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門を開けると、葉月とミーティスが一番に出迎えてくれた。
「昊! 弥生! ……よかった。無事なのね」
「コウ! お主……ボロボロじゃな」
「ミーティス……うん」
「なんだ? 儂の心配は誰もしてくれんのか?」
みんなが談笑している中、葉月が俺たちの後ろを凝視した。
「……弥生?」
葉月の声に気づいて後ろを振り返ると、門をくぐった弥生がその場に蹲っていた。葉月は必死に声を掛け、背中をさすっていた。
「弥生! ちょっと……大丈夫?」
俺が駆け寄ろうとした時、弥生はその場で嘔吐し、意識を失っていた。
「弥生? 弥生! どうしたの? ねぇ! 弥生!?」
葉月が必死に声をかけるが、弥生の反応がない。
「レイス……レイス! すぐに来てくれ! 弥生が!」
弥生を寝かせて、レイスを呼んだ。コウと話していたレイスはすぐに駆け寄ってきた。
「弥生殿?!」
弥生の顔色がどんどん悪くなっていく。
レイスはその場に横たわる弥生の胸に耳を当てると、険しい表情を見せた。
「これはいかん!」
レイスは弥生の体に光の回復魔法を施した。
吐物に血が混じっていた。瘴気の中に長くいたせいで、体に支障が出てしまったのか?
「レイス……弥生は?」
「胸の音が少し弱まっておる。瘴気のせいもあるが、弥生殿はかなり広範囲の浄化もしてくれていたからのう。負担が大きかったようだ」
「助かる……よな?」
「……うむ」
レイスの声はいつもの自信に満ちたものとは違い、弱々しかった。
「昊よ。お主も半分は人間だ。今の姿のまま維持をしておれ。お主の体にも瘴気の毒は回っておるのだから」
「分かってる」
「……とりあえず、今は早く渡瀬の家に戻った方が良かろう。瘴気の中で治療しても意味がないからのう」
弥生はどんどん呼吸が浅くなっていった。葉月はずっと弥生の手を握り締め、必死に涙をこらえていた。
こんなことになるなら、無理にでも弥生を追い返せばよかった。
後悔の言葉が頭の中をぐるぐるしていた。
渡瀬家に帰るといつも笑顔でいる泉さんも血の気が引いていた。
持ち合わせていた薬草や霊薬を弥生に使用して、更にレイスは回復魔法をかけ続けていた。
「レイス、僕にも手伝わせてね」
「コウお主も傷ついておるのだ。無理は――」
「大丈夫だよ。回復なら僕にもできるから……それに、この子は助けないと」
レイスは大きくため息を吐くとコウを見て頷いた。
「ああ、わかった。では頼む」
コウは弥生の手を握ると目を瞑り、話しかけた。
「大丈夫、君は……戻ってくるでしょう?」
コウがそう言うと、弥生の目がゆっくりと開いた。
「弥生!」
葉月がすぐに駆け寄り、心配そうに見つめる。その横で泉さんが優しく声をかけた。
「分かる? ここはあなたの部屋よ」
弥生は頷き、みんなの顔を確認するように見渡すとまた目を閉じ、寝てしまった。
「ふぅ……意識は回復した。これで大丈夫だろう」
「レイス様、コウ様……ありがとうございます!」
泉さんは涙を流しながら、何度も頭を下げていた。
「良かった。弥生君」
コウも胸をなでおろした。
ふと、樹さんの姿がないことに気づいた。
「あれ? 樹さんは?」
弥生のことがあって、バタバタしていたこともあって、気づくのが遅くなってしまった。
そういえば、異界から帰ってきたときにすでにいなかったし、どこに?
「イツキさんは病院です」
「中川?」
中川はだるそうに答えた。
「肋骨を折る怪我で入院していますよ」
「え?」
「命に別状はありません」
「本当か?」
「はい」
「よかった!」
「今回はボクも疲れました」
中川も相当疲れたのか、ぐったりしていた。
「そうだよな」
「ソラ君。約束守ってくださいね?」
「わかったよ。でも俺が作れるものにしてくれよ」
「もちろんです!」
中川が嬉しそうにメニューを考えている姿を見て、俺はほっと一息ついた。




