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異界――通称・根の世界。瘴気のせいで、ほとんどの生き物が死滅した世界。
耐性がある魔物がいるはずだが、荒野には姿がない。そんな淀んだ空気の先にうっすらと大きな木の影が見える。この世界を支える世界樹。今は枯れ果てた姿をしていた。
「ゴホッ! ゴホッ! 何? この瘴気の濃さ」
「弥生! 浄化魔法で自分を包め! そうすれば、この濃さが少しは軽減される」
「そ、昊は?」
「俺は半分魔物化すれば少しは耐えられる」
視界の先で、レイスはコウに対して魔法をかけ続けていた。
コウはあれだけ縛られていたにも拘らず、いつの間にか口の縄は外れていた。
「弥生殿! 結界を張ってくれぬか! 瘴気を遮断できる! できれば広範囲で頼みたい!」
「わかりました!」
弥生は広範囲を結界で包んだ。瘴気の流れも止まり、先ほどより息がしやすい。
「もっと削がねばならぬか〈絶対零度〉……〈迅雷烈風〉」
畳みかけるようにレイスは魔法を放っていた。
「すごい……昊、あれ、上級の水属性魔法と風属性魔法……だよ。それも詠唱なしの連続?」
「それでもコウは怯まず……か」
更に、レイスはさっき葉月にかけられた魔法の影響が出ていた。最初は腕、次は足と血が滲んでいる。
「っ! 魔力を上げているのに効かぬとは……やはり硬いのう。ならば、これならどうだ!〈灼熱地獄〉……続けて〈大地憤怒〉」
大きな爆発がコウを包む。
「地属性魔法に火属性魔法?」
コウはレイスの魔法を受けつつ、もがきながら縄を剥いでいった。
「コウの奴……弱るどころか、強まってないか?」
コウはとうとう〈拘束〉を破る。動かせるようになった羽で浮上した。それを追うようにレイスも飛ぶ。
「そろそろ観念してほしいところだのう……〈刀光剣影〉!」
レイスがかけた魔法は、無数の方向から光線を出してコウを取り囲んだ。その光線はコウの体を突き刺していった。
しかし、コウの回復力が早い。魔法で受けた傷は一瞬で治ってしまった。
「そんな、上級クラスの魔法でも、傷がほとんどつかないなんて……」
レイスは魔法の反動で体のあちこちで血が伝っていた。
コウは、また体に魔力をため始めた。
「それは、打たせぬ!〈漆黒之闇〉」
葉月がさっき使った魔法だ。だけど、黒い球体はかなり大きい。コウは引きずり込まれると、もがき苦しむ声が響いたが、中から破られてしまう。レイスの力はやはり強いのか、コウの体にやっと血が滲んだ。
隣で見ていた弥生に目をやると、あっけにとられていた。
「どうした、弥生?」
「……レイス様って苦手な属性ないわけ?」
「さぁ……どうだったかな」
そういえば……聞いたことがないな。
レイスはほとんど休みなく、魔法を連続的に出し続けていた。コウは少しずつ傷を作っていたが衰えてはいない。
だが、レイスの体から血は吹き出し、全身血で染まっていた。
俺の手はあと少しで完治する。その手を握り締め、自然と走り出していた。
これで終わりにする。
俺は右腕に魔力を集中させていった。体にドラゴンの皮膚が表れ始めた。
さっきまで息をするのが苦しかったが、少し楽になった。
俺は大きく飛び上がった。
もっと高く。あいつらのもとに行かないと――羽があれば――
そう思ったとき、背中にドラゴンの羽が生えた。
そうだ……この感覚、ドラゴンだったときこうやって飛んでた。
俺は一直線、核のもとに飛んだ。
核の場所はわかってる。
レイスが俺に気づき、魔法を使うのを止めた。
俺はコウの胸のあたりで止まり、体を大きくのけぞらせた。
「厄介なところに隠しやがって! この馬鹿野郎ーが!」
コウの胸の奥に核がある。硬い皮膚に覆われたそこに、思い切り腕を突き刺した。
手に核が触れる。それをしっかり握り締め、引き上げた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「グォォォォォォォォ!」
コウの苦しそうな雄たけびがこだまする。
血まみれの手の中にはしっかりと赤く光る鉱物のようなものがあった。
「はぁはぁ……これが、俺の火の力」
俺はそれを思い切り、噛み砕いた。




