9
『さて、体に戻ったなら……僕は意識を乗っ取られるから、覚悟してね』
「ああ、できれば手加減してもらいたいんだけど?」
『うーん、頑張ってみるよ』
「あの……コウさん」
『ん?』
樹さんはさっきまでのテンションとは違い、落ち着いた声でコウに話かけた。
「私を、覚えていますか?」
コウは樹さんの姿を見るとふわりと笑った。
『うん、覚えているよ、君は……樹、だよね』
「はい」
『久しぶりだね。最初、合ったときは小さかったのに……人間はすぐ年を取ってしまうね』
「はは……そうですね」
『今回は君に助けてもらうことになりそうだ』
「いつかのご恩、返させていただきます」
『そんなふうに思わなくていいのに……でもよろしくね。無理はしないで』
「はい。でも一つ」
『ん? 何?』
「あなたを傷つけてしまうこと、お許しください」
『はは、かまわず、思いっきりやってね』
光輝の笑顔を見て、樹さんは静かに頷いた。
「ミーティス、コウの結晶を壊した後、一応異界の門を開ける準備をしてくれ」
「門じゃと? なぜ」
「ここで戦って暴れたらここが崩れる可能性があるだろ? もし崩れたら、みんな溺れ死ぬぞ」
「う……しかし、勝手に開けるのは……」
「レイスが止めてるのか?」
「う、うむ」
『ミーティス大丈夫だよ。レイスもきっと、同じことを言うよ』
「コウ……うー……分かった! 一応……準備はしておく。じゃが、結晶はわらわの魔力を上回れば、いつ壊れてもおかしくない。覚悟されよ」
「わかった」
俺は光輝と目が合い、相槌をした。
あとは――
「葉月!」
「何?」
「もし、門を開けるとなったら、絶対、門の近くには来るな。いいな」
「え? な、なん――」
「いいな!」
「……はい」
不服そうにしているが仕方がない。葉月は異界に行かないほうがいいんだから。
「確かコウさんの弱点は『闇』と『火』だって言ってたね」
「はい」
「なら、葉月の力が役に立つね」
「修行の成果、見せるわよ」
「義兄様……わらわは」
「ミーティスは少しの間だけ結晶の維持と援護してくれ。好きな相手を思いっきり殴るのは、喧嘩する時ぐらいにしておけ」
「っ……すまぬ」
「昊君、ここに来る前にレイス様には連絡した。だが、いつ来られるかわからない」
今回ばかりはレイスの力を借りたかったが……仕方がない。
樹さんはそれぞれの顔をゆっくりと見ながら続けた。
「我らの力がどこまで通用するかわからないが、やれるだけやろう」
「目的は俺の力の奪還。コウが邪竜化したのもその核のせいだ。コウが中で抑えると言っても意識が乗っ取られているとなると難しい」
「できるだけ、力を削いだ方がいいわね」
「コウはドラゴンだった時の俺より強い。邪竜化してさらに強くなってると思うから、絶対に無理はしないでくれ」
「もちろんだ」
樹さんが答えたのと同時にみんなが頷いた。
『ソール』
「なんだ? コウ」
『ドラゴンの涙、持ってるね?』
「ああ」
『うん、ドラゴンの涙は僕から核を奪ったら使ってね』
「わかった」
俺はズボンのポケットの中にある『ドラゴンの涙』を握り締めた。
「弥生はコウの魂が抜けたら、光輝を連れていったん渡瀬家へ」
「うん、わかった」
「中川……今回は何回も往復してもらうことになるな」
「ほんとですよ。これはあとで、おいしいご飯を頂かないと割に合いませんよ」
「わかった。できるだけ、リクエストに応えてやるよ」
「約束ですよ」
「よし、じゃあ、始めるか」




