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コウと話を終え、光輝はそのまま眠ってしまった。眠った光輝を抱え、ミーティスのところへ行くことにした。
今回は、コウとの戦闘にも備え、樹さんにもミーティスの場所についてきてもらうことにした。
「おお! ここが竜王様の住む場所か!」
「ちょっと、父さん! 子供みたいにはしゃがないでよ!」
樹さんは到着すると、建物の柱や床などをしげしげと見たり、広さを確認するため走り回ったりしていた。
ミーティスのいる大部屋につくと、さっきまでのはしゃぎぶりがなくなり、今までにないくらい緊張した面持ちになった。
「樹さん、あの門の前にいるのが、竜王ミーティスです」
樹さんはミーティスの前に立つとその場で片膝を立てて座った。
「竜王ミーティス様。お初にお目にかかる。私は渡瀬樹と申します。わが娘と息子がここで修業を見てもらっているというのに挨拶が遅くなってしまい申し訳ございません」
「うむ、葉月と弥生の父上だな。そんな挨拶など気にせずともよい。わらわはこの子らのおかげで退屈せずにすんでおるわ」
「そのように言っていただきありがとうございます」
「ふふ、そのように硬くなるな。わらわとは気軽に接してくれ」
「いや、しかし……」
「葉月たちとはもう友となっておるからのう、気にするな。それに、この子らを見れば、お主がどのような者かわかる。お主も気軽にここに来るとよい」
「そのように言っていただけるとは……ありがたき幸せ!」
樹さんは神を拝めるように感動していた。それを見て葉月が真っ赤な顔になって恥ずかしそうにしている。
「もう、父さん! いつの時代の挨拶なのよ!」
「え? いや……でも」
「そうじゃぞ? わらわのことは『ミーティス』と呼んでくれ! もっとフランクに『ミーちゃん』でも……」
「ミーティス……おふざけが過ぎるぞ」
「うー……別に呼び名くらい、良いではないか」
ミーティスは口を尖らせながらつぶやいた。
「樹さんはお前にそういうイメージは持ってないんだよ」
「……は、ははは、ミーティス様は面白い方ですな。わかりました。善処いたしましょう」
「うむ、よろしく頼む」
樹さんはしばらくミーティスのギャップに困惑していた。
樹さんは結晶に封印されているコウの目の前に立った。すると、樹さんは手で口を塞ぎ、目を見開いていた。
「樹さん……どうかしたんですか?」
「コ……コウさん」
「え?」
「いつだったか……話したことがあっただろう。小さいころ、私は魔物に助けられたことがあると……」
「ああ、そういえば……え? もしかして、コウに助けられたんですか?」
「ああ、覚えてる。まっ白い、キレーなドラゴンだった。そうか……昊君の前世の弟、だったんだな」
「そうですね」
なるほど、コウが樹さんを助けたというのなら、確かに納得ができる。
「こんな、縁があるとは……となると、光輝君に憑いているというのは……」
「はい……コウです」
「そうだったのか……これから戦うことになるとはな」
「でもそれが、コウを……助けることになるんです」
「あの時の恩を、返すことになるだろうか」
樹さんはコウを見つめ、しばらく目をつむると穏やかに笑っていた。
「そういえば、義兄様。その抱きかかえている子供はいったい……」
「ああ、そうだ! ミーティス、コウを見つけた」
「なんと! 本当か?」
「うん、コウは……この子の中に」
俺の腕の中で光輝はすやすやと寝ていた。
「……まさか、その子の中に?」
「うん」
ミーティスが光輝の顔を覗き込むと、何かを感じ取ったのか、ほっとした表情を浮かべた。
「良かった。魂も傷ついておらぬようじゃな。良かった……本当に良かった」
「しかし、光輝から、コウの魂を取り出すにはどうすれば……」
『心配には及ばない』
光輝はいきなり目を覚まし、俺の足元にぴょんと降りた。
「コウ?」
『準備ができてるなら、すぐに戻れ――』
「コォォォォウ!」
ミーティスは言いきる前に光輝に抱きついた。
『うっ! ミーティス……』
「心配したのじゃぞ! なぜ何も言わずにここを離れたのじゃ!」
『ああ、ごめんごめん』
「わらわは……心配で……心配で!」
ミーティスは光輝の手をぎゅうと握り、しばらく動かなかった。
「本当だぞ、こんなにも心配させて! ミーティスがどれだけお前のこと好きかわかってるだろ?」
「な、ななな、なにをいうのじゃ義兄様!」
ミーティスは真っ赤な顔をして、なぜか焦っていた。
「昊……あなた、デリカシーってものが本当にないわね」
「え? え?」
葉月とミーティスは俺をにらみつけていた。俺にはなぜだかわからない。
『ミーティス、本当にごめんね。ちょっと様子を見ようと思っただけだったんだよ』
「様子?」
『うん、ソールのことが、どうしても気になって……』
光輝は、はにかみながら頬を掻いた。
「義兄様のぉ~?」
ミーティスは恨むように俺を睨みつけた。俺はそれを否定するように顔を小さく振った。
『ソールの核は日に日に魔力が増していってね。僕の力でも抑えるのが難しくなっていったんだ。そしたら一年前、僕を覆うこの結晶にヒビが入ってね。このままだと、ここが危ないと思ったんだ』
「それで、コウ……お前、魂だけ離れようと思ったのか?」
『うん、魂が抜ければこれ以上、核の魔力も強くならないと思ってね』
「しかしそれなら、なぜわらわに言ってくれなかったのじゃ?」
『本当に少し見に行くだけだったんだ。そしたら、光輝のことが目に入ってね』
ミーティスは何か言いたそうにしたが、口をつぐんだ。
『本当にごめんね。ミーティス』
光輝は小さな手でミーティスの頭を撫でた。ミーティスは「うん」と言いながら納得していた。




