12
全身が痛い。
最後まで魔力の壁が持たなかったせいで、腕を中心に火傷を負った。
「昊? 昊!」
樹さんの結界が解かれていた。結界が解ける時は、かけた本人に何かがあったということ。
まさか――
「葉月! 結界が解かれた! 樹さんは?」
「大丈夫……昊のおかげで無事よ。最初の攻撃で気を失ってしまったの。それで、結界が解除されたわ」
「そうか、無事か……よかった。葉月は? なんともないか?」
「私は大丈夫。でも、昊……この手じゃ……戦うのは難しいわね」
「あと少しなんだ。核の場所もわかってる。あと少し……」
コウは容赦なく攻撃をしようと、体に魔力をため始めた。
もう一撃放つのか? やばい、今度は防ぎきれないぞ?
すると、ミーティスがドラゴンに姿を変え、コウの上に覆いかぶさった。
「コウ頼む! 戻ってきてくれ! このままではみんな、お主のせいで死んでしまう!」
「グゥゥゥ……」
一瞬、動きが止まった。ミーティスの声が届いたのか?
「……コウ」
ミーティスもそれを感じたのか、抑えている力を緩めた。しかし、コウはその瞬間、ミーティスを振り落とし咆哮とともに光線を吐き出した。
「ミーティス!」
ミーティスは門の前まで吹き飛ばされ、蹲って動かない。コウはぎろりと目線をこちらに動かした。まるで動いているものを逃すまいと俺たちに照準を合わせた。
ゆっくりとこちらに歩いてくる。
俺の手はまだ治るのに時間がかかっていた。全身の痛みで力も入らない。這いつくばりながら、どうにかして葉月と樹さんだけは逃せないかと考えていた。
「昊、ごめん……」
「え?」
葉月はゆっくり立ち上がり、振り返った。
「約束……破るね」
そう言い放つ葉月の表情は痛々しくも何かを決めた感じがした。
「葉月……まさか」
葉月がしようとしていることを止めないと、父さんみたいなことになる。
俺の前に立とうとしている葉月に手を伸ばそうとしても、体が言うことを聞かない。
ダメだ……葉月に使わせちゃダメだ! その魔法は使わせない!
「闇の精霊よ。捧げられしは己が命、与えられしは諸刃の剣、対価を払いて汝答えよ……」
「葉月! 使うな! お前がいなくなったら……俺は!」
詠唱が終わった。あとは魔法の発動の言葉を言うだけ。葉月はためらっているのか少し間が開いた。
「やめろ! 葉月!」
頼む! 誰か葉月を止めてくれ!
「……我に力を〈影禍双―—〉」
「……〈拘束〉!」
いつもなら、嫌悪感を抱く声。でも今回は違った。俺はその声を聞いて、安堵する日が来るとは思わなかった。
「来るのが……遅ぇんだよ。レイス」
そこに現れたのはレイスだった。
コウはレイスの魔法によって拘束され身動きが取れなくなった。
「いやー、すまぬすまぬ。遅くなってしまった」
葉月は急に現れたレイスに驚いて、そのまま固まってしまった。
レイスは状況を把握するように見渡すと、倒れている樹さんの方へ歩いていった。
「ふむ、コウも自我を保てなかったか……。形成はすこぶる悪いのう」
レイスは樹さんに手をかざした。何かつぶやくと、かざしている手が光り出し、険しい表情を見せていた樹さんが、次第に穏やかになっていった。
「ふむ、応急処置はした。とりあえずはこれで大丈夫だろう。ミーティスは無事か?」
「うう、無事じゃ! まったく……来るのが遅すぎるのじゃ」
吹き飛ばされたミーティスはぶつぶつと文句を言いながら起き上がっていた。
「はは、本当にすまんな。だが、無事で何よりだ。さて……」
レイスは葉月の横に立つとにこりと笑った。
「葉月殿、その魔法、儂にかけてくれぬか?」
「……え? でも、この魔法は……」
「諸刃の剣であろう? 『影禍双刃』は儂のようなものにかけるべき魔法だ。儂は不死の体故、な?」
「……っ」
その言葉を聞いた葉月は一瞬息をのんだ。
「昊、葉月殿。よくここまで踏ん張ったな」
「……ああ、うう」
葉月はレイスが来たことに安心したのか、大粒の涙を流した。




