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性別転館の殺人  作者: 天草一樹
事件パート:トランスフォビック機構の恐怖と狂気

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殺害動機

「あ、梓さんここにいたんですね」

「ああ、水仙さん。お疲れ様です。捜査の方は順調ですか?」

「んー、微妙ですね。事件って言うか、この館に関する新しい発見はありましたけど」


 二階に上がってまず図書室に入ったところ誰もおらず。続けてパソコンの置いてある情報室を覗いてみたら、そこで梓さんがパソコンに向き合って何やら調べ物をしていた。

 八人目について聞いておくのは勿論、ここまでの経過についても報告しておこうと思い話しかけたのだった。


「地下に死体安置所、というよりは死体集積所があったとは……それに気づいていたヒエンさんも慧眼ですね」

「はい。まだ確認してないですけど、毒田さんの頭もその中に入れられてるんじゃないかなって」


 まだ館全てを調べたわけではないので分からないが、あれだけ絶好の隠し場所、私であればまず間違いなくあそこに捨てるだろう。

 しかし梓さんは私とは違う考えのようで、首を僅かに傾げた。


「それはどうでしょう? 毒田さんを殺した人物が地下の存在を知っていたとは思えませんし、仮に知っていてもアンさんの目をどうやって誤魔化したのか。地下に繋がる穴が他にも存在する可能性はありますが、やはりどうしてそれを知っていたかの謎は残ります」

「アンの目を誤魔化すっていうか口留めする方法はいくらでもありそうですけど、どうして地下の存在を知っていたのかは不思議ですね」


 そもそも首を切ること自体意味不明だが、その隠し場所に地下を使用する。それこそ犯人がアンでもない限り色々と疑問が残る。

 ただ、個人的にはアンが犯人でないというのは、本人の言葉通り真実だと思っていた。もし犯人であったならあんな風に武器を誇示したりはしなかったはず。それにアンの言葉通りその存在意義が襲撃者の排除であるならば、殺人はプログラム上正当な行為ということ。殺害自体否定する必要がなかったはずだ。いくら人っぽいとはいえ、アンドロイドだし。

 お互いに暫し黙考するがこれと言った考えは浮かばない。

 これ以上は時間の無駄かと思い、私は話題を変えた。


「そう言えば、梓さんは何を調べていたんですか?」

「ああ、毒田さんについて調べていました。毒田御神というのはかなり珍しい名前でしたし、もしかしたらネットから素性を知れるのではないかと思いまして」

「成る程。それでどうでした?」

「正直あまり期待はしていなかったのですが、これがビンゴでして」


 そう言うと梓さんはあるサイトを私に見せてきた。


「毒田御神、三十五歳、政治家……政治家!?」

「はい。野党の新進気鋭の若手議員の様ですね。加えて少し気になる経歴というか、珍しい主張をしていますね。曰く、性転換装置は完全に撤廃すべき、とのことです」

「性転換装置否定派……」


 頭の中ですぐさま先に見たTP機構のマークが思い浮かぶ。

 あれがどっちの持ち物だったか、これははっきりしたようだ。

 一応ヒエンから口留めされていたので死体の下にTP機構のマークがあったことは隠していたのだが、どうやら状況が変わってきた。

 心の中でヒエンに頭を下げてから、私はTP機構のマークの話を梓さんにした。


「成る程……全く分からなかった殺害の意図が、少し見えてきたかもしれませんね」


 梓さんは私の話を黙って聞いた後、さして驚いた様子もなくそう言った。


「ですよね。毒田さんはトランスフォビック機構のメンバーだった。そんな彼が性別転館に来た理由は、当然性転換装置の破壊、もしくは私たち参加者の説得。アンじゃなく参加者に殺されたってことは、説得がメインだった可能性が高い」

「そうですね。ですが、逆の可能性も考えられると思います」

「逆ですか?」

「はい。毒田さんが実は性別転換肯定派であり、今回の参加者の中に彼とは別にTP機構のメンバーが紛れていた。そこで毒田さんの裏切りに気付いた犯人は、毒田さんを殺してしまった」

「確かにたまに聞きますね。性転換否定派の人が突然性転換して姿をくらませるとか」

「TP機構を味方にできればそのアドバンテージは大きく、敵に回せば命を狙われるなど脅威になる。本心では性転換を望みながら、直前まで性転換否定派として活動する者も少なくありません」

「ふむ……しかしそうすると、毒田さん殺しの犯人も絞られてきませんか?」

「というと?」

「犯人がTP機構のメンバーなら、当然性転換には反対のはずですよね。だったら私たちの中で性転換していない人がいれば、おのずとその人が犯人ってことになりませんか?」

「ええ……その可能性もありますが、相手が本当にTP機構のメンバーであるならば、そうすんなりとはいかないと思います」

「まあ、TP機構ですからね……」


 私と梓さんは同じように天井を見上げ、TP機構のこれまでの活動を想起した。



 トランスフォビック機構。通称『TP機構』。性転換装置による性転換に対して嫌悪感と敵対心を抱き、性転換を考える人を止めるためにありとあらゆる犯罪行為、果てには自爆テロまで行う超過激派団体だ。

 メンバーは日本だけでなく世界中に存在し、各国に支社がある。TP機構の存在を最も印象づけた一大事件があり、それは各国の首相・大統領を狙った全世界同時自爆テロだった。SPや警備人、通りすがりの一般人を含め数多くの死傷者を出し、死にこそしなかったものの一部の総理、大統領にも生涯残る傷を負った者がいた。

 またこの一件のヤバいところは、これら襲撃から爆破までの一部始終を同団体のメンバーが撮影・録画し、犯行声明と共に全世界のSNSにアップしたことだ。規制をかける暇もなく世界中に流出した衝撃映像は、多くの人の心にTP機構への恐怖を強く刻み込んだ。

 それ以降も彼らは積極的に自爆テロを行い、それらは全て世間の目に晒される形で配信された。ぶっちゃけ何がそこまで彼らを駆り立てるのか分からないが――一応彼らの主張としては、与えられた性(生)を投げ出すことは自殺することと同義。これ以上の死者を作らないためにも性転換装置を禁止すべきである、とかだった。まあ新興団体なこともあり主張はメンバーごとによってやや異なるらしいが――とにかく、自らの命さえ軽々と犠牲にするTP機構は、その名を口にすることさえ憚られる、何でもありのタブー集団なのだった。



 まあそんないかれた集団ゆえに、自殺覚悟で禁忌とされる性転換装置を使い、一時的に性別を変えてから殺害を行った、みたいなことをしていても何もおかしくはない。

 少なくとも、あの集団相手に、「これはしないだろう」みたいな楽観視ができないことだけは確かだった。


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