八人目探し
さて、鍵を使って1号室に入った私たちは、早速家探しに取りにかかった。
男性棟の各部屋の内装は全て同じらしく、どれも見たことあるものばかりだった。それゆえ間違い探しをする要領で、毒田さんが置いたと思われる物、使ったと思われる物をチェックしていく。
しかし――
「持ち物が何もない? というか泊まってた形跡すらない?」
見た感じリュックやスーツケースは疎か、小型の手提げバックなども見当たらない。加えてベッドや机も使用された形跡はなく整えられたまま。水回りも綺麗で水滴一つついていなかった。
「男性になったけど女性棟の方を利用してたってこと?」
「どうだろうね~。まあそっちも見に行こっか」
全く情報を得られないまま、Ⅰ号室へと向かうことに。
ところがⅠ号室も、1号室同様に使われた形跡が見られなかった。
「こっちの部屋も使われてないって……毒田さんは今までどこにいたの?」
「ふむふむふむ。いいねいいね。面白くなってきた!」
「いや、全然面白くないでしょ……」
変わらぬ狂人ムーブをかますヒエンに呆れた視線を向ける。
彼女はひとしきり楽しそうに笑った後、急に「二手に分かれよっか!」と提案してきた。
「二手に? まあ私は構わないけど、何をするの?」
「ズバリ、八人目を探すっしょ!」
「八人目……そう言えばアンがそんなこと言ってたか」
言われてみれば真っ先にやるべきことだったかもしれない。
私たち六人の中に犯人がいるとは思えない。というか思いたくない。となればいまだに姿を現していない、誰とも会っていない八人目が一番怪しいと言えるはずだ。
「でも探すなら二手に分かれない方が良くない? もしかしたらかなり危険かもしれないし」
「まあ大丈夫っしょ。皆殺しにする気ならもうとっくに動いてるだろうし。それにいざとなったらアンちゃんに縋り付けばぶっ殺してくれるっしょ」
「アンに頼っても助けてもらえるかな……?」
あいつのことだから仮に助けを求めても、『私の仕事ではありません』とか言われて見殺しにされる気がする。
渋い顔をする私を無視し、ヒエンは勝手に役割を決め始めた。
「あたしが一階を担当するから葵っちは二階と三階を宜しく! あ、もし他の人に会ったら八人目を見たかどうかも聞いといてね!」
「う、うーん? まあ了解」
これでいいのかという思いのまま、結局二手に分かれることに。
ヒエンがⅡ号室の扉を叩いている後ろを通り抜け、階段に向かう。
玄関ホール中央に鎮座するアンの横を通り抜け――る直前、私はつと立ち止まった。
「あのさ、念のため聞いておくけど、八人目の、さっき私たちの中にいなかった人がどこにいるか教えてくれない」
『大変申し訳ありませんが、分かりかねます』
想定通りの返答が瞬時に返ってくる。
私がため息をついて歩みを再開すると、アンは続けて『私はドラ〇もんでも〇川さんでもありませんので、何でも答えを持ち合わせているわけではありません。勝手に失望されるのは心外です』と、アンドロイドらしからぬ愚痴をこぼした。
無機質な顔のアンをじっと見つめ、私は言う。
「本当に、アンが何も知らないならそうだろうね」
『ええ。ですから本当に心外なのです』
「……そう」
なぜだろう。直感的にアンが嘘をついているのが分かる。そしてまた、アンも嘘がばれていると知っていてこんなくだらない嘘をついているように思う。
私は冗談ついでにとある質問を投げかけた後、二階へと移動した。




