をもって行為に及んでいる――まあそうでもなければ自爆テロなんてできるわけないし。それゆえ、当然自分たちの模倣犯に対してもとかく厳しい態度をとっている。

 そうした理由から、TP機構のマークを軽はずみに模倣する人はまずいない。つまり今回馬酔さんを殺した犯人も、TP機構のメンバーである可能性が非常に高いということだ。だけど――


「なんで、よりによって馬酔さんが……。それに、一体どうやって……」

「そこはその通りだな。性転換後とはいえ、筋力的に見て最も襲いにくい相手だが、睡眠薬でも盛って眠らせたのか。しかしそうすると、偶然ではなく狙ったことになるな。お前はどう思う」


 一柳は死体から目を離し、すぐ後ろで座り込んでいる小田巻さんに尋ねた。

 今この場には、死体となった馬酔さん、一柳と私、そして第一発見者である小田巻さんの三人と一体がいる。

 私たちを呼びに来た梓さんは、ヒエンを探しに客室へと向かっており、まだ戻ってきていない。

 私と一柳は先に死体を見るため三階に上がってきたわけだが、そこにいたのが小田巻さんだった。元々彼が死体を発見し、腰を抜かしながら助けを求めに二階に下りたところで梓さんと遭遇。二人で再度死体を確認しに三階に行った後、梓さんが私たちを呼びに来た、という流れらしい。

 そんなわけで三階で待機していた小田巻さん。一柳も梓さんも昨晩性別を変えたのに対し、小田巻さんはひょろりもやし男性のまま。今すぐにでも倒れてしまいそうな青い顔ながら、目だけはどこかギラギラしていた。

 もしかしたら、まだ死に対する憧れを持ち続けているのかもしれない。

 そんな小田巻さんは、死体をじっと見つめたまま、「狙ったんだと思います」と呟いた。


「ほう。理由を聞きたいところだな」

「……馬酔さんは、僕と違って性転換後の自分に満足していました。だから彼が性転換室のある三階に、何の用事もなく来るはずがありません」

「にもかかわらず三階で殺されたということは、誰かに呼び出されていた可能性――つまり狙って殺された可能性が高いってことか。いい考えだな」


 首なし死体を前に、想像以上に冷静な仮説を述べた小田巻さん。

 私はそのことにやや震えを感じるも、平静を装って性転換室を指さした。


「あの、死体について考えるのもいいんだけど、あれ見てみません?」

「あれ? ああ、予約表のことか。別に構わないが、死体を前に気にするほどか?」

「誰かに呼び出されたとしても、ここに来たってことは性転換が目的だと思うから。……死体見てるよりは手掛かりがあるかなって」

「ふむ……少し配慮に欠けたな。ひとまず予約表を確認するか」


 私の申し出をあっさりと受け入れる一柳。

 どうやら死体を見ていられない私の気持ちを察してくれたらしい。

 改めて、男になってかなりイメージが変わったなと感じる。普通にイケメンだし頭いいし気遣いもできる。別段女になる必要なんてなかったんじゃないかと思う。まあこうした気づかいが面倒だから女になろうとしたんだろうけど……でも、はっきり言って女の方が気を遣わないといけない場面多いと思うんだけどなあ。

 そんなことを考えて目の前の死体から意識をそらし、二人で血だまりを飛び越え、性転換室まで移動する。

 そして予約表を見て――揃ってうめき声を上げた。


「なに、これ……」

「これはまた、随分とおかしなことになってるな」


 視線の先にある予約表。そこには前日に見たものより、遥かに多く予約が埋められていた。それも、毒田さんの部屋番号で。


三日目

①『9:10~10:20(Ⅰ号室。検証のため私と梓さんで登録したもの)』

②『19:00~20:10(Ⅳ号室。一柳蘭)』

③『21:30~22:40(Ⅱ号室。鬼灯梓)』

④『23:10~00:20(Ⅰ号室。毒田御神)』


四日目

①『1:30~2:40(Ⅰ号室。毒田御神)』

②『2:40~3:50(Ⅰ号室。毒田御神)』

③『4:00~5:10(Ⅰ号室。毒田御神)』

④『5:10~6:20(Ⅰ号室。毒田御神)』


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