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みんなが寝静まったころ。
俺は弥生のことが気になり、部屋の前でうろうろしていた。すると、弥生の部屋から泉さんが出てきた。
「あら、昊君。どうしたの?」
「あ、泉さん。あの……弥生は?」
「寝てるわ。熱が少し高いけど……でも運ばれた時より、顔色がよくなってきてるし、大丈夫みたい」
「そうですか……よかった。あの、すみません。俺の問題なのに巻き込んで……」
「何を言ってるの! 昊君の大切なことでしょう?」
「でも……それに樹さんも……」
「ああ! あの人のことは大丈夫! あばらを折って少しは大人しくなるんじゃない?」
骨折るって大事ですよ? 泉さん。
「それにね。昊君のことも、コウ様のことも、『助けられて良かった』って、本人は言ってるの。だから気にしないでね」
そうは言われても二人は倒れてしまった。俺はいたたまれない中「……はい」としか、言えなかった。
泉さんは、そんな俺の肩にそっと触れた。
「そんなことより、樹さんが帰ってきたら覚悟しておいた方がいいわよ?」
「覚悟?」
「魔力を取り戻した昊君との対戦。本人は楽しみにしてるみたい。入院したばかりだっていうのに『今日、帰る』って聞かなかったんだから!」
「え?」
「だから、退院して帰ってきたら樹さんの相手、してあげてね?」
泉さんは笑ってそう告げた。夫と息子は命の危険にさらされたというのにいつものように接してくれる。
優しすぎますよ。泉さん……。
俺は締め付けてきている胸を抑えるために大きく息を吸った。
「わかりました。泉さん」
「うん……そうだ、弥生の様子、見に来たのよね?」
「はい」
「よかったら、顔……見ていってあげて」
弥生には悪いのと思いながらも勝手に部屋に入った。中に入ると葉月の部屋とは違い、ものは乱雑に置かれている。ベッドに横になっている弥生は静かに寝息を立てていた。
瘴気の影響はそこまで出ていないようで良かった。泉さんが言うように、顔色もよくなってきてる。
すると、弥生がうっすらと目を覚ました。
「お? 弥生……目が覚めたのか?」
まだ熱の影響なのか、ぼーっとしながらこくりと頷いた。
「様子を見に来ただけだ。ゆっくり休め」
そう言ったのにも関わらず、弥生はもぞもぞと起き出した。ベッドの上に座りまだ眠そうにしている。
「弥生……起きて、大丈夫なのか?」
「……か、食べたい」
「え?」
「何か……食べたい」
「大丈夫か? 食べられるのか?」
「……うん」
「そうか、じゃあ……お粥、食べるか?」
「……うん」
弥生はぼんやりとしながら、ベッドの上に座っている。
「『卵粥』作ったから、食べられるだけ食べればいいからな」
「……うん」
弥生はお粥を半分くらい食べると、「少し寝る」と言って布団の中に潜り込んだ。
「まだ食欲は戻らないか……でもこれだけ食べられたんだ。大丈夫だろう」
「……昊、ありがと、ごめんね。折角作ってくれたのに……」
弥生は目を閉じたまま、うつらうつら喋り始めた。
「急に食欲は戻らないだろ。瘴気は人間にとったら毒だ」
「うん、でも昊が作ってくれた……ものだから、全部食べたかった」
「何だ、それ?」
「昊、卵料理上手だよね。昔は……果物が好きだったのに……」
「? 果物? 何の話だ?」
「よく、食べてたじゃん? 木になってるもの……もぎってさ」
「だから、何の……?」
「特に……モモ、好きだったよね? ……ソール」
――は?
「今は……食べない、ね? 何……で? ……すぅー」
弥生はそのまま寝てしまった。
え、今、何て言った? モモ? ソール? 俺、ソールだった頃、モモが好きだったって、誰にも話してないんだけど?
弥生は眠ってしまっている。熱のせいで寝ぼけていたにしては、はっきり言っていた。転生してから、あの時のことを思い出すからモモを好んで口にしなかった。だから、それほど多く食べていない。ましてや、木からもぎってなど、現世ではしたことがない。
『モモをもぎって食べた』
それを知っているのは……前世で会った、イズか……ナオ。
俺は頭の中が混乱した。
手が震えてきていたが、弥生が残したお粥の鍋を手に持っていたので、落とさないように必死に堪えた。
もしかしたら……という考えはあった。俺が転生したんだ。イズやナオは封印されているわけではないから、転生してるだろうと。
「弥生……お前はもしかして――」
次の日、回復した弥生に昨日何を言ったか聞いてみた。だが、弥生は覚えていなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。第八章は完となります。
また、次のお話の準備ができ次第載せさせていただきます。いつもお待たせしてしまい、申し訳ありません。
これからもどうぞよろしくお願いします。




