15
忘れられていた記憶。
小さい頃住んでいた一軒家に突然バアルが訪ねてきた。出迎えた母が魔物だと気づくと、すぐに父が駆け付けた。だが、二人はバアルの前になす術がなかった。
それは、俺のせいでもあった。
バアルは俺が『ソール』の転生者だとわかり、両親を殺すためそこに来たのだ。
廊下に倒れた血まみれの父、首を絞められ、火をつけられた母。
俺はその時、前世のことを思い出してしまった。ドラゴンだった自分と関わったため、殺された部族のみんな。そして、人間の初めての友、ナオ。
自身の存在を疑い、この事の起こりが自分のせいだと人間に転生したばかりの俺には荷が重すぎた。
俺は自分に火をつけた。
火は次第に家にも燃え移り、火の海になっていた。
存在しちゃいけない。みんながいなくなっちゃうなら、自分が――
その刹那、何者かが俺をその場から連れ出した。
「ダメだよ! 君は生きなきゃダメだ!」
誰?
「せっかく生まれたんだ。君は新しく人として命をもらったんだ! 生きてよ!」
でも……また、みんな死んじゃうんだよ。生まれてきちゃ、いけなかったんだ。
「君は出会うために生まれたんだよ。生きてるもの、そうじゃないもの。これからいろんなものに出会うんだ。そのために生まれたんだから」
出会う?
「そうだよ。だから生きていて、いいんだよ」
生きてて……いいの?
「うん、大丈夫。これから出会う人たちがきっと君の力になる。でももし、どうしてもこの力が必要になったら僕に会いに来て。それまで、この記憶と力は僕が預かるから――」
ああ、君は――
俺をあそこから連れ出したのは、少年の姿をしたコウだった。
「あの時、コウは言ったんだ。出会うために生まれたんだって」
俺は横たわる真っ白いドラゴンの顔にそっと触れた。
「本当に馬鹿だな。お前……こんな苦しむことになるってわかってただろうに」
俺はズボンのポケットに入れていた『ドラゴンの涙』を取り出した。祈るように手で包み魔力を注ぐ。すると、そこから一滴の水が流れ、ぽたりとコウに落ちた。
コウの体が光り出し、人間の少年の姿へと変わった。まだ起きるのが難しいのか、横になったまま俺を見ると、「へへ」と言いながら笑って見せた。
「ソール……今は昊か。君が生まれ変わってくれて本当にうれしかったんだ」
「うん」
「また、この世界からいなくなろうとする君をどうしても助けたかった」
「うん」
「君に嫌われてでもいいから、助けたかったんだよ」
「うん」
ゆっくり起き上がったコウを俺は何も言わず抱きしめた。
「昊……生きててくれて、ありがとう」
「俺こそ、生かしてくれて、ありがとう……コウ」
「無事に事なきを得たようだのう」
空を飛んでいたレイスが降り立つと、俺たちをまとめて抱きしめた。
「レ、レイス?」
「い、痛いよ」
「よかった! 本当に良かった!」
俺たちを抱きしめる中、レイスは泣いていた。
「レイス、早くいこう。門のところに弥生君がいるんでしょう?」
「ああ、そうだ。あの子にはここの瘴気は強すぎるからな」
「急ごう」
門の近くに行くと、弥生が立っていた。
「昊、コウさんから、取り戻せたのか?」
「ああ、無事に」
弥生は「良かった」と言って肩の力を抜いた。
「おかげで僕はボロボロ……」
「さぁ、戻ろう。皆が待ってる」




